91 「静かにコンテスト終了」
先生方が卒倒し、激辛に悶絶しているところ。活躍したのは回復班だった。
各チームに回復担当の生徒は当然いて、もちろんチームの采配、回復魔法が使える生徒の人数によっては1チームに二人いたりするんだけど。
「とりあえず、辛さってのは味覚じゃなくて痛覚だし。回復魔法でもかければ治るんじゃない?(知らんけど)」
という私の一言で、回復班が一斉に治癒に入ったというわけ。
そして当然ながらと言うべきか、サラはレイス先生一人を担当した。男子生徒の回復班は、やたらとライラ先生を癒そうと押し合いへし合いの喧嘩になる。
だけどそこはさすがサキュバス、ライラ先生は色気を振り撒いて「公平に」男子生徒に治癒してもらってた。
もう一人の女子生徒は、もがき苦しむソレイユ先生に回復魔法をかけている。こっちはこっちで別の意味で大変そうで、ソレイユ先生は元々甘党だったのか。激辛のダメージは相当みたいで、一口食べただけで唇がものすごく腫れ上がって、大変なことになっている。
さらにソレイユ先生の根っからの騒音気質によって、悲鳴がギャン泣きしてる赤ちゃんレベルでとにかく声が大きかった。
ちらりとレイス先生の方を見ると、サラはうっとりするような表情を浮かべて回復魔法をちまちまかけていた。いやいや、あんたはもっと一瞬で大怪我を治せるレベルの魔法使えたでしょ!
何でそんな時間かけて初級レベルの回復魔法をゆっくりかけてんのよ! 先生が可哀想でしょ! って思考がよぎった瞬間に察した。
こいつ、少しでも長く先生に寄り添う為に、わざと時間をかけて回復魔法使ってんな?
ちょっとさすがにそれは先生が可哀想だから私が急かしに行くと、サラの肩に手を置いて声をかけようとした時に聞いてしまった。小声で、しかも先生は辛さでそれどころじゃないみたいだから聞こえなかったみたいだけど。
「えへへ、先生が辛くて苦しんでる姿も、かっこいい……。もっと見たいな、もっと見てたいな……。ダメよ、サラ。早く先生を楽にしてあげなくちゃ……」
こいつ、ゾフィみたいなこと言ってんな……。
ちょっと背筋がゾクっとして、声をかけそびれてしまったけど。先生が横目で私の姿を確認すると、なんか多分……なんとかしてくれって言ってんのかな?
まぁそりゃそうか。回復魔法において、このクラスで一番優秀な成績を収めてるサラだってことは、担任であるレイス先生が一番わかってるわよね。
こんだけ時間がかかってんのは、さすがに怪しむわよね。
「サラ〜、先生が可哀想だからさっさと治してやんな? 嫌われてもいいの?」
「はっ! や、やぁね! 手なんて抜いてないわよ? エドガーの激辛が相当だったみたいね! 今すぐ治すからちょっと待ってて!」
そう言って、さっきとは比較にならない光を放って、先生の激辛による痛みは治ったみたいだ。
よっぽどのダメージだったのか、先生はしばらく黙ったまま座り込んでいる。
醜態晒しちゃったとか思ってんのかな?
なんか先生も普通の人間ってところを見られて、こっちは嬉しいんだけど。
「ブラウン、モブディラン……。キャンプ飯のやつは終了だ……」
「それどころじゃないのはわかってるけど、コンテストの方は?」
「……俺は委員長の班に入れる」
うわ〜、ちょっとショック。そう来たか。
カレーライス美味しく出来てたし、先生も美味いって言ってくれてたからちょっと期待してたんだけど。
まぁ訓練テスト的には、確かに料理の内容が完全に優等生だった委員長のメニューに行くかなぁ?
サバイバルキャンプそのものの主旨に沿って、この森で採れる山菜と動物の肉をチョイス。しかも炊き込みご飯は保存をきちんとすれば、翌日も美味しく食べれる。冷たいままでも美味しい。
逆に私が作ったカレーライスは、確かに翌日も美味しく食べれるんだけど。もう一度火を通さないといけないし、なんならもう一度ご飯を炊くか、パンに付けて食べたくなるもの。
そっかー、先生はやっぱ先生だったんだなー。
結果として、優勝……と言っていいのか。トップは委員長のチーム。次に他のチーム、私達は3位となった。
なんか微妙な結果に終わってアレだけど……。
夕食も終わって、私達は寝ずの番を決める話し合いをしていた。
サバイバルキャンプなのだから、夜襲はあるものと想定して夜を過ごさないといけない。
順番を決めてる間、エドガーはテントにいなかった。
サラが探しに行くと言い出したけど、さすがに聖女候補に夜の森をうろつかれるのは困る。
私は何番目でもいいから決めておいてと言って、テントを出た。
どこのテントもまだ明かりがついている。そしてテントの外では、やっぱり順番に寝ずの番をする為に生徒一人が火を起こしている状態で見張りをしていた。
そして先生チームは、今はレイス先生が外に出ているみたい。
私は走って行ってエドガーを見なかったか聞いてみようと思ったけど、無断で徘徊することを注意されたらなんかヤだなって思って回れ右をしたら「モブディラン」と声をかけられた。
「な、なんですか先生?」
「こんな時間に、一人でどこへ行く」
「ちょっとお花を摘みに……」
「こんな時間にか? そういうことは日中の間にしなさい」
チッ、先生には女子の隠語が通じない……と。
私が渋顔したのが丸わかりで、先生は訝しんだ表情でもう一度訊ねてきた。
「何かあったのか」
「えと、エドガーが外に散歩に行ったまま。まだ帰ってないので探しに……」
「夜間の徘徊は危険だと言ったのに、あいつ……」
仕方ない、と言った顔で頭をかくと、先生は私達のテントの方を指差した。
「あとは先生に任せて、危ないからモブディランはテントに戻っていなさい」
「でも」
「でもじゃない。どうせ激辛カレーのことで落ち込んでいるんだろ。ライバル視しているお前に慰めてもらっても、あいつは嬉しくないだろうし。それどころか逆に屈辱だと思うだろうな」
そういうもん、ですかね?
男の気持ちはよくわからんと思いながら、私はとりあえず先生の指示に従った。
「それじゃ、エドガーのことよろしくお願いします」
「あぁ、そっちも襲撃には気をつけてな」
そう言われてテントの方へ向かった私だったけど、今の言葉……。
後から考えてみると、サバイバルキャンプ的な魔物の襲撃のことじゃなくて。
もしかしたら邪教信者のことだったのかな、と今さらながら察した。
***
私がテントに戻ると、寝ずの番の順番を決めてくれてた。
最初にサラ、そして私、ルーク、エドガー、最後にウィル……という順番になったらしい。
初めの方に女子二人を配置したところは、男子陣による配慮だろうか?
ルークとエドガーの順番的に、本来はどっちでも良かったんだろうけど。エドガーがその順番の頃に戻ってるかどうかわからないから、ひとまず四番手にした……という感じかもしれない。
そして最後のウィルは、やっぱり一番攻守共に優れているからかな。ウィルは仲間を守るタンクの役割をすることが多くて、その危機感知も人並外れている。注意深くて、何かあった時に瞬時に防御に徹することも出来る。
だけどやっぱりサラ一人をテントの外に出しておくのは、なんていうか。先の展開がわかっている私としては少し不安。そりゃ襲撃は最終日なんだけど、これまでの傾向からいつ襲ってきても本当に不思議じゃないのよね。
私が一緒に行こうとしたら、ナーシャが制する。あ、こっちのテントにいたのね?
「心配なのはわかるが。君はこの後だろう? 少しは体を休めておかないと。サラ君とは私が一緒についておくから、安心して休んでおいで」
「でも、いいんですか? 幼女の夜更かしは怪しまれます」
「幼い頃、夜更かしするのがワクワクしていたことはないのかね? 初めてのキャンプで興奮して眠れなくなった幼女、という設定も悪くはないだろう」
「設定とか好きですねー」
でも、多少の不安は残しつつ……だけど。
確かに私も今日は疲れたし、休みたいところではあるし、この後は私が寝ずの番をしなくちゃだし。
学園長の言葉に甘えるのは悪くない。
「それじゃあ、お任せします」
そう言って私がテントに入って、ていうか男子と同じテントとかありえねぇ!
でも全員寝袋に入ってる状態だし、何かしようがないし。こんな状況で何かしようとする方がどうかしてるけど。相手はルークとウィルだから、まぁ全然平気か。
よっぽど疲れが溜まっていたのか。寝袋に入って、自分の体温がしっかり寝袋を温めて、うとうとしかけていた時だった。
静かな夜に、突然響き渡る爆発音が聞こえたのは。




