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89 「キャンプ飯といえば?」

 ライラ先生が提示した「キャンプ飯コンテスト」が急きょ開催されて、私達……いや、私以外の生徒全員が活気づいた。どしたん? 一人だけテンション低いのが変みたいになるから、やめてくれませんかね。


「名誉挽回! 汚名返上! っしゃあ! やったるぞお前ら!」

「いきなりのマイナスポイントを取り戻す為に、だね!」

「キャンプ飯か……、その響きだけでなんだかすごく美味そうだな」

「そうとなれば、キャンプ飯で何を作るか、だね!」


 勢いやべー。テンション高ぇー。

 私は一人だけ能面みたいに無表情で、そのノリについて行けてない。

 そもそも私はインドア派なので、別にキャンプが好きじゃない。嫌いかって言われたら、別に嫌いでもないんだけど。どちらかといえば虫が少なさそうな冬のキャンプの方がありがたかった。

 キンとした冷たい空気の中、たくさん着込んだ状態で温かいスープをマグカップで飲みながら、綺麗な夜空を見上げる。吐く息は白く、肌が露出している部分は冷たいんだけど、その冷たさと胃の中を温めるスープが合わさった時、外で食べるキャンプ飯は美味しいなぁって。そう思えるんだけどさ。


 虫に刺されたくなくて生地の薄い長袖、長ズボン。暑くて我慢してるけど、結局生地越しから虫に刺されるという苦痛。暑さで汗をじんわりかいて、非常に不快。加えてみんなのこのテンション。

 私のテンションはみんなと反比例して下がる一方だ。

 外で食う飯のどこがいいのよ。埃かぶって、そこら辺の虫でも入ってきてもおかしくないような場所で作った料理なんて、そんな嬉しい?

 あ、ダメだ。こういう考えは若者は持ってない。今の私は若者なんだ。いや、それでもキャンプはそんなに好きじゃない。全然テンション上がんないわ。


 私が面白くなさそうな顔をしていたからだろうか、横にいたナーシャが声をかけてきた。

 ていうか私につきっきりになる必要なくない?

 今回一番守らないといけないのは、サラなんだが?


「どうした、そんなに憂鬱か」

「まぁ、なんとかみんなのノリに合わせてみせますよ……」

「ふむ。そんなに気負う必要はないぞ。儂も、先生方もついている」


 なんの話?


「邪教信者が襲って来るのは最終日なのだろう? それとも何か、これまでのようにシナリオ通りいかず、早くに襲って来るかもしれない……という不安を拭えないか。無理もない」


 いや、私がテンション低いのはキャンプが嫌でたまらないからなんですけど。

 正直ついさっきまで邪教信者のこと、完全に忘れてたからね?


「案ずるな。いつ何時襲われようと、周辺には騎士団が目を光らせている。それにここには頼れる教師陣、そして君達もすでに敵に太刀打ち出来る力を備えている。みんなを信じようじゃないか」

「あ、はい」


 なんかすごくいいこと言ってくれてるところ悪いんだけど、そんなことよりとにかく20日間のキャンプが嫌でたまらなくて、もはやそれどころじゃない自分がいるのですが。


「よし、まずはキャンプ飯のメニューを何にするか、だね!」

「んなの決まってんだろうが! キャンプ飯といえばこれしかねぇだろ!」

「うん、あれだね!」

「……いくつか候補があるんだが、定番のものがあったか?」


 元気ですねー。

 でもキャンプの定番料理ってなんだろ?

 一応『ラヴィアンフルール物語』のゲーム内では、こういった趣向はなかったんだけど。

 生存することがルールだったから、周辺で食材とかを入手して。採ってきた食材を使って、いくつかあるレシピの中から手持ちの食材で作れるものを選択……っていう感じで作ってたわよね。

 そもそも料理システムがあるゲームだったし、キャンプっていう状況に限らずに手持ちの食材次第で何でも作ってたから、そこまで意識したことなかったな。

 だってキャンプだって言ってんのに、親子丼とかオムライスとか。それキャンプ場で作る機会ほとんどないだろっていう料理を、普通に作って20日間を過ごしてたくらいだもん。

 この世界で定番のキャンプ飯があるのかな。


「パエリア!」

「激辛カレー!」

「バーベキュー!」

「ア、アヒージョ?」


 全員バラバラ!


「おい、ウィル! バーベキューってなんだ! あんなもん網の上に乗っけて焼くだけだろうが! そんなんで他のチームに勝てると思ってんのか!」

「そういうエドガーだって! カレーライスならまだしも、激辛カレーだなんて食べる人を選ぶ料理はやめた方がいいと思うけど」

「ルーク、アヒージョって?」

「いや、なんかキャンプ飯のガイドブックに定番ってあったから、食べてみたくてな。サラのパエリアもすごく美味そうだ」


 意見バラバラで笑うしかない状況ね。

 ここまで意見が食い違うことってある?

 私が他人事みたいに素知らぬ顔をしていたら、全員が私の方を睨みつけて来るものだから思わず構えてしまう。

 あ、やっぱテンション低いの怒られちゃう?


「E! お前が決めろ!」

「はい?」


 唐突に何をおっしゃる。

 え、責任重大なことは嫌なんですが?


「誰の料理がいいか、Eさんの1票で決めることにしたんだ!」


 おい、いつ決めた。


「とにかく腹が減った。このままじゃ決まらないから、Eが決めてくれ」

「頼んだわよ、E! レイス先生が喜ぶ料理で!」

「媚びんな」


 思わずサラにツッコんでしまったわ。

 でも、先生達が審査するとなると……レイス先生も食べてくれるのよね?

 いやいやダメだ、偏った考えをしちゃ!

 これはあくまでコンテスト……? のようなもの!

 ちゃんと公平に、チームとして自信を持って出せる料理にしないと!

 あと、個人的に私とエドガーがメインで作らされそうだから、簡単なものがいい。


 すると急に先生のキャンプ地から笛がなる。

 全員が何事かと、それぞれの代表が向かった。


「あ、なんか追記事項でもあるのかな? 私、行ってくるね」


 逃げよう。そしてその間に考えとこう!

 そそくさとその場を後にして、私と他のチーム各1名が先生達の元へ行く。

 するとライラ先生が張り切った様子で、はやり追加で条件を突きつけてきた。


「各チームでって言ったけど、ちょっと言い忘れてたわ! 各チーム、誰が作ってもいいから品数は1つじゃなくていいわよ! 全員で渾身の1品を作るも良し! 料理の得意な人がたくさんいれば、それぞれが自慢のキャンプ飯を作って出しても良し! 料理1品に対してポイントが入ることになるから、品数の多い美味しい料理を出せばその分ポイントがたくさん入ると思ってちょうだい!」

『それ早く言ってください、先生!』


 ブーイングの中、男性教師二人は我関せずといった雰囲気でのんびりお酒を酌み交わしている。

 おい、仕事中なんでしょ? 何を寛いでんのよ!


「はいはい、言いたいことはわかるわ! でもね、先生はたくさんいろんな料理を食べたいの! みんなの頑張ったお料理をたくさん堪能したいのよ!」


 結局自分が一番楽しみたいだけじゃないか、という言葉を全員が飲み込んだところで。

 追加事項はこれで終わったのか、「頑張ってね!」と手を振って、自分もお酒を飲みに行く。

 教師陣、真面目にやれ!

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