88 「もはやキャンプ」
どうにかラストまで突っ走りたいものです。
時間の許す限り、完結目指して頑張ります。
森の中には当然の如く水源……、川が流れていた。
ほとんどのメンバーは、場所は違えどこの川に近い位置を拠点として、それぞれが夜に備えて準備をしている。
私達は、川を見つけるなり他のメンバーと遭遇。
それでようやく襲撃してきた魔物が、幻であることを全員が察した。
先生に救助され、この川まで案内されると幻惑の術が解けたようだ。どういうことか聞いたら、地質関係を調べていた生徒の一人が教えてくれた。
「森に飛散してる幻惑効果のある花粉は、川の周辺ではその濃度が低下しているみたい。多分、この川の水そのものから清浄なマナが発せられてて、悪意ある花粉が浄化されていると考えられるわ」
それを聞いた私はなんとなく、川のマイナスイオンが空気清浄機みたいな役割を果たしているイメージをしてしまう。だから必然的に生徒のほぼ全チームが、この川周辺を拠点にする……という選択に至ったというわけか。
見ると先生の班までもが、この川をキャンプ地としている。
「なんか結局ここに大集結するんなら、バラバラで森に入った意味なくない?」
一人ごちる私に、ウィルが付け加えた。
「森の特性をいち早く察知出来るか、それを試したかった……っていうのもあるんじゃないかな? ほら、全員で森に入って行ったら必ず誰かが気付くでしょ? そしたらすぐに警戒を解いてしまう。あくまでこのキャンプの想定は、集団からはぐれてしまった時に少数だけで対処出来るか……っていう訓練だから」
「その為のサバイバルキャンプなのはわかったけど。でもここまで密集して拠点を作ってたら、本末転倒にならない? 結局みんなでキャンプしてるようなものだし」
それはサラの言う通りよね。お互いが目に見える範囲内でキャンプしてたら、それこそ「集団からはぐれた状態で生き延びる」という設定が意味を成さない。
しかも先生達まで見えるところにキャンプしてたら、もうそれただのキャンプじゃん。
「まぁ別にいいんじゃねぇか? 今回は勝敗を決めるような訓練でもないし。協力するな、とも言われていない。結局は協調性がものを言う訓練だと思って、俺達は俺達で出来ることをやろう」
ルーク、成長したねぇ。こんな時、昔のルークだったら「野外でどんな料理が食べられるのか」「森にある動植物は食材に出来るのか」とか、そういうことを最優先に考えてそうだったけど。
成長した我が子を見守るような目で、私がうんうんと頷いていると。ずっと不機嫌だったエドガーがついに文句を口にした。
「んなことより、なんで救援弾使ったんだよ! うちだけだぞ! 早速マイナス点叩き込んだのは!」
「だって、あの時はみんなかなり疲労してたし。ナーシャちゃんが転んでピンチのところだったんだから」
「んなもん、俺達で恐竜の野郎をぶっ叩いている間に、サラが回復魔法かけてりゃ何とかなってた状況だろ!」
そういえば救援弾を使った経緯を、私は聞いていなかった。
隣で何食わぬ顔をしているナーシャに小声で訊ねる。
「……転んでたんですか?」
「儂はとっくに状態異常回復の魔法を使って、正常な状態に戻っていたからな。わざと転んで襲われているように見せて、儂が何ともない状態を見せつければ、この森のからくりに気付くかなぁ……と思ったんだが」
両手を組んで、満足そうに微笑むナーシャ。
その顔は喜びと感動が現れている。何感動してんのよ。
「小さな女の子を助ける為に、全員が敵に立ち向かう姿は実に素晴らしかったよ。だが、疑問を抱く暇もなく、真っ先に救援弾を使ってしまうとは……。儂も想定外の行動だった。ギブの決断が早い生徒だと、別の意味で感心したよ」
エドガーがするはずない。恐らくウィルは転んだナーシャを助けに行ってるはずだから、そんな状態で救援弾を撃てるだろうか?
そうするとルークか、サラ?
「……ごめんね、エドガー。咄嗟に救援弾を使っちゃって」
サラかー。
両手を顔の前で合わせて、小首を傾げて可愛らしく謝罪する。
その仕草をするやつに限って心の底から謝っていないという説を、私は推す。
「お前にしてはらしくねぇじゃねぇか。いつもはどんなに危険な状態でも、自分達の力でなんとかしようとしてたくせによ」
サラ相手だとちょっとマイルドになるエドガー、なんなん?
まぁ最初から幼馴染のサラのことが好きっていう設定あるから、それ知ってる私としてはニマニマしてしまう光景ですなぁ。いつも尖り散らかしてるエドガーがまん丸になるの、ファンの間でも「そのギャップがたまらない」と相当に人気があったのを思い出す。
私はそもそも暴力的なキャラはそんなに好みじゃなかったから、そこまで刺さらなかったけど。
「ちょっと、混乱してて。本当なら全員が状態異常にかかってることも、回復役の私が真っ先に気付かないといけない状況だったのに。……本当にごめん」
「サラ、ちょっとマイナス点が入っただけだから、そんなに自分を責めないで! これから巻き返せばいいんだから。エドガーだってわかってくれてるよ!」
「おめぇにフォローされたかねぇわ! わかったから、さっさとキャンプの準備すっぞ! こっから巻き返しだ!」
なんとか丸く収まったところで、先生から集合の合図がかかった。
いつもどこから出してくるのかわからない笛をピーッと鳴らして、全員が先生達のテントへと集まる。
なんか、これもう本当にただのキャンプじゃん。
「まずはここまでお疲れさん。これからこの森は夜を迎える。野営の仕方は授業の時に教えたはずだが、どんな時も教科書通りには行かない。事態を素早く、的確に把握し、それに対処する。チームで協力して朝まで乗り切って欲しい」
『はい!』
そう注意を促すレイス先生に、横からライラ先生が真面目な顔をして腕を突いている。何か話したいことがあるのか、二人でヒソヒソと話をした後、レイス先生は演説の場をライラ先生と交代した。
「みんなーっ! ここまでよく頑張ったわね! でもさっきレイス君が言ったみたいに、夜はとっても危険! だから夜に備えて腹ごしらえはとっても大事よ! そこで先生、考えちゃった! 今夜のキャンプ飯、各チームで美味しい料理を作って、それをみんなで審査! どこのチームが一番美味しく作れたのか、ポイントゲットのチャンスを設けたいと思いまーす!」
「ちょっと! キャンプ飯の注意事項の説明じゃなかったんですか! 何を勝手に!」
先生達が喧嘩を始めてしまった……。
どうやらライラ先生は、本来の享楽的思考を無理やり押し出してきたみたい。
「いいじゃない、レイス君! 何事も楽しむことは大事よ! それによって今後の生存率に関わることだってあるんだから。それにせっかく夏休みのキャンプ経験なんだもん。やっぱりいい思い出作りたいじゃない!」
「あんたが楽しみたいだけだろうが!」
「いえーい! 俺は大賛成だぜ! いいじゃんか、たまには楽しみながら訓練しようぜ!」
「ソレイユ、お前までっ!」
2対1でレイス先生が負けてしまったみたい。
私は夏のキャンプ特有の、暑さと虫さえなんとかなればそれでいいんだけど。
ライラ先生の鶴の一声で生徒全員がテンション上がってきて、なんだか一人取り残されたような気分になる。
読んでくださり、ありがとうございます。
どうやら後半戦に入ってるみたいなので、どうぞ最後まで読んでくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。




