82 「いつものA組」
更新が遅れてばかりで申し訳ありません。
出来る限り投稿するよう頑張ります!
先生とのハグはとても長く感じられたけど、実際には一分にも満たない時間で先生がポンと頭に手を乗せて終わりを告げる。子供扱いなところは相変わらずだなと思いながら、私は真っ赤な顔を伏せたまま後退するように離れていく。
うつむいていたから先生の様子をしっかり確認することは出来なかったけど、妙な沈黙から察するにきっと先生も照れているに違いない。
だけどそこは大人の男性らしく、先生の方から沈黙を破ってくれた。
「まぁ、そういうわけだ。俺じゃあ頼りないかもしれないが、これでも一応お前の担任で……騎士団の長も務めているからな。困ってることがあったら、遠慮なく言って欲しい」
「頼りないって思ってるわけじゃ、ないですよ……」
ダメだ、私が何を言っても先生のことを心から信じていないようにしか聞こえない。信じてないわけじゃないのよ。私は先生の未来を守りたいのであって、先生に私のことを守って欲しいわけじゃないから。そんなの上手く説明できっこない。自分でも何をどうしたら良いのか、全然わかってないんだもん。
「私は誰よりも先生のことを頼りにしてます。先生のこと、信じてるから。無理して欲しくないし、危ない目にあって欲しくないだけ。あっ、別に先生が弱いとかそういうことを言ってるんじゃないですよ!?」
あーもう!
「お前が言わんとしていることはわかってる。だから、いい」
それだけ言うと、先生は私の頬に手を添えて無理やり視線を合わせた。私は恥ずかしさのあまり顔が引きつってしまう。本当は自分史上一番良い顔で先生に見てもらいたいんだけど、どうしても先生相手だと緊張が先に勝ってしまう。心に余裕がない。
それでも先生は珍しくにっこり笑うと、表通りへと歩いて行く。私は先生の背中を追いかけるように走った。
***
いつものように、例の如く先生は学生寮の玄関前まで送ってくれた。そこでは私達は特に「何もせず」別れて、部屋へ帰ろうとしたら次々とクラスメイトが押し寄せてきた。
「モブディランさん! 実家はもう大丈夫なの!?」
「困ったことがあったら力になるから!」
「置き手紙だなんて水臭いよ!」
「辞めたかと思ったわクソハゲ!」
最後の絶対にエドガーじゃん!
ともかく『寵愛』がもたらす効果とはいえ、私はみんなに謝罪をして、今夜は大盤振る舞いのご馳走を作るという約束をして許してもらうことにした。みんな私の作る料理が一応気に入ってくれているみたいで、ご飯作るだけで免罪してもらえるなら安いものだと思う。ルークなんか今までに見たことがないくらい顔の表情筋がゆるゆるで、デジカメがあったら写真に撮ってるとこだわ。
帰宅早々、時間がかかると言って私はキッチンを占領することにした。手伝おうかというお声もいただいたけど、一人の方が効率よく回せるし、何より私の罪滅ぼしで作るんだから、そこは遠慮しといた。エドガーも割と料理が出来る方だから便利なんだけど、口うるさいから邪魔なのでこっちも勘弁してもらった。
まぁ本人は作る着なかったみたいだからいいんだけど。
みんなそれぞれ自由に過ごしてもらっている間、私はいそいそと段取りを考えながら下準備を進めていた。すると横からススス……っとサラが近づいてきて、私に小声で話しかけてくる。
「本当は何があったの? レイス先生にも内緒で消えるなんて。置き手紙を先生に見せた時、ものすっごい怖い顔してたんだから」
ひぇえ、想像出来るから怖ぁ……。サラは自分にだけは事情を説明してくれるものだと信じているようで、私からの返答を待っているみたい。いや、言うわけないでしょ。これでも一応私は、聖女であるあなたとは完全な敵対関係にあるんですよ。恋のライバル的な意味でも、なんだけどさ。
「個人の都合で長期休暇を勝手に決めたことに怒ってたのよ。実家まで迎えに来てくれた時に、先生が言ってた。そりゃ自分が受け持つクラスの生徒が自分勝手なことしたら、担任としては黙ってないでしょ。本当にそれだけ」
嘘は言ってない。
「実家で何があったの?」
「そこまで言わないとダメなやつ?」
「みんな心配してたんだから!」
そりゃわかるけど、なんでプライベートなことまで何でもかんでも話さないといけないの? だから全部オープンな陽キャは苦手なのよ。
「家庭の事情だから、そこは秘密です」
「ずるーい! 私にだけこっそり教えてくれると思ってたのに!」
「あんた、入学早々私に何をしたか忘れたの?」
ヒロインの裏の顔、私は一生忘れないかんな。それはさすがに気にしてるのか、むぅっとした表情になりながら黙るサラ。そのほっぺた一杯に空気を溜め込んで怒ってる風を装うやつ、多分幼児とサラしかしないからね?
さすがにあざとい通り越して人間性を疑うわよ。それでも私は我関せずを貫いて、調理に忙しいフリをする。いや、実際忙しいんだけどね。
するとサラは少し思い詰めた感じになって、私にだけ聞こえるように話を続ける。
「最近、特に先生と仲が良いよね」
「そうかな? 先生は生徒みんな、平等に扱ってると思うけど」
「……よく一緒にいるところ、見かけるもん」
「それは私が単に問題児だからでしょ」
女の勘、ぱないすね。さすがにサラだけ勘付いてる……だなんて悠長なこと言ってられないかもしれない。一人の生徒を特別扱いしてるだなんて噂になったら、先生の立場が非常に良くない。
未だに先生が私のことを好いているだなんて信じられないけど公にするわけにいかないから、すっとぼけるしかないのよね。なんだろう、それ以上に私自身そういった実感がないせいかもしれない。
あれだけ先生に積極的なアプローチを受けておいて、実感がないなんて……。自分が信じられない。だって、それこそ他人事のような、俯瞰して見ているみたいな感覚なんだもん。自分が「先生の特別な人間」になれると、心の底から思ってないせいかもしれない。
そんな風に思って、それを口にしてもサラは疑わしそうな目線で私を見据え、それからため息をつくと納得したように肩をすくめた。
「わかったわよ。今はそういうことにしといてあげる。でも私だってまだレイス先生のことを諦めたわけじゃないからね?」
なんかよくわからないけど恋のライバル宣言をして、サラはのしのしと行ってしまった。なんていうか、もっとのほほんとした純朴な女の子っていうイメージを持っていただけに、これだけ情熱的に宣言出来るサラが私の知ってる聖女サラとは思えない。かけ離れている、とまでは言わないけど。画面越しに見続けたキャラクターと、実際に会って話をするようになった生身の人間とでは、こんなにも人間性が違って見えてくるものなのかな?
思ってる間に、火を通していた食材が次々と完成に近づいて行ったから、私は料理に専念する為に余計なことを考えるのはやめた。
二日分はありそうな豪勢な食卓になって、みんな目がキラキラしていた。次から次へとお皿に取り分け、おかわりをし、あれだけたくさん作った料理のお皿がどんどん空っぽになっていく。こんな風に自分が作った料理がみんなのお腹の中に収まっていって、これはこれで作り甲斐があって気持ちがいい。
少しは残るかなと思ったけど、みんな満腹になるまで食べてくれて、食器洗いなどの片付けはみんなで役割分担をしたからとても早く終わらせることが出来た。
食後にみんなでお茶やコーヒーなど、温かい飲み物で胃袋を休ませてくつろぐ。最初の頃に出来上がっていたグループで固まっているのは相変わらずだったので、私は一人ゆっくりと紅茶をすする。
だけどなんで右側にルーク、左側にエドガーが鎮座してんの?
「お前、ヤンニョムチキンの辛さはあんなもんじゃ足んねぇだろ! もっと激辛にしろや!」
「それじゃあ食べられる者が限られてくるだろ。俺はあれくらいでちょうどよかったぞ」
「犬の餌でも喜んで食うやつが意見してんじゃねぇ!」
「さすがに犬の餌は食べないが、美味いなら今度食べてみても……」
「ぶぁーか! 食ってんじゃねぇ! 腹壊したら俺のせいになんだろうが!」
どうして私は二人の漫才を聞かされなくちゃいけないの? つーかこの二人、仲悪そうなのになんでセットで会話してんの? そしてなんで私はこいつらに挟まれてんの?
私が眉間に思い切りシワを寄せながら紅茶をすすっていると、にこにこ顔のウィルが通りがかって余計な一言をお見舞いしてきた。
「二人は本当に仲が良いよね。エドガーもEさんのことすごく心配して、探しに行こうとしてたから。無事に戻ってきてよかったじゃない」
「あぁ!? 誰が誰をだとぉ!? ウィルぶっ殺したらぁ!」
あー、うるさい。
でもこれがいつも通りのA組のやり取りなんだなって思ったら、ーーなぜかほっとする。
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