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76 「ジンという男」

 本家と分家という間柄もそうだけど、モブディラン夫妻とジン・レンブラントは今も密接な繋がりを持っている。

 それはこの間、先生とモブディラン家に来た時に発覚しているから確かだ。少なくともジンは、堂々とこの家を出入りする程度には、夫妻との繋がりが深いことを意味している。

 それがどういった形で密接なのか。ただの親戚付き合いなのか、協力関係にあるのか、それとも何かしらジンに脅迫されているのか。

 夫妻の内、父親の方は難しい表情に変わったけれど、母親の方はあっけらかんとした表情で頬に手を添え、不思議そうに首を傾げていた。


「あら、Eちゃんはジンちゃんに興味があるの? 私はてっきり、この間一緒に来てた先生に好意を持っているものだと、そう思っていたんだけれど?」

「そ、そういうんじゃありませんから! 少なくともジンに関しては、そんな感情一切ないから誤解しないで!」


 私は真っ赤になりながら、全面否定をする。先生に関しては、まぁ……事実なんだけど、え? 母親の目からはそういう風に映ってたの? めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!


「二人は知ってるの? ジンは邪教信者なのよ? この国で邪教信者に加担する者は、重罪に問われてしまうの! それを知ってて、ジンとの交流を続けているのはどうして?」


 二人は困った風に顔を見合わせて、肩を竦めながらそれに答える。私、何か変なこと言った?


「ジン君が邪教徒に与していることは、私達も知っている。このラヴィアンフルール国で、邪教宗派に関係する者が罪に問われることも、もちろん承知の上だ」

「それでもジンちゃんは、私達の遠い遠い親戚だもの。無下にするなんて可哀想だわ。表立って協力することは出来ないけれど、ジンちゃんも私達が変に疑われないように、ちゃんと気を使ってくれているのよ?」


 本当にそれだけ? もしそうなら、この夫婦は危機感が無さすぎる、よほどのお人好しだ。


「ジンが、たくさんの人間を殺していることも?」

「彼も元は暗部だからね。そりゃあ任務でそういったことをするのも……」

「そうじゃない。任務とは関係なく、自分の利の為に殺しをしていることも知っているのかって聞いてるの」


 これは、夫妻にとっては意地の悪い聞き方かもしれない。確かにジンは人を殺していたけど、その相手が全く罪もない人間だったのかと、私が逆に問われたら答えられない。

 私が見たのは、獣人を虐殺していた騎士相手に、ジンが口封じの為に殺していたところだけだ。

 彼等が「何の罪もない人間」だったかどうか、その確証はどこにもない。Eの記憶にあった騎士以外に、もしかしたら任務だと割り切れずに葛藤していた騎士がいたかもしれない。

 だから私はあえて「自分の利の為に殺しをしている」という言い方をした。そこだけは間違いなく、そうなんだと……私も思うから。


「悲しいけれど、私達はジンちゃんを温かく迎えることしか出来ない……。例えEちゃんの言うように、ジンちゃんが自分の利益の……、正義の為に他人を殺めているのだとしても。私達はジンちゃんのすることに口出しなんて出来ないわ……」

「いくら親しい親戚だからって、罪を見て見ぬ振りするのは間違ってる! もしかしたらジンが手を下した相手の中に、本当に何の罪もない人間がいたのかもしれないのに!」

「E、誤解のないように言っておくが……。ジン君は決して、罪もない人間を殺めたりなんかしないよ」


 初めて、父親が真っ直ぐとした眼差しで、そう口にした。その瞳は汚れない、純粋なものだった。嘘はない、そんな眼差しだった。


「どうして、そんなことが言えるの?」

「彼は潔癖で優しすぎる。潔癖過ぎるが故に、自分の信念にそぐわない命令には、決して従わなかった。彼はそういう男なんだよ」

「ジンちゃんは絶対に、ターゲットとなった相手の身辺調査をしていたわ。どういう人物か、家族は、人となりは……。そういう細かいところまで徹底的に調べ上げて、本当に心底クソみたいな人間しか手を下さなかったの」


 今、クソって言った?


「確かにジン君の手は、血で汚れていたのかもしれない。私だって、この世に殺されていい人間がいるだなんて思いたくないからね。だけどこれだけははっきりと断言出来るよ。ジン・レンブラントという男は、悲しい程に純粋過ぎる男だと……」


 そう、なの? あの神経質そうな男が? やたらと噛み付いてきて、明らかに先生に対して器が極小だったあの男が? でも夫妻の顔は真剣そのものだ。今まで見てきた夫妻の、ほんわかとした表情じゃない。「これだけはわかってほしい」という気持ちが、その表情からひしひしと伝わってくるみたいだ。


「……わかった。二人の言うことはよくわかったわ。理解した上で、改めてお願いしたいと思う。二人がそれだけ信用している、そのジン・レンブラントに……。私と会う機会を与えてほしい」


 私は至って真剣な顔で、……と言っても顔はモブらしくとてつもない簡素な顔のままだけど。ここに来るまでモブスキルをフル活用で来たから、オフにするの忘れてた。

 だけれど夫妻はまたしてもお互いに顔を見合わせて、どうしたものかと視線で言い合っている様子だ。まだ何か紹介出来ないような問題でもあるわけ? 何がそんなに不都合なの? やっぱりかつて大切にしていたEが、ジンと会うことは躊躇われるということ?

 すると母親が困った風にため息をつくと、頬に手を当てて肩を竦める。


「ん〜、会う機会を与えて欲しいっていうことみたいけど……」

「何? まだ何か私とは会わせられない理由があるの?」


 前のめりに問いかける私に、父親が頭を抱えるようにして白状した。


「実は……、もうそこにいるんだよ」

「は?」


 父親が指を差した方向に私は視線をやった。夫妻の私室の、アンティーク調の本棚の真横……。見たところ何もないけれど、謎はすぐに解けた。


「モブディラン夫妻! 私がいることは内密にと言っただろう!」

「うわああっ、びっくりしたぁっ!」

「おい! それは驚きすぎだぞ、E・モブディラン!」


 その甲高い叫びと共に、本棚の真横から突然ヌゥッと男が現れたものだから、私は思わず引っくり返りそうになるくらい驚いた。何もないはずの場所から、突然変質者が出てきたらそりゃびっくりするのも無理はないと言いたい。

 それでもジンはご丁寧にツッコミを入れてくる。案外そういうところは律儀な奴なのかもしれない……。そんなことより、見た感じ完全に吸血鬼の方ですかって聞きたくなるような、顔色の悪いビジュアルをしたジンがイライラとした仕草をしながら、モブディランのご主人に向かってネチネチと文句を言い始める。

 本物の地団駄を私は初めて見た。すごい、本当に地面をげしげし踏みつけて悔しさを表したりする人間いるんだ。


「まぁまぁ、落ち着きなさい。ずっとそこにいたんだから、ジン君も聞いての通りだよ。私の大切な娘Eが君に会って話をしたがっているんだ。どうか聞いてやってくれないかい」

「ジンちゃん、お願い。後でロマネコンティをご馳走してあげるから」

「だから私は下戸で酒は飲めないと、何度言ったら理解してくれるんだね」


 すごーい、邪教信者の幹部で凄腕の暗殺者が、うちの両親と対等にお話ししてるー。……なんて感動している場合じゃないわね。どういうわけか知らないけど、ジンはモブディラン家占有スキルとも言うべき『ステルス』で、ずっとこの部屋に潜んでいたみたい。その辺はさすが本家と分家、スキルの特性が酷似しているというかなんというか。

 でも結構長い間ここで父親と滞在していたのに、ジンの『ステルス』効果時間の長さと言ったら……。ざっと三十分以上は余裕で使用しているように感じた。能力値の違いをまざまざと見せつけられたような感じだわ。

 さすが暗部に所属していた凄腕暗殺者だけあるわね。性格とかそういう諸々は置いておいて、そこだけは本当に優秀だと認めざるを得ない。


 両親ののほほんとした雰囲気に根負けしたのか、ジンはとうとう諦めて肩を落とすと「ふん」と鼻を鳴らしながら、肘掛け椅子にどかりと座る。腕も足も組んで、偉そうにアピールしているけどモブディラン夫妻にだけは本気で頭が上がらないということがわかった時点で、こいつの威厳はとっくに失われているようなもんだ。

 私もついつい舐めてかかってしまうかもしれない。私はレイス先生以外なら、結構悪態をつける自信がある。


「じゃあせっかくだから聞かせてもらうわ」

「答えられるものにしか答えんぞ」


 腹立つー。いちいちそういうこと言う必要なくない?

 まぁいいや、いつもの負け犬の遠吠えと思っておこう。


「ヴォルフラムとは、いつから……どういう関係だったの?」


 ゲーム内でヴォルフラムがジンのことを慕っている描写は一切出て来なかった。だからEの記憶を見て、私は驚いた。Eだけでなく、ジンとヴォルフラムも昔から何かしらの関係を持っていたということに。まずはここから洗い出して行けたら、と思う。ジンが素直に話してくれたら……だけど。


「……」

「何? 早速話せない内容?」

「ヴォルフラムとは……、奇妙な縁で知り合ってからの付き合いになる」

「奇妙な縁?」


 ジロリと私を睨め付けるジン。

 この先は極秘情報、重要な話だとでも言うように。声を潜めて、明かした。


「ラヴィアンフルール国王と、サキュバスの娘との間にヴォルフラムは生まれた。言うなれば私は彼の後見人に近い、とも言える」


 え……っ、どういう……こと?

 私は驚愕どころか、それ以上言葉が出て来なかった。

 ヴォルフラムの出生……、彼のルートでもそこまで詳しく明かされていなかったけれど。異種族であるサキュバスが母親だなんて、私は初耳だ。

 

 チカチカと頭の中で何かがフラッシュバックする。

 

 私が今まで見て来たヴォルフラムの髪の色は、夜のような黒い髪だった。

 Eの記憶の中の彼は……、髪の色が赤かった?


「ヴォルフラムの、母親の髪の色は……?」

「……夜の闇のような、漆黒の色だよ」

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