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70 「一緒にすんな」

 私は複雑な気持ちだった。

 自分よりもずっと前からレイス先生のことが好きで、両片想いにまでなった女性と会うことがとても複雑で、正直嫌だな……という気持ちだった。それが今では、自分と同じように推しをひたすら尊いって口走るような、熱量が尋常じゃない厄介な拗らせオタクだったという事実を目の当たりにして、とっても複雑だった。


「なんかひどい言われようだけど、自覚はしてるから別にいいわよ。自分でも気持ち悪いんだろうなぁって思ってるんだから。でもこの気持ちは抑えられないの! ずっと表に出さないように演じてきたんだから!」

「完璧に演じられたようで何よりです……。っていうか、よく誰も気付かなかったですね」


 呆れたように言う私に、リンは誇らしげな顔で胸を張る。


「一部にはバレてたみたいだけど、ほとんどの人達は知らなかったと思う!」

「あ、ちなみにレイス先生には……?」


 レイス先生は、こんなイタタタな拗らせオタクを受け入れるタイプなのか否か。

 それだけは念の為に確認しておきたかった。……自分の保身の為に。


「レイス君にはさすがにバレてたなぁ。まぁ一緒にいる時間が長くなるとね。それに本人目の前にして、冷静でいられるとでも?」

「いられない。むしろ今にも内臓全部吐き出しそうな位、緊張し過ぎて挙動不審になる」

「そうそう、その度に本人から『大丈夫か?』って心配されて、さらに無自覚に近づいてくるもんだから、やめろおおお近づくなあああってなっちゃう!」

「わかるわかる。先生ってその辺鈍いというか、無防備に普通にボディタッチとかしてくるから、余計に目が泳いじゃうの!」

「なるなる! だからこっちも誤魔化すように、レイス君のほっぺたを両手で押さえつけて、無理やり変顔にさせて、その場を凌いじゃったりとかするよね!」

「それはない」


 もう、どっちがどっちなのかわからなくなる位、同調がやばいことになってる。

 危うく同じ穴のムジナ? 類は友を呼ぶ? みたいになるところだった。

 えっと、今これは……何の時間だっけ?


「ま、そういうことだから。つまり私とあなたは、この世で最もレイス君を幸せにしたいと思っている人物、という意味で魂が同調したの。安心していいのよ。私の魂があなたの魂を呼んだだけで、あなたは別に私の生まれ変わりでも何でもない。あなたはあなたよ」

「そう……か、うん……。それ聞いて安心した」


 内心ではちょっとだけ、もしかしたらって思ってた。

 レイス先生が私のことを好きになるだなんて、そんな意味不明な状況を説明するのに事足りる理由が『リンの生まれ変わり』なんじゃないかって、そう思ってたところがあったから。

 リンの生まれ変わった姿だから、レイス先生はどこか惹かれるところがあって、気になって、好意を持ったのだと考えたら辻褄が合うもの。


「こうして別々の魂で対面してるでしょ?」

「うん」


 私は心の中で相当にリンのことをひどく扱ってきたような気がするけど、それは気にしたりしないのかな。心の声は筒抜けなんだっけ? うん、なんかごめん……リン。


「私がまだ生きてレイス君に会えるって状況なら、恋のライバルとしてこうはいかなかったかもしれないけどね。でも、あなたなら別にいいかなって思えたから。レイス君が選んだ人だもん。それにこんなにレイス君のこと想えるのって、私達だけだよ。現状幸せ者のレイス君を、本当の意味で幸せにしてあげないと」

「うん……、そだね」


 なんだか苦しいけれど、リンはそういうところがすごいと思う。強者の貫禄なんだろうな。

 かつてはレイス先生と想い合った仲なんだから、ここまで達観出来るのは凄いと思う。私なら無理だ。きっと自分が死んで魂だけの存在になって、先生に新しい恋人が出来たりしたら、きっと嫉妬に狂って暴れてるかもしれない。


「そうやって自分のことを卑下するのは良くないよ? それに、あなたはそんなことにはならない。きっとそこにレイス君の笑顔があるなら、あなたは一層喜んでいるはず。同じだからわかる。今のレイス君、あなたといると幸せそうだもん。そりゃちょっとは悔しい思いもあるけど、でも笑顔でいてくれてるから私もすごく嬉しいの」

「リンは凄いよ」

「結局、私をきっかけに二人の友情が壊れちゃったことを思うと、やるせないけどね」


 レオンハルト……。

 

「レオンハルトともこんな風に、夢の中で会ったりすることは出来ないの? リンが言えば、レオンハルトは言うことを聞くと思うんだけど」

「それは無理ね。そこまで万能じゃない。完全同調してるから、こうして夢の中であなたと会えてるだけだもん。もしそれが自由に出来るなら、とっくにしてた」


 そっか、そうだよね……。


「それに毎晩のようにレイス君に夜な夜な会いに行ってた」

「その執念だけは変わらないのね」


 本気で悔しそうに、握り拳を作ってわなわなしているリン。

 そうまでして会いに来られると、それはもう悪夢になるのでは?


「ま、そういうのは置いといて。この世界に転生した理由は、これでわかったかな? レイス君を救ってもらう為に、私があなたの魂を呼んだ。Eの肉体を器にして魔王復活の儀式を行なった時に、魔王の魂と一体化していた私は、代わりにあなたの魂をEの肉体に転生させた」

「え、じゃあそうすると私はやっぱり魔王でも何でもないってことにならない? あれ? だったらあの【寵愛】は? あれって神様と聖女と、それに魔王しか保有出来ないんだよね?」


 納得しかけたのに、また混乱してきた。


「私があなたを呼んで、その時に魂が接触したのかもしれない。だからその時に私の中にあった魔王のカケラのようなものが、もしかしたらあなたの中に宿って、魔王と同じステータスを保持することになったんだと思う」

「あー、じゃあ能力的にというか、存在的に魔王と変わらないってこと?」

「そういうことになるわね。魔王復活の儀式は条件が色々と必要になって来るから、おいそれと行なうことは出来ないはず。邪教信者達はあなたが魔王である限り、もう一度儀式をやり直す……なんてことしないと思うわ」


 そうか、だったら邪教宗派にとって私はまだ魔王としての価値があるってことね。

 私が魔王である限り……、みたいだけど。


「何か、方法とかはあるんですか? 例えば全員がもれなく救われる道とか。そういった手掛かりとか、アドバイスとかがあってコンタクトしてきたってことですよね?」

「……?」


 え?


「あ、いや……、え? プランとかない、なんて言わないですよね?」

「……??」


 あの、待って。

 その「私は何も知りません」みたいな、ほんわかした顔で誤魔化そうとしないで? 

 嘘でしょ。


「なんで呼んだんですか」

「いや、だからあなたが何か方法を考えてくれるんじゃないかなぁって? ゲームとか私にはよくわからないけど、レイス君の色んな結末を、あなたは知ってるってことよね。それはつまり未来予知が出来るってことだから、あなたならそれを駆使して何とかしてくれるものだと……。私としてはあなたを呼んだ理由とか、そういうのを説明してレイス君を助けてほしいってお願いするつもりで、呼んだんだけど……」

「え、なに、それじゃリンは完全に私頼みで?」


 無邪気にこくんと頷く。

 なぁにが優秀なハーフエルフよ!

 首席入学?

 最優秀な成績を修めて卒業?

 暗部で活躍した『金色の乙女』?

 聞いて呆れる!


「ひどっ! そこまで言うことなくない!?」

「だってあれだけ意味ありげに、ちょくちょく出てきてはみんなの心をかき乱してきた人が、最後の最後まで何の手助けも出来ませんってある!?」


 こういう位置付けされたキャラってさぁ!

 大体何か特別な策があるとか、レオンハルトの弱みを握ってるとか、隠された力を解放してくれるとか、そういうのあるじゃん!


「つまり何か……っ、何か情報が欲しいのねっ!?」

「いや、……え? 何かくれるの?」


 私に唐突に責め立てられたリンは、その場を凌ごうと何か秘策を思い出したみたいに、両手を振って制止する。


「学生時代、私は特訓に特訓を重ねて、この身体の割に体術が結構得意なの! 小柄ならではの戦い方があってね」


 もしかして体術を伝授してくれるとか、そういうのかな?


「そこで私は同じく、体術の得意なレオンにも負けたことがないわ」

「大柄とまではいかなくても、結構な体格差があるのに、それは確かにすごいかも……」


 得意満面な表情になるリン。


「でもレイス君に勝ったことは、一度もなかった」


 へぇ、レイス先生って体術とか結構すごかったんだ。

 あれ? でもそれじゃレイス先生より体格がいいレオンハルトよりも、先生の方が強いってことにならない?


「私を打ち負かした時の、地面に倒れた私を見下ろすレイス君!」

「う、うん……」

「レオンを打ち負かした私を倒した、レイス君の何とも言えない嬉しそうな顔!」

「お、おう……」

「上から見下ろされた時の、あの屈服させられたようなあの感覚! あの構図がたまらないの!」


 へ、変態だあああ!

 でもそれなんかちょっとわかる自分も、なんか嫌だあああ!

もう何回「レイス」という名前が出てきたのだろうか。

次回もよろしくお願いします。

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