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60 「落ち着く」

更新、遅くてすみません。

 玄関ホールで鉢合わせたレイス先生と、邪教信者の幹部であるジン・レンブラント。

 ひとまずジンに戦う意思はなく、すぐに立ち去ろうとしているようだけど、先生はそうはいかないみたい。声の雰囲気から今にも追いかけて行きそうな感じだったから、私は慌てて玄関ホールに向かってそれを制止する。


「先生っ! とりあえず待って! 向こうは引くみたいだし、それにここ……一般人の家だし!」

「それはそうだが、モブディラン。またお前を狙っていたのかもしれないんだぞ。あいつらの目的を聞き出す為に、今ここで……」


 うわぁ、完全に戦闘モードの目つきになってる。

 先生は普段の教師モードと騎士モードがあるんだけど、こんな風に戦いになろうとした時には、目が完全に血走って目つきも鋭くなっちゃうから。大体はこの眼力で睨まれた相手は降参しちゃうというか。

 でもここは仮にもモブディランという一般中流貴族の屋敷なんだから、こんなところで戦闘されちゃ溜まったもんじゃない。それは先生も承知したのか、すぐに戦闘モードは解除されて、いつもの気だるそうな雰囲気に戻る。

 ふひぃ、どうなることかと思ったわ。


「お前の実家で、その……すまん」

「いえ、先生が深追いしなくてよかったです」


 こと無きを得たところで呑気な声が聞こえてきた。


「ええ〜? もう終わりなの? せっかく騎士団長様の戦いっていうのをこの目で見られると思ったのに……」

「アーク、見物しようとしてるんじゃないわよ」

「チェッ……、E姉さんったら。いつの間にそんなケチになったんだよ。前は僕の言う事なんでも聞いてくれたのに」

「え……、なんでも?」


 アークの何気ない言葉にドキリとする。

 もしかしてアークは私がもう本物のEじゃないことを知らないのだろうか?

 両親から、Eが魔王の器となって、私が代わりにEの中に収まったことを、アークは聞かされていない?

 これまでの両親の言動が演技なのだとしたら、アークは今まで素でEと接して来たことになる。

 てっきりアークも両親同様、事実を知った上で先生を退席させたのだとばかり思っていたんだけど。


「今度の姉さんは妙にリアリストなんだよな」

「お前、知ってるなぁ!」

「……?」


 はっ、先生の前でなんてことを!

 変な風に勘繰られる前に誤魔化して、もう用は済んだからお暇しよう!


「せっ、先生! 今日は本当にありがとうございました! 両親に顔を見せて安心させることが出来たので、私はこれでもう満足です! なのでまたすぐ邪教信者が現れないとも限らないから、さっさと学園に帰りましょう!」


 オタク特有の早口で捲し立てる私に、先生は「お、おう」と返事だけすると、もう一度両親とアークに頭を下げて、それから私達はモブディラン邸を後にした。

 先生って案外、というか意外に腰が低かったんだな、と。



 ***



 道中、何事も無く学園に辿り着いた私達は、いつもの流れで学生寮まで送り届けてもらった。

 先生は特にお喋りというわけじゃない。たまに思いついたことをぽつりぽつりと話し出したり、聞きたかったことがあったと思い出しては聞いてきたり。後は主に聞き役に徹していた。

 私は話し上手な方ではないし、どちらかといえば趣味の範囲でしか饒舌にならない。だから先生から話しかけられては答えて、と言うのをようやく出来るようになって喜ぶばかりだった。

 私から楽しい話題を提供出来てるわけじゃないのが、なんというか、情けないなぁと思いながら。

 ただでさえ先生は多弁じゃないんだから、こういう場合は女の方がお喋りにならないといけないのに。

 そう、例えばソレイユ先生とか。

 ソレイユ先生はめちゃくちゃお喋りで、放っておいたら一人でずっとマシンガントークを繰り広げる位、話題豊富で話し上手な上に聞き上手。

 だから他の先生達や生徒から、よく相談されては叱咤激励しているという。

 もちろんそんなソレイユ先生だからこそ、あまり自分のことをたくさん話そうとしないレイス先生との相性バランスが最高なんだろうな、と思ったり。

 ソレイユ先生レベルとまではいかなくても、せめてその足下くらいに話題豊富な女になれたら、先生を飽きさせないようにすることが出来るのかな。


「それじゃあ、月曜にな。宿題、忘れるなよ」

「わかってます。今日は本当にありがとうございました。お休みなさい」

「あぁ、お休み」


 先生との会話はいつも簡潔だ。

 いくら以前に比べてだいぶ話せるようになったとはいえ、大体こんな感じの会話なんだ。

 ただの受け答え。それ以上話題を膨らませるのが下手な私。

 だから会話がすぐに途切れてしまう。またすぐに沈黙が訪れてしまう。

 沈黙になると、より一層先生との距離感を意識してしまって、緊張してくる。

 そしたら余計に頭の中が真っ白になって、話せなくなってしまう。

 完全に悪循環だ。マイナスのループ状態……。

 わかっていても、やっぱり私は先生のことが好きすぎて、気持ちの方が強すぎて、上手く自分を出せない。

 いや、違うな。

 私は会話が苦手だ。出来れば沈黙、静寂がいい。静かなのが好き。

 だから賑やかすぎると疲れてしまう。だから趣味の話題以外に盛り上がれない。

 のんびり一人で過ごすのが好きすぎて、いつしか相手に合わせることを忘れてしまったに過ぎないんだ。

 ただ隣でじっと、黙って突っ立ってるだけの女なんて、きっとつまらないよね。


 リンは違ったけど。

 暗部の諜報員として多方面に精通している彼女は、話題が豊富だ。

 色んな知識を持っていたし、色んな場所にも行っている。 

 だから程よく会話が弾む。

 相手が疲れて静かにして欲しい時には、黙って……必要最低限の声かけをしてた。

 相手が落ち込んでいる時には、持てる限りの語彙力と経験を用いて懸命に励ましていた。

 きっとリンはあらゆる面において、最高の恋人になれるであろう才女だった。


 私はリンになれない。なれるはずがない。全く別種の人間なんだから。

 それでも先生は私のことを好きだと言ってくれた。

 ただそれだけを支えにすればいい。

 私はただ、先生が幸せになれる未来を作り出すことだけを考えていればいいんだ。

 ほんの一時でも好きになってもらえたんだもの。それ以上何も望まない、望めない、ーー望んじゃいけない。

 だから嫌われるかもしれない、なんて考えなくていい。

 先生の未来にとって最善と思える行動を私は取ればいいだけなんだから。

 

 一体どれだけの時間、私は学生寮の玄関前で耽っていたのか。

 声をかけられるまで気付かなかった。

 相手もきっと、私が急に黙り込んで俯いてるからどうしたんだろうと思ったに違いない。


「……先生、まだいたんですか」


 恥ずかしさでいたたまれない。

 さっきお休みって言って背中を向けたじゃないですか……。


「いや、お前に言い忘れたことがあったと思ってな」

「明日の宿題のことなら聞きましたよ。持ち物もちゃんと忘れないようにメモしましたし」

「そうじゃなくて」

「……?」


 なんだか歯切れが悪い。

 そっぽを向くように視線を泳がせながら、ボリボリと頭を掻いている。

 この仕草はよく見たやつだ。

 私は根気よく待つ。

 先生が恥ずかしいと思うようなセリフが何なのか、めちゃくちゃに気になるから。

 何? 「両親と全然似てないね」とか言ってくる?

 もしくは「弟めっちゃイケメンだけど、本当に姉弟?」とかツッコんできますか?


「別に気にする必要、ないぞ」

「え? 何が、ですか?」


 本当に何のことを言ってるのかわからないんですが。

 やっぱりあれですか。家族全員と似てなくても気にする必要ないって意味ですかね。

 下唇を尖らせて「なんで今のでわからないんだ」と文句を言いたそうな顔してるけど、可愛いだけなんでやめてもらっていいですか。


「お前、無理して会話しようとしてただろ」

「……わかり、ます?」

「当たり前だ。俺が食いつきそうな話題を必死で探してるのが見え見えだった」


 うっわぁ〜、めっちゃ恥ずいんですけど!

 聞かなきゃよかった!


「だから、気にしなくていいって」

「でもでも、沈黙とかで気まずくさせたりしたくないじゃないですか……。だから何とか話題をですね」

「いらないよ」


 え、何その物凄い優しい口調。

 優しいトーンで囁かれるバリトンボイスが、私の胸の奥まで染み渡っていくみたい。

 また心臓の鼓動が激しく……っ!


「俺はうるさいのはどうも苦手でな。静かな方が落ち着くんだ」

「え、でも……ソレイユ先生は?」

「あれはお喋りモンスターだからな。あいつの時は聞き流してる。ほら、あれだ。夏に蝉が鳴いてうるさいけど、別にわざわざ耳を傾けたりしないだろ。あんな感覚」


 うっわ、ひでぇ。

 ソレイユ先生のこと蝉の鳴き声扱いしてたんですか。


「その点お前は多少キョドってはいるが、基本的に物静かな方だろ。変なスイッチが入った時は厄介だが」

「は、はぁ……」


 誰か私を殺してくれ!


「お前といると落ち着くよ。言いたかったのはそれだけだ。じゃあな」

「あっ」


 先生も相当に恥ずかしかったのか、言うだけ言って走り去ってしまった。

 こういう時ってシュバって一瞬で消えたりする演出が入りそうなものだけど、この世界ではもちろんそんなことはない。恥ずかしそうに走り去っていく先生の後ろ姿はどことなく、いつもの頼もしい背中というより、むしろ歯の浮くセリフを頑張って言い切った、ただの二十代後半独身男のそれだった。

 それってなんだ。

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