56 「モブにはモブを」
更新遅くなり、すみません。
翌日になってようやく私は、自分の身に起こっている異変に気付いた。
寮では基本的にモブスキルが使用禁止となっているので、素のままで生活しているんだけど。
それでも存在感の薄い私はあまりクラスメイトに構われたり、話しかけたりすることがほぼほぼなかった、はずなのに……。
朝から同じ寮の生徒と顔を合わせば挨拶を交わし、何気ない会話が展開して、今日の授業は何をするんだろうという学園ならではの話で盛り上がる。
なんぞや?
明らかに今までの扱われ方と違い過ぎて、むしろ自分が影の薄い存在であることを認識して受け入れて生活していただけに、これはある意味異常事態だった。
いくら演習での出来事があったとしても、ここまで他人の態度が変わったり、私への評価が鰻登りになったりするだろうか。
あまりに心当たりが無さすぎるから、逆に怖い。
目立つのが怖い。
今さら他の生徒と密接な関係を築けない。
突然降って沸いたようなE人気に、当の本人である私がついて行けてなかった。
でもだからといって別に被害を被っているわけじゃないから、誰に相談するでもない……そんな些細な変化。
その後、教室へ行って授業を受けている間もキラキラチーム以外から声をかけられることがしばしばあった。
私は当たり障りなく、一定の距離感を保ったままそれに対応するけど、正直疲れる。
授業の内容が頭に入って来ない。
考えあぐねているところにレイス先生から教科書の音読に指名されて、何ページかわからなくてもたもたしていたらチョークが飛んできて、それが私の額に直撃する。
むしろそれがきっかけとなって、今起きている出来事が大問題だと重要視した私は、昼休みになると女子トイレに立て籠った。
演習直後から?
それともレスタトの塔にいる間から?
救出された後から……?
私から特に何かしたということはない、と思う。
あるとしたらせいぜいサラ達が言ったように、邪教信者からの襲撃を受けている時に立ち回ったことくらい。
だからといってそれで私の立場がこれほど変わる?
レスタトの塔で何かされた、と考える方が自然な気はするけど。
私がみんなから持て囃されること、それが私にとって不利益か? いや、ある意味不利益になってるけどさ。
仮に私にとって利益になることを、わざわざ邪教宗派がしてどうなると?
モブスキルすら物ともしない目立ちようが異常、そう感じられた時に私の脳内にある人達の顔がよぎる。
モブのことはモブに聞けばいいじゃない。
E・モブディランの家族……。
考えてみれば私はEの家族に聞きたいことが色々とあった。
Eの家族は……、自分の娘が魔王の器にされていることを知っていたのかな。
モブディラン家で目覚めた時、数日間一緒に過ごしてきておかしなことは何もなかった。
もしかしたら色々引っかかる部分があったのかもしれないけど、それはそういう世界観とか……そういうことにしておいたせいで、何も気付かなかっただけかもしれない。
でも家族に会いに行くとしても、今は厳戒態勢状態だから教師の誰かに同行してもらわないと……。
当然真っ先に思い浮かんだのはレイス先生だ。
でも、もしかしたら先生に聞かれたらマズイ話題になるかもしれない。
そう考えると同行してもらうのはどうかと思う。
聞かれたら困ること。それは……、もしかしたらモブディラン家全員が邪教信者だった場合だ。
Eの中に魔王の魂が宿って、それを知った上で今まで何も知らないのだと演じていたとしたら?
それはつまり私は敵の只中でスタートしたことになる。
家族全員が邪教信者だった時、レイス先生が危ない目に遭ってしまうかもしれない。
厳戒態勢は、いつ頃解かれるんだろう?
もしかしてずっと?
***
この一週間、私はそれはもうクラスのみんなと程よく馴染んで、素晴らしい学園生活を送っていた。
クラスメイトと語り合い、時には切磋琢磨し、闘争心くすぐられる授業でライバル達と競い合い、汗と涙と笑顔の毎日、とても充実した青春真っ盛りな学園生活!
じゃなーい!
学園生活を満喫してどうする!
私は普通に学生時代を謳歌する為にこの世界に転生したんじゃないわよ!
先生を一日中監視……見守ることこそ、私という人間の在り方じゃないの!?
それが推しを見守るファンの幸せってもんじゃないの!
何クラスメイトと一緒になって一喜一憂してるのよ!
そうじゃないでしょ、しっかりしなさい私!
このままじゃいけないことはわかっていても、正直クラスメイトと仲良く出来てるから何か問題でも? っていう気持ちもなくはない。
でもそうしたせいで私は一週間を無駄にした。
めっちゃキラキラしてた。
モブ顔なのに生き生きしてた。
私は後悔した勢いのまま、職員室へと駆け込んだ。
ドアをノックし、開けて、礼をしてから名乗る。
これだけの手順を守れば自由に出入り出来る。もちろん用事のある教師の元へ行くことしか許されない。
レイス先生とソレイユ先生の席は隣同士か……。チッ、やりにくいな。
深呼吸ひとつ、レイス先生の元へ行って声をかける。
「モブディランか、どうした」
いつも通りの先生だったけど、その隣には冷やかすような顔でじっと見てくるソレイユ先生。
今にもからかおうとしているようにしか見えない。
「今度の休みに実家に帰って家族に挨拶をしたいんですけど、その際の護衛に関して先生に相談が……」
「今度か。そうだな、案外他のみんなは実家に帰るより勉学に励みたいと言って帰省しないようだし、俺が空いてるからその日に予定を入れようか」
「お? ついに家族さんにご挨拶行くのか?」
その瞬間、ソレイユ先生に背を向けていたはずなのに、レイス先生の見事な裏拳がソレイユ先生のおでこにクリーンヒットして、そのまま椅子ごと倒れてしまう。
「いったぁ! 相変わらず冗談通じねぇな!」
「こんな場所で冗談を言うな」
ごもっともです。
こんなところでそんな危うい話をしたら、他の先生達に怪しまれてしまいますから!
口を慎んでください!
私は目線だけでソレイユ先生に抗議したけど、寮に帰るまでの間はモブスキルをオンにしているから、どれだけ目つきを悪くしてるつもりでも他人にはつぶらな黒い瞳にしか見えない。
ソレイユ先生はブツブツと文句を言いながら席に座り直す。
用事はひとまず終わったので、このままお辞儀をして職員室を出ようとした時だ。
「そうそう、モブディラン。学園長との面会が今月末の日曜日に決まったんだが、その日は出来るだけ予定を空けておいてくれないか。お前にも用事はあるだろうが、学園長とは滅多に面会出来ない。貴重な空き時間になるから、すまないがよろしく頼む」
「あ、はい。わかりました。特に用事は入れてないので、大丈夫だと思います」
「それと面会には俺も付き添うことになっている。あと……ジークフリートさんも来るそうだ」
「え?」
「変な話だと思うだろうが。学園長がどうしても立ち会ってほしい、というご要望だ。構わないか?」
「まぁ、学園長が決めたことなんで。私が断れるわけもないですし……」
レイス先生の口から大英雄の名前が出てきた瞬間、私の頭の中に浮かんだ顔はジークフリートではなく、その養女であるリンだった。




