52 「おかえり」
しばらく連投出来なくてすみません。
書けたら投稿という形で、少しでも早くお届け出来るように頑張ります。
アンフルール学園に無事到着してからが、また大変だった。
私はモブスキルをオフにしていても周囲からは影の薄い存在となっているはずなのに、A組の面々が寮の前で待ち構えていて私を盛大に出迎える。
「お帰り!」
「無事でよかった!」
「みんな心配してたんだよ!」
「酷いことされなかった?」
「僕も助けに行きたかった」
などなど。
正直、私はこの学園に入学してから今日に至るまでクラスメイトとの交友関係を、全くと言っていいほど築いて来なかった。
それこそこの間の実戦演習で、ほんの少し会話をした程度。
だから私みたいな希薄で軽薄な人間が、みんなからこれだけ心配される謂れはないはずなのに。
口々に話しかけてくる。
中には泣いて喜んでいる生徒まで……。
むしろ私がいない間に何があった?
そんな心境を察したのか、サラが「まだ許していないんだからね」という表情のまま教えてくれる。
「みんな、あれからずっとEの身を案じてたんだから。ちゃんと受け止めなさいよ」
「あー、いや。それはもちろんそういう気持ちでいますけど。私、自分で言うのも虚しいんだけど。みんなからこんなに心配されるほど、仲良く打ち解けていなかったんだけどさ」
感情が豊かにも程があるし、もっと言うならみんな結束力の塊みたいな精神の持ち主なのかって思うレベル。
騎士団希望の人間だからって全員が清廉潔白な心の持ち主というわけじゃない。
中には自分の野心の為だけにのし上がろうという人間が、アンフルール学園のA組に配属されることも珍しくないんだから。
「何言ってんの。実戦演習でのEの活躍、忘れたの?」
「……人質のやつ、ですかね?」
なんかサラが上から口調で話を続けるから、私はそれに威圧されてついつい敬語になってしまう。
私は元々そんなに気が強いタイプじゃないから仕方ない。
威勢がいいのは内面だけなのよ。
社会人生活してきたら、他人との距離感を重視するようになってしまって、当たり障りのない関係性を築くのが当たり前になっちゃったというか。
「そうじゃなくて、あの中で唯一冷静に物事を把握して、的確に指示してくれたでしょ」
そうだっけ?
あの時は私も必死だったから、あんまよく覚えてない……。
普通に対応してたはずだけど。
違いがあるとしたらあの中で唯一、邪教信者襲撃のことを知ってたから、ってくらいで。
「先生の話にあったエキストラによる攻撃じゃないことがわかって、チーム毎に散り散りになっちゃって。戦闘訓練は授業で受けていたけれど、あんな風に先生の指示無しに個々の判断で動くっていう経験がみんななかったから。相手が本気の攻撃をしてきてるって理解した途端に、思考停止しちゃう生徒も多かったのよ。そういった経験を積む為の実戦演習が、まさかいきなり本気の殺し合いみたいな場になっちゃって。みんな怖かったの。その中でEだけが冷静で、感情だけで動いたりしてなくて、ちゃんとみんなに指示をしたり周囲を気にかけてくれたり。的確に判断して動いてくれたから、そんなEの姿を見てみんな勇気をもらったんだよ」
私は思い切り首を傾げてしまった。
そこまで大層なことしてました?
何回も言うようだけど、私も必死だったからゲーム内知識とか自分の立場とか立ち位置とか深く考えずに行動したりしてたかもしれないけど。
ジャンヌ・ダルクよろしく、堂々なリーダーシップを発揮した覚えは全くないんだが?
全く心当たりがないっていう態度をしていたんだろう、背後からエドガーのチョップを脳天に喰らった。
「いったぁ〜!」
「そういうとこが腹立つっつってんだ! 私何かしましたっけ? じゃねぇんだよ!」
「まぁまぁエドガー。でもサラ達の言う通り、Eさんももう少し自己評価高くていいんじゃないかな。あの時はみんな確かに、Eさんの存在を大きく感じてたんだよ。だからこうしてみんなEさんの存在を忘れることなく、ずっと心配してくれてたんだ。今見てるこの光景が、Eさんの現実だよ」
「ウィル……」
温かく迎えてくれるA組のみんな。
今まで、入学してからメインキャラ以外とはろくに会話をして来なかった私。
私自身がモブキャラだから、クラス全員と密接に関わる必要なんてないと思ってた。
レイス先生だけを見て、追いかけて、気にかけてきただけの私のことを……、今はみんなが認めてくれてる。
A組の一員として、モブの私を背景としてではなく、一人の登場人物として認識してくれてるんだ。
「俺も自分に対する自己評価はそれほど高くないが、今回お前がした行動がみんなの心を動かしたってことは紛れもない事実だ。あの時、確かにEだけが戦況を見ていて、みんなを必要以上に不安にさせないよう立ち回ってた。正直あの場であれ程頼れる人間がいたことに、俺は安心感すら抱いてた。このクラスでEという存在は不可欠な存在なんだ。もっと自信を持っていいと思うぞ」
「ルーク……!」
食べ物で例え話をしなかったのは初めてだよ、ルーク!
君も成長していたんだね! 食べ物からやっと離れられたよ!
とか心の中で照れ隠ししてもしょうがないわよね。
そっか、クラスの一員……。
私もA組の仲間なんだ。
……そっか。
「ほら、感動の再会はそれ位にして。みんな今回の演習でのレポートはもう書き終わったのか? 提出は明日だぞ。モブディラン、お前も早く身支度を整えて来なさい。俺は外で待っているから」
「先生も中で待っていたらどうですか! 今から温かいお茶を淹れますので!」
サラのアピール発動!
「いや、教師が夜間に生徒の寮へ入ることは緊急時以外、禁じられているからな。俺は外で待っているよ」
「そう……、ですか」
サラ撃沈!
ていうか先生って現時点では、サラのことを特別対象として認識していないのかな?
ゲームでは主人公補正のせいか、入学当初から珍しい治癒術の使い手として一目置いていたはずなのに。
そんなことより私も早く身支度しないと、外へ出る瞬間の先生の「早くしなさい」って言ってる目がめちゃくちゃ怖かった!
結構スキルを使ったからなのか、ものすごい目が充血していたから……余計に目がギラついてて、本当に「ごめんなさい」っていう言葉しか出て来ない。
私はみんなから迎えられて、一部は先生の言葉でレポート作成に走って行ったけど、それでも女子なんかはとてもにこやかに接してくれた。
これまで必要最低限の会話しかしたことないのに、サラの話を信じるなら演習以来みんなの私への評価が一転したんだろう。
モブがこんなに注目浴びていいものなのか?
そんなことを思いながら数日ぶりにちゃんとした温かいシャワーを浴びて、ピッカピカにする。
これから先生のお部屋に行くことになっているんだから、少しの汚れも許されない!
レイス先生相手なんだから、何かの間違いが起きる確率なんてゼロに等しいんだけど。
「……っ!」
わ、わ、私ったら何ていう妄想を!?
そんなことあるわけないじゃない!
先生に限って、いや……モブキャラの私に限ってそんなことになるなんてゼロどころかマイナス百くらい行くんだから! 先生にしがみつくっていう貴重な経験をしてしまったことで、ちょっと調子に乗っていたのかも!
そうよ、私は今から先生にキツイお説教を受けるだけなんだから。
お仕置きよ! ご褒美じゃなくてお仕置き! お仕置きすらご褒美にならないことを祈るわ!
わけのわからない一人ボケツッコミを脳内で展開させながら、私はお出掛け用のきらびやかな衣服を手に取っている自分に喝をして、予備の制服に持ち替えて着替える。
深呼吸、ひとつふたつみっつよっつ……足りない足りない、全然足りない!
今から先生の部屋に行くのに、深呼吸如きで私の興奮が治まるとでも!? 否!
むしろ鼻血がもっかい出ないように自制心を強く持つことで精一杯だわ!
手に汗があああ。
心臓打つのも早くなってるううう。
なんかすでに目が泳いでしまってるうううう。
落ち着かねえええ!
でも早く行かないと時間に厳しい先生のことだから、怒られる要素をまたひとつ増やしてしまう!
行くか!
私はすれ違いざまに挨拶してくれる生徒に「怒られに行ってきます」と声をかけ、その言葉に「モブディランさんって実は面白い人だったんだ」と笑顔で返されるという、そんな微笑ましいやり取りをしながら玄関へ向かう。
ほんと、ここに来て初めてこんなにたくさんの人と会話をしているんじゃないかなってくらい、みんなに声をかけられ返事をして、というのを繰り返した。
最後に「気をつけてね」という声がして、「そんなんじゃないんだからね!」と言い返しそうになったけど。
単純に「夜遅いから気をつけてね」という意味だったことに気がついて、一番意識してるの自分じゃないかって再び自分にツッコんだ。
玄関を開けて外に出ると、寒そうに両腕を組んで立っている先生の背中を見つけた。
そんなに寒いなら玄関の内側で待っていればいいのに。それでも中に入ったことになるんだろうけど。
校則守り過ぎマンめ。
「お待たせしてすみませんでした、先生」
「ん、じゃあ行こうか」
先生が「行こうか」と言いながらも歩き始めないので何かと思ったら、私が先生の隣まで来るのを待ってたみたい。
そういえば前にも先生と夜道を歩いたことがあったな。
あの時も先生の隣を歩くのが恥ずかしくて、後ろの方を歩いてたら「隣を歩かないと意味ないだろ」って言われたっけ。
そんなことを思い出しながら、私は緊張しつつ先生と並んで歩き始めた。
やべえええ何も喋ることがねえええ。
緊張を解そうと何か喋ろうとも、先生相手だと本当に頭が真っ白になっちゃう。
そんな風に全身カチコチになって歩いていると、先生がふっと夜空を仰いで口にした。
「おかえり」
「……た、ただいま」
それは、ズルだよ……レイス先生。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




