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49 「邂逅」

更新遅くなって申し訳ありません。

連休が終わってしまったので、また投稿したりしなかったりになります。

ご了承ください。

 今、レオンハルトの目には何が映っているのか……。

 あの『神の目』はどれほどのものを見通せるのか、相手の真実の姿すら……魂すらその目で視ることが出来るというの?

 決して当てずっぽうなんかじゃない。

 そんなことをしようと思ったら、一体何万通りあるというんだろう。

 だからきっとそうなんだ。レオンハルトには私の『本当の姿』が見えている。


 ここに来て初めてだった。名前以外に、現実の私自身を持ち出されたのは。

 だから怖い。

 虚構と現実が噛み合ってしまうのが。


「う……っ!」


 レオンハルトは片手で両目を押さえ、痛みを我慢しているみたいだった。

 恐らく私の『本当の姿』を『神の目』で見た負担なのだろう。

 相当消耗が激しいのか、スキルの使い過ぎによる反動が現れている。

 目を真っ赤に充血させながら血の涙を流すレオンハルトは、呼吸を荒くし激痛に耐えていた。

 そうまでしてスキルを使った理由は、一体何?


「違うのか……」

「え?」

「確かに君の言った通り、魔王の魂とリンの魂が混ぜ合わさったところで……、リンがそのまま復活するわけじゃない……。今の君の姿が何よりの証明だ」

「……リンを、蘇らせたかったの? リンの魂を?」

「そうだ。本来魔王は輪廻転生の輪の外にいる存在、しかしリンの魂と混ざったことで輪廻の輪の内に入ってしまった……、そう思っていたが。そうか……、魔王の魂の中に消化されてしまったということか……」


 だからっ、違いますけどっ!?

 さっき私の本当の姿を見たんでしょう?

 黒髪の前髪パッツンで、頬にはそばかすだらけで、眉毛の処理に失敗しちゃって完全にマロ眉になってる私の姿を! 魔王がそんなオタ活真っ盛りな外見してるわけないじゃない!

 それとも何か? この世界ではオタクこそ魔王そのものだって言いたいの?

 邪悪な存在? ほっとけよ!


「私がリンじゃなかったとして、それで……私をどうしたいの? リンじゃない私は用済み?」

「……魔王であることに変わりはない。使い道は他にいくらでも……」


 レオンハルトがそう言いかけた時だった。

 何かに気付いたように表情が強張ったレオンハルトは、急に周りを気にし始める。

 しわが寄った眉間に更に深い皺を寄せて、帯刀していた両刃剣を抜こうとした刹那。

 柄に伸ばした手の甲にナイフが飛んできて刺さり、レオンハルトは短い呻き声を上げてニ、三歩後退した。

 すぐさまナイフを投げ捨てるが、右手の甲から血が滴る。

 レオンハルトが私をキッと睨み付けて一歩足を踏み出しただった。

 その足元にピシリと弾ける音がして、私も何事かと思って慌てて見回す。

 すると階下から火炎系の魔法による火事で煙が立ち込め、視界が悪くなっている中……見覚えのある黒髪が私の瞳に映し出される。

 普段は身軽に動けないと言って身につけようともしなかった胸当てのプレートを付けて、その手には先ほど弾ける音を出した正体の……皮鞭が握られていた。

 黒く長い髪は戦闘の邪魔にならないようポニーテールにして、それでも男らしさは微塵も失われていない。


「モブディラン! 来い!」


 そう言って現れたレイス先生は、私に向かってその手を伸ばす。

 私は嬉しさの余り何の思考も迷いもなく、反射的にその手に向かって走り出し、同じように手を伸ばした。

 しかしそれを許さないのが敵というもの。

 突然私の足元から囲うように黒い影が現れた。

 それはまるで伸びる手のようで、その影は私を捕らえようと一斉に襲いかかってくる。

 私の足じゃ振り切れない。

 先生もレオンハルトを『視る』ことによってスキルの無効化を試しているようだけど、恐らく無効化されているのは『神の目』だけで、この黒い影はどうやらスキルによるものじゃないことがわかった。


「悪魔と契約したの!?」


 たった今、見て気付いた。

 悪魔を召喚するには、リンのように供物や魔法陣を必要とせずにスキルとして召喚出来るものがあるけど。

 本来は召喚に必要な魔法陣を描き、供物を捧げて悪魔を喚び出すものだ。

 魔力を消費するけど、それは儀式であってスキルによるものじゃない。

 レオンハルトの左手の甲に魔法陣のようなものが刻まれている。そこに先ほどナイフによって出血した右手の血を左手に付着させている。

 つまりレオンハルトの左手に描かれているものは、悪魔を召喚する魔法陣。

 供物は自らの血液……、それでこの黒い影の手を召喚したんだ。

 先生のスキル対策の為に……。


「レオン……ハルト……っ!」


 先生の表情が苦悶に満ちる。

 嫌だ……、私は先生にこんな顔をさせない為の選択肢を選んできたはずなのに……っ!

 やっぱり私みたいに影の薄い存在なんかが、先生の運命を変えようだなんて無理な話だったの!?

 何の役にも立てない。

 敵を圧倒するだけの力もない、無双出来るだけのスキルもない、ただこそこそするしか脳がない私なんかじゃ。


 あまりに悔しくて、自分の無能さに腹が立って、ヤケになった。

 作戦も何もない。

 せっかくみんながこうやって塔を攻略する為に乗り込んできたというのに、私が一番足を引っ張ってるのがとにかく嫌だったから。

 後先考えずに私は自分に出来る数少ないことを、精一杯やろうと思った。


「ステルス!」


 私の体が一瞬にして消失したように見えただろう。

 何も必殺技みたいに声に出して発動させる必要はなかったんだけど、私も色々と混乱してて、思わず口に出してしまっていた。

 スキル『ステルス』を発動させると姿が完全に消えるだけじゃない、私のことをしっかり記憶している人間ならともかく、漠然としか認識していない相手は私の存在自体を更に認識出来なくなる。

 見ると私を捕らえようとしていた黒い手は、突然ターゲットが姿を消したと思ってうねうねと動き回りながら探している。

 計算していたわけじゃないけれど、レオンハルトによって召喚された悪魔の黒い手は、私のことを一人の人間としてしっかり認識して捕獲しようとするほど知能が高いわけじゃなかった。

 だから捕獲対象が突然姿を消して見失ったって思わせると同時に、自分が何を捕まえようとしていたんだろうと混乱するかもしれない。

 案の定、黒い手は私の存在自体をすっかり忘れてしまったかのように探そうともしていない。

 そのままその場で固まり、目的を失った黒い手は深い闇を薄れさせていき、やがて跡形もなく消え去った。

 黒い手が消え去っていく間に、私は先生の所まで駆け付ける。

 レオンハルトも私が先生の元へ走って行ってるのはわかっているだろうけど、その姿が見えないようじゃどう攻撃したらいいかわからないわよね。

 

 でも私は黒い手から逃れることに必死になってて、その間に二人が互いに存在を認識し合っていることに気付いていなかった。

 先生のすぐ目の前まで走って行って、そのご尊顔を拝もうとした時だ。

 亡くしたと思っていた親友が目の前にいて、しかも敵としてそこに立っていることを目にしている先生。

 どんな心境だっただろう。

 ナイフを握るその手は力なく、脱力したように佇んでいた。


 親友が生きていて嬉しいのか。

 生きていた親友が敵だとわかって悲しいのか。

 

 そういった思いが、ないまぜになった瞳……。

 まるで酷い悪夢を見ているような、絶望に叩き落とされたような……、そんな辛い顔をした先生が目の前に。

 心の準備なんてしていなかったろう。

 ゲームでは、まさかまさかと思いながらも次々と痕跡が見つかり、そしてその予想が的中するという、そういった心の準備が、まだあった。

 でも今は突然目の前に答えを突き出されて、驚愕して言葉もない。

 

「生きてて……」


 くれたのか、と先生が最後まで言葉にすることなく、レオンハルトは何者かに攻撃された。

 完全な不意打ちで、レオンハルトも油断していたらしい。

 私も驚いていた。

 親友同士の邂逅を終わらせようとしたのは、もう一人の親友であるソレイユ先生だったから。


「ぼさっとしてんじゃねぇぞレイス! 大事な生徒を助けに来たんだろうが! 私情を挟むな!」

「ソレイユ……っ!」


 普段はソレイユ先生の方がふざけていた。

 いつも明るくて、喜怒哀楽が激しくて、仕事に私情を挟みまくりで、それでもみんなに笑顔を提供するムードメーカー。この人の存在はまるで、名前の通り本当に太陽のような存在だ。

 先生に這い寄る暗い闇さえその明るい光の前では、無力に等しい位に……。


「ソレイユか、……久しぶりだな」

「うるっせぇ! すっかり闇堕ちしちまったテメェなんざと話す口は持ち合わせてねぇんだよ!」


 敵となった親友に背を向けたまま、ソレイユ先生が言い放つ。

 私は見た、きっとレイス先生も……。


 ソレイユ先生の目には溢れんばかりの涙で一杯で……、ここにいる誰よりも悔しそうに泣いていた。

レオンハルトは真面目すぎて少々潔癖なところがある為、目的がはっきりしていたら割と心を鬼にして実行出来るタイプ。


レイスは真面目だが少々優柔不断、何より優しすぎる。その為、頭ではわかっていても心のどこかで割り切れない部分があると、途端に行動が消極的になってしまう。


ソレイユは自分の感情に素直で物事がはっきりしている。自分のことよりも親友が苦しんでいたら、心を鬼にして割り切って行動することが出来る。「親友が悲しい思いをすることは嫌」という、自分の感情に素直に従った結果。

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