表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/116

45 「魔王の器」

 まずはジャブだとでも言うように、ヴォルフラムが一方的に言いたいことを先に言ったら、今度は私の番とでも言うように組んだ足をプラプラさせながら、一応話を聞く姿勢を取る。

 本当に話を聞く気があるんだろうかと訝しみながら、私は順番に聞いていった。

 もちろんゾフィの時のように、こいつが本当のことを言ってるかどうかその保証も確証もどこにもない。


「まずは、A組の生徒と教師三人、みんな無事なんでしょうね?」

「あぁ、それは間違いない。なんかちょっと揉めてたみたいだけどな、あの後さっさとドラゴンに乗って帰って行ったぜ? 薄情だよなぁ、お前が攫われたっつーのによ。取り返そうと躍起になってる様子もなかったぜ」

「そこまでは聞いてないから」


 とりあえず全員無事で良かった。

 揉めてたっていうのは、きっとソレイユ先生が私のことをレイス先生に言ったことなのかもしれない。

 邪教信者に生徒が誘拐されたんだもん。責任感が強い先生のことだから、何も感じないはずがない、と思う。

 あのまま居たって仕方ないんだから、まずは生徒の安全の為に学園に帰るのが妥当なのもわかる。

 すぐさまその場を離れて学園に帰ったのは英断だ。

 心配なのは、きっと今頃先生が私なんかのことで責任を問われているかもしれないということ。

 そして……私なんかの為に、先生が救出作戦とか。そういうのをする為にせわしなく動いているかもしれないということ。

 ただでさえ教師と騎士団の二足のわらじで大変だっていうのに、私は先生の仕事を増やしてしまった。


 多忙で寝不足なのに。

 ろくに休んでもいないだろうに。

 私みたいな、ただのモブなんかの為に……。


「ところでE様、なんで泣いてんすか?」

「え……」


 先生のことを考えたら涙が……。

 やだな、私ったら。自分でやったことなのに、何を被害者ぶってるのよ。

 むしろ今回の落ち度は全部私にあるんだから。その責任を果たさないといけなかったわけで。

 責任の所在は私にあるんだし、先生が私を捜索する必要なんて本当は全然ないんだから。

 それを伝える術がなくて、先生に迷惑ばかりかけてばっかだから、自分が嫌で悔しくて涙が出てるのね。

 やだやだ、これだからオタクって嫌われるのよ。

 自分のことばかりで、先生のこと……ちゃんと考えて行動すれば、こんなことには……。


「うぅっ……」


 先生に、会いたい……っ!


 怖い。

 寂しい。

 辛い。

 わけわかんない。

 全部私のせいだから。

 私が悪いのに、先生に慰めてほしいだなんて思ってる。

 なんておこがましいんだろう。

 なんて身の程知らずなんだろう。

 私なんか、本当なら先生にすら見向きもされないはずの、ただの数合わせのモブ生徒なのに。

 

 こんなにも先生のことが好きなのに、モブでいることが辛いよぉ……っ!


「おいおい、面倒クセェことやめてくんね? 他に聞きたいこととかねぇのかよ。そしたらさっさとどっか行くから、その時に好きなだけ泣いてくれよな」


 本気で迷惑そうに言わないでくれる?

 あんた魔王の大ファンなんでしょ?

 それなのに私のこと面倒臭いだなんて思ってるの?

 私が一番面倒臭いって思ってるんだから!


「私が、魔王って……、どういうこと」

「さっきの説明でわかんなかったのか? マジで面倒クセェ」


 これ見よがしに大きなため息をつくヴォルフラムに、私は嫌気が差した。

 なんでこんな奴に頼んで説明してもらわないといけないわけ?

 どうしてこんなのが攻略対象なわけ?

 私はちっとも好意を持てないんですけど。


「俺達、邪教信者は魔王復活が目的だ。前に一度、今の教主様が就く前の代の話だ。魔王を召喚するという形で復活を試みたことがある。ここまではいいか?」

「大丈夫……」


 それは、きっとリンのことだ。

 レイス先生にとって辛い過去の、全てが壊れたあの時の……。


「まぁ結果的に魔王の魂だけ召喚して、それを入れた器が壊れちまったんで、完全復活とまではいかなくて失敗したってわけだ。魔王復活のオーソドックスなやり方としては、魔王の魂を適切な器で受肉させれば完全復活ってな具合なんだが。召喚って形で器自身に魂が現存している状態で受肉させようとしちまったもんだから、魔王の魂と器の魂が混ざったんだな」


 なんかちょっと、よくわからない……。


「待って? オーソドックスなやり方と、召喚というやり方と、どういう違いが?」

「オーソドックスな方は、器はすでにただの器だけになってるんだよ。つまり肉体はまだ生きてるが器の魂を無くして空っぽの状態にする。空っぽの器に魔王の魂を収めれば、その器の中には魔王の魂のみとなって受肉するってのが、本来の復活の儀式ってやつだ」


 空っぽの……。

 要するに生贄となった人の体は生きているけど、魂だけがない状態にされている……。

 鬼畜の所業ね。

 人間を生贄にするなんて、やっぱり邪教信者は最低な連中だ。


「そんで数年前にやった召喚での儀式だ。これは生贄となる器自身が召喚の儀式を行なっていたそうだ。魂が空っぽの状態で儀式なんて出来ねぇからな、器の中にはまだ本人の魂が入ったままになっている。だったら召喚する奴とは別に器を用意しとけよって話になるだろ? それがそうもいかねぇ。魔王の器ってのは基準があるんだ。まず性別は女であること、そして穢れのない処女であること、年若いこと、特殊な魔力持ちであること」

「……? 特殊な魔力持ちって?」

「あ? あぁ、これが一番厄介な条件らしくてな。出自不明の魔力って意味らしい。余計にわかんねぇだろ? 例えば、だ。一般人の魔力ってのは出自がはっきりしている。火炎系の魔力持ちだとか、治癒術士に主に多い神聖系の魔力持ちだとか。そういうのは代々続く血縁が関係しているな。一族みんながそういう魔力を持って生まれてくる、とかあるだろ? そういうのは出自がはっきりしているから、特殊でも何でもない。ありふれた魔力なんだよ。だがその中でごく稀に、一族とは全く無関係な種類の魔力を突如として持って生まれて来る奴がいる。それが特殊系だ。俺のスキル『弱体化ナーフ』も家系的には特殊だ」


 確かリンはハーフエルフで、エルフはそもそも精霊魔法を得意としている。

 だったらリンの魔力の出自ははっきりしているから、特殊じゃないのでは?


「確か魔王を召喚した人って、ハーフエルフ……だったわよね? それじゃ出自がはっきりしていたんじゃないの?」

「誰かに聞いたのか? 随分詳しいじゃねぇか」

「あ、いや……」


 ゲームで知った、なんて言えない。

 というかゲーム内でもここまで詳しく魔王復活の儀式のこと、書かれてなかったし。


「まぁいいか。よく間違われやすい落とし穴だよなぁ」

「え?」

「俺も詳しいわけじゃねぇが、精霊魔法と召喚術は似て非なるものらしいぜ?」

「そう、なんだ?」

「精霊魔法ってのは、この世界の根源たる聖霊の力を借りることらしい。火とか、水とか。自分の魔力も消費してるのは、実際は自分の魔力と等価交換する形で、精霊の力を借りて発動してるだけだそうだ。だが召喚魔法は喚び出す魔法、こう言えば全然違うものだってわかるだろ? そんでエルフは精霊魔法の使い手。それがハーフエルフとして生まれても、本来なら精霊魔法の使い手となるはずだ。片親である人間の魔力の種類にもよるが。大体はより強い方の影響を受けて生まれてくる。だが魔王を召喚する儀式を行なったハーフエルフが扱っていたのは召喚魔法だった。俺にもよくわからねぇから、詳しくは教主様に聞いた方が早いぜ? とにかくそのハーフエルフが召喚魔法を扱えるのは特殊なことだったんだ。そして他に魔王の器に該当する適当な人材が見つからなかった。だから器自身に魔王を召喚させて、自分の体に融合させようとしたんだとよ」


 長い説明をして疲れたのか、うんざりという表情を顔一杯に浮かべたヴォルフラムは、天井を仰いで気だるそうにしている。

 私も一気に情報が流れ込んできたせいで、さっきまでの情緒不安定だった気持ちがスンってなって、すっかり涙が引っ込んでしまっていた。

 レオンハルトに直接聞くのは心苦しいけど、もっと詳しく情報を得ようと思うなら、そっちを当たった方が良さそうね。リンの話題になったらあの人、すぐマジギレするから苦手なのよね。真面目過ぎるというか。頭が固いというか。


「まぁ、ありがとう。とりあえず何となくわかったような気がしなくもないわ」

「何だそれ、俺の時間返せよ」


 悪びれた口調でそう言うと、ヴォルフラムは立ち上がって伸びをした。

 私が黙ってそれをぼんやり見ていると、ふとこちらに向かって急に今後の話をしてくる。


「さっきも言ったが、魔王であるあんたの魂はE・モブディランっていう女の体ですでに受肉している。Eってやつにほんの少しでも申し訳ないって気持ちがあるんなら、あんたは魔王として邪教宗派を率いる義務がある。権利じゃない、義務だ。それをしっかり理解したら、ここから出してやるよ」

「ちょ……っ! Eはどうして……っ!」


 それには答えず、ヴォルフラムは南京錠を開けてドアを開くと、すかさずドアを閉めて外から鍵をかけた。

 私は扉を叩いたところでどうせ何も反応しないんだろうと早々に諦めて、ベッドに横たわると今後の行動を考える。

 いや、それよりも考え直すことの方が多すぎた。

 整理し切れないことだらけだ。


 何となしに、心細くて首から下げてるネックレスに軽く触れる。

 意外だったけど、演習からそのまま……着の身着のままという感じで放置されていることに驚いた。

 普通は全部衣類を取り替えられて、身につけている物もチェックされて処分されていてもおかしくないはずなのに。それをしなかったということは、一体どういうことだろう?

 何をしても無駄だから放置したのかな?


 それはともかく、放置で助かってる部分はあった。

 だって先生からもらった警笛が、首に提げられたままだったから。

 よかった。私の大切な宝物。

 本来は私なんかが受け取るはずのない品物だから。


 私は初めて、それを吹いた。

 何も音はしない。

 ただ空気が漏れるだけ、フゥーっと乾いた音が出るだけだった。

 

 助けて、先生。

 いや、危ないから助けに来ないで。


 どっちだバカヤロウ。


 ううん、今だけ本音を言わせて。

 他に誰もいないから。


 先生に、……助けに来て欲しいです。

 大好きだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ