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30 「大失敗」

やってしまいます。

私も、やってしまったなって思いました。

よろしくお願いします。

 私と先生は校舎を出て、まっすぐに寮へと向かう。

 外灯があるとはいえ暗い夜道、学園の敷地内とはいえ何があるかわからないということで、先生はわざわざ寮の玄関まで送ろうとしてくれた。

 その間もぽつりぽつりと話をする。

 先生は私に気を使ってくれているのか、会話が途切れてはまた別の話題を持ち出して、それに対して私は返答を慎重に選び過ぎて、すぐまた沈黙が訪れてしまう。

 私は会話があまり得意な方じゃない。

 根がオタクなので、どうしても自分の好きな話題にしか食いつけないし、言葉も出て来ない。好きな話題になれば自分でも引くレベルで饒舌になる。オタク特有の早口で、矢継ぎ早に思いの丈をぶつけてしまうからだ。

 だから共通点のない相手だと途端に無口になってしまって、当たり障りのない返事しか出来ない体になってしまった。


 こんな時、リンなら上手く会話を繋げられるんだろうな……。


 思わず出てしまった。

 ずっと頭の片隅にあったことだけど、今日レオンハルトと対面したことで……。ジークフリートとの会話を横で聞いていたことで、思い出さずにはいられない。

 先生にとって大切な存在だった、リンという女性のことを……。

 作中にも当然、回想という形で登場する重要人物だ。

 レイス先生、ソレイユ先生、そしてレオンハルトの三人と共に学生時代を過ごした紅一点。

 それぞれに恋愛感情を抱いていたものの、甘く苦い経験談が語られるわけじゃなく、先生は過去にそういった大切な女性を失った経験をしているという形で登場した過去の人。

 先生にとっては今もなお心に引きずっていると、作中でサラに語っていた。

 その時にはすでにヒロインであるサラは先生ルートに突入しているから、先生は新しい恋心に芽生えたサラ相手にその話を告白することになるんだけど。

 初めてこのエピソードを目にした時、私はしばらく引きずって夜も眠れなかったことを思い出す。

 こういう潔癖症みたいなところがあるせいだろう、私にいつまでも現実の彼氏が出来なかったのは。

 いや、厳密に言うとそれだけが原因じゃないんだろうけど!

 とにかく、自分の好きな人が未だに他の女性を愛しているなんて知ったら、ちょっと……かなり気にする。

 すでにこの世にいない女性だとしても、ヨリを戻すという展開があり得なかったとしても、それでもずっと心の中で想い続ける女性がいることに、私は複雑な気持ちを抱いてゲームをプレイしていたことを思い出していた。


 私はちらりと先生の横顔を見る。

 本当は少し距離を置いて背後を歩きたかったんだけど、先生が歩調を合わせると同時に「一緒に歩かないと意味がないだろ」と、至極当然のことを言われたから隣を歩かざるを得なくなったのだ。

 先生は浮かない顔をしているように見えた。

 一体、今は何を考えているんだろうか?

 ジークフリートが登場したことで、思いの外あっさりと退場したレオンハルト。

 だからあの場にレオンハルトがいたことも、リンについてジークフリートと会話をしていたことも先生は知らないはずだ。事情聴取の時、ジークフリートはレオンハルトが生きていたこと、そして彼が現・教主になっていたことを話していない。

 私の前で話していないだけかもしれないけど、少なくともレイス先生やソレイユ先生が取り乱している様子は見られないから、きっと話していないんだろうと思う。

 ジークフリートの思惑はわからないけど、リンにトドメを刺したのは養父であるジークフリート本人であるし、養女だったリンが三人と親しかったことも知っていたはずだ。

 気を使ったのか、それとも言い出せない何かがあったのか。

 一介の生徒が大英雄にそんなこと、聞けるはずもなく……。


「モブディラン」

「えっ? あっはい!?」


 唐突に話しかけられて、私の声は引っくり返る。

 そんな私の態度に先生はついに痺れを切らしたのか、困った風な顔で聞いてきた。


「お前にとって、俺はそんなに怖い先生か?」

「え……、なん……で……ですか?」


 笑顔を取り繕うにしても、きっと顔は引きつり過ぎているんだろうな。

 顔面がピクピク痙攣してるのが自分でもわかるんだもん。

 そりゃおかしいと思うよね?


「違うんです、先生のことが好き過ぎて緊張してるだけなんですってば……」

「え?」

「え?」


 え?

 今、私……、え……?


「好き……って?」

「……っ!!」


 やってしまった!


「あわ、あばば……、ち……っ、ちが……っ!」


 慌て過ぎて頭の中が真っ白になる。

 まばたきを一秒間に何回する気だってくらい動揺する。

 首をムチウチになりそうなくらい激しく左右に降って、両手は高速バイバイみたいになって降り続ける。

 

 やってしまったやってしまったやってしまったやってしまった!


 いつかはしてしまうんじゃないかと思ってた!

 たまにしてたもん!

 心の声をそのまま無意識に口に出してしまう失敗を!

 しかも最悪なことに、こんな時に、先生相手に、あんなセリフを口にしてしまうなんて!

 終わった終わった終わった終わった!


「モブディラン、俺は」

「わかってますから! 何も言わないでください! 先生が生徒の私のことなんて子供としてしか見れないことなんて百も承知なんだから最後まで言わなくて結構! わかってるんで! 先生にはすでに心に決めた相手がずっといることくらいわかってますから! だから何も聞かなかったことにしてください! 何もなかったんです! 私なんて存在は最初からなかったんですから!」

「落ち着け」

「もう寮はすぐそこなんで! もういいですから! 今日はもう何もなかったから!」


 だから、もっと悲しくなる言葉を口にしないで!


「いや待て、玄関まで送るから……」

「ステルス!」

「モブディラン!」


 先生に『スキル無効化』を使用される前に、私は『ステルス』を使って姿を消した。

 腕とか肩とか掴まれてなくてよかった。


「お休みなさい!」

「モブディラン! おい!」


 きっと先生は何が何だかわかってないだろう。

 私だって混乱し過ぎて、今なんかとてもまずいことをしたって思ってるもの。

 でも先生に向かって好きって言ってしまって、その場ではっきり断りの言葉を告げられるのが怖かった。

 付き合いたいとか、好きになってもらいたいとか、そういう願いはとっくに捨ててるけど、一番言われたくない言葉を先生の顔で、声で、聞きたくなかったから。


『俺にはまだ、忘れられない女性がいるから』


 サラが先生ルート突入時に、先生に告白する場面。

 そこで一度サラは玉砕している。

 最終的には先生もサラのことを愛することになって、一応両想いになるんだけど。

 私はプレイヤーとして聞いただけで、サラになった気で聞いたわけじゃないから、その時は感情移入なんてしてなかった。

 だからその時は「あ〜あ」としか思わなかったけど、いざ自分に向けて言われるとなるときっと正気じゃいられなくなる。


 絶対に変だと思われた。

 なんだこいつって思われた!

 せっかく先生に褒めてもらえたばかりだったのに!

 自分で自分を落としてどうする!

 いい流れになってきたと思ったのに、時間を戻せるなら戻したい!

 セーブしたところからやり直したい!

 

 私は泣きながら寮へ戻り、まっすぐ自分の部屋に入るとベッドにうずくまって恥ずかしいくらいギャン泣きした。年甲斐もなく、みっともなく、先生に変な女だと思われたことがショックで、自分の失態に後悔して泣き続けた。


 明日は実戦演習当日、これだけ泣けば相当に目が腫れることだろう。

 でも大丈夫。

 モブの私のことなんて、きっと誰も気付いたりしないだろうから。


 ……先生以外は。

さぁ、この先の展開をどうしましょう。

次回をお楽しみください。


よければブクマ登録など、よろしくお願いします。

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