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29 「守りたい、この笑顔」

今回は少し長くなりました。

よろしくお願いします。

 私が先生や騎士団の人達に話したことは三つ。


 一つ目は、邪教集団の狙いが聖女候補であるサラで、その命を奪おうとしていること。

 二つ目は、今後も事あるごとにサラを狙ってくる上に、学園内にはまだ邪教信者が関係者として紛れ込んでいること。

 三つ目は、魔王復活の準備は着実に進んでいること。恐らく年内にはその準備が整い、実行に移すこと。


 ゲーム内では邪教信者の目的が当初はまだ不透明だったから、対策が常に後手後手に回っていたけれど。

 こうして明確に周知させておけば、サラを中心に警戒が出来るし、先生も常にサラに気を配っていつでも守れる状態を作ることが出来る。……羨ましいけど、仕方ない。この世界の主人公は聖女であるサラなんだから……。

 後は魔王復活に関して、これだけ話しておけば騎士団の方で警戒心を煽ることが出来て、上手くいけば国全体で総力を上げる結果に繋がるかもしれない。

 あ、でもこのことだけは話しておかないと。


「私を襲ってきた邪教信者のほとんどは、見た目は普通の人間ばかりでした。昔は異種族ばかりで構成されていたらしいですけど、今は異種族を擁護する団体として集まっているみたいでした」


 この世界の異種族は代表格として亜人や獣人、エルフやドワーフにホビット、そしてダンピールなど。

 特に異形とされる獣人は獣人だけで作った国がある為、ラヴィアンフルールには滅多に登場しなかった。見た目がほとんど普通の人間と変わらない亜人やエルフなんかは、時々登場する程度。

 ドワーフやホビットも獣人と同じように独自の国家内で治めているから、作中では「共存している」という表記だけで、特に深く関わることはなかった。

 ゲーム本編でも別に異種族差別が中心となる物語ってわけじゃなくて、あくまで物語の背景として表現されるだけで異種族間での戦争に発展するほどの壮大なストーリーでもない。

 これはあくまで乙女ゲームだ。そういった背景があるだけで、異種族差別がテーマの物語というわけじゃない。

 だから異種族に関して必要以上にデリケートに扱わなくてもいいかもしれないけど、今私がいる『ラヴィアンフルール』では何が起きるかわかったもんじゃない。

 一応、念のために異種族を下手に刺激しないように。差別が更に悪化しないように、最低限気を使った方がいいと思って付け加えた。

 それでも異種族が誰一人として邪教信者じゃないとも言い切れない。

 現にダンピールであるゾフィは邪教信者の内の一人だもの。


「魔王復活を事前に阻止する為に、国の方で総力を上げてもらえると国民も安心するでしょうけど。これをきっかけに異種族に対しての差別が加速しないように、騎士団の方々にはそれだけお願いしたくて……。話の腰を折ってすみませんでした。私から出せる情報は、これ位です」


 今は、ね。

 後は先生を通して、A組生徒達の戦力強化を促す為にどうしたらいいのか。

 その辺を考えていかないと。

 

「ご協力ありがとうございました。怪我は完治しても怖い思いをしたんです。ゆっくり休んでください。こんな時間まで学園の生徒の方を拘束してしまい、申し訳ありません。寮まで我々がご案内いたします」

「いえ、お気遣いありがたいですが、私の生徒ですので。寮へは私が責任を持って送ります」

「そうですか。重ね重ね申しわけありません、隊長殿」


 その場にいた騎士三人が先生に向かって敬礼した。

 たまに忘れそうになるけど、先生は第七騎士団の隊長……。

 ここにいる騎士さんより上の立場の人間、なのよね。


「後のことは頼んだぞ、ソレイユ」

「あいよ、可愛い生徒をちゃんと送り届けんだぞ」

「……っ! こんな時にふざけるな、はっ倒すぞ」

「……ふ、ふざけてなんかなかったけどな? あれ? お前もしかして……? ん?」


 え? 今の……って?

 見ると先生はハッとした様子で、顔を真っ赤にさせながら歯を食いしばっていた。

 それから「行くぞ」とぶっきらぼうに言うと、私の腕を掴んで部屋を出る。


 ドアが閉まってからその手をすぐに離して、私は複雑な気持ちになった。

 もうちょっと先生の握力の強さを満喫したかったのか、恥ずかしさの余り早く手を離して欲しかったのかわからない。

 先生は私に背を向けたまま、話しながら歩き出す。

 私はその背を追いかけるようについて行くけど、時々私の様子を窺っては歩調を合わせてくれた。


「今日はすまなかったな、モブディラン。生徒であるお前を危険な目に遭わせるつもりはなかった」

「……わかってますから、気にしないでください」

「その……、怖い思いをさせてすまなかった」

「確かに怖かったけど、助けに来てくれた人がいたし……。それに先生だって、私は覚えていないけど私のことを助けに来てくれたんですよね。ありがとうございます」


 あれ? 私、普通に会話出来てる?

 多分先生と対面してないからだ。背中に向かってなら、必要以上にドキドキしなくても言葉が出て来る。

 だからあえてジークフリートに関してもぼかして話すことが出来た。

 今はもうリンのことで誤解は解けているだろうけど、一応……。余計なことは話さないでおく。

 それはそれとして、心臓の鼓動は今もなお激しく鳴りっぱなしだけど。


「ご両親にも一度謝罪を」

「あっ、それは大丈夫です。むしろ話さないでいて欲しいというか」

「そういうわけにはいかないだろう。これは教師としても騎士としても、不手際が過ぎることだ。きちんと事情を説明し、謝罪をしなければ」


 どんだけ真面目なんですか。

 ていうかこっち振り向かないでください!

 私の何もかもがキャパオーバーしちゃうから!


「あ、あ、あ……っ、いや……っ、結果的に無事で済んだわけですしっ! 家族に余計な心配かけたくないですし……っ! 何よりモブディラン家がモブスキルを使って、誰かに存在を認識されたっていう方が、その……っ、家の恥になってしまうというか……っ! そうなると逆に私が両親から、えっと……っ、お説教されてしまうので……っ! だから……っ、内密にしてもらえると……そっちの方が助かりますと言いますか……っ!」


 動揺しまくって噛み噛みになってめちゃくちゃみっともないけど、即興で作り話出来たことは自分で褒める!

 先生が信じてくれるかどうかわからないけど。

 泳ぐような視線の中、先生の顔を見ると本気で申しわけなさそうな表情をしていて、心苦しくなりながらも「このお顔もセクシーで素敵」と思ってしまう私の根性をぶん殴ってやりたい。


「お前は偉いな」

「えぇっ……?」


 なんでそうなるんですか?

 先生はまた前を向いて歩き出すと、目の前にある階段を下り始める。身長の高い先生をずっと見上げていた私は、初めて先生を見下ろす形で階段を下りて行く。

 なんていうかこう、少しでも距離を空けないと先生のかぐわしい芳香が漂ってきて、余計に緊張して色々としくじりそうになるの! だから別に先生のことが嫌で離れているわけじゃないから、そこは勘違いしないでいただきたいです!


「自分があんな危険な目に遭ったというのに、泣き出しても不思議じゃない状況だというのに。お前は最後まで泣かなかった。相手に屈しなかった。弱音も吐かなかった。ブラウンに傷を癒してもらって、精神的に参っていてもおかしくないのにお前は怪我を治してもらったお礼をきちんと出来た。それにまだそれほど時間が経っていないというのに、事情聴取する為にまた恐ろしかった経験をもう一度話すということにも協力してくれた。普通の子供が出来ることじゃないと、俺は思うよ」

「そ、そんなに褒められたら……。私、どうしたらいいかわからなくなります……。結局メモは敵に渡してしまってるし、警笛を鳴らして先生を呼ばなかったし、気絶もしてる。怪我を治してくれたサラにはお礼を言ったかもしれないけど、お見舞いに来てくれた他のみんなにはお礼どころか会話すらほとんど出来なかったし……。事情聴取だってそうです。必要なことだけ話せばいいのに、余計なことまでペラペラと……。分不相応だったと反省してるところなんですから……。だから私はちっとも偉くなんてないですよ」


 先生を心配させてしまったのは私のミス。

 先生の笑顔を守る為にモブ令嬢として生きて行こうって決めていたのに、私が原因で心配させていたら元も子もない。だから私は今回のことを大いに反省しないといけない。……全く偉くなんかない。

 私が自分のことを責めていると思ったのか、先生は踊り場で足を止めるとこちらをもう一度振り向いた。

 柔らかくて優しい笑顔……、私は心臓が止まりそうになって息を飲む。


「今年受け持ったクラスに、お前みたいな生徒がいてくれて良かったよ」

「……っ」


 愛の告白でもなんでもないのに、まるで心底惚れた相手からプロポーズでもされたかのような衝撃が私の中を駆け巡った。胸の奥がとっても温かくなって、ふわふわとした心地になって、頭の芯が麻痺していくような変な感じ。

 目頭が熱くなってきて、感動して泣いてしまいそうだった。

 それでも私は唇を噛んで必死に堪える。先生に変な風に思われるわけにはいかないから。

 今すぐにでも告白したくなるような気持ちになっちゃったけど、実際は全くそういう状況じゃないのはわかってる。

 先生は生徒である私が思ってたより図太くて安心してるだけなんだから!

 喜ぶな! 普通に受け取れ私! 先生は私のことを生徒として褒めてくれてるだけなのよ!

 それだけで十分だろ! それ以上何を望むってのよ! 

 私はこの笑顔を、今ここで見た笑顔をこれから先もずっと……、見続ける為に……っ!

 この優しい笑顔が消えてしまわないように……っ、守る為に生きるんでしょう?

 その為には私の恋心なんて、しまうしかないでしょう?


 私は淡白という名の成分で作られた顔に精一杯の笑顔を貼り付けて、先生に応えた。


「そうですよ、先生はラッキーなんですからね」


 笑顔はしっかり貼り付けられたと思うけど、この一言しか今は絞り出せなかった。

恋心をしまわないといけないので、どうしてもしんみりしちゃう場面になってしまいます。

次回もよろしくお願いします。

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