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28 「聖女ルート」

本編に戻ります。

 その日の夜、つまり実戦演習のある月曜日前日。

 私は学園長の許可を得て、アンフルール学園の校舎内にある一室で数人の教師達と、そして騎士団の人間数名と対面していた。

 話は当然、邪教宗派に襲われていた時のこと。

 あの襲撃の目的は、A組の実戦演習が行なわれる場所が書かれていたメモ……。

 なぜそれを狙ったのか、邪教宗派の真の目的は何なのか、それに関して何か見聞きしていないか事情聴取させられている。


 正直、私は怒っていた。

 私がE・モブディランとして転生してから、ここが『ラヴィアンフルール物語』の中であることはわかっているけど、物語進行がちっとも公式通りに進んでいないことに怒っている。


 乙女ゲーム内の主人公にしてヒロインのサラは、実は裏表の激しい嫉妬深いヒステリーだった件。


 サラが二学期以降に聖女として覚醒して、邪教信者から身を守る為に先生から渡されるはずの警笛が、一学期の時点でなぜか私に手渡された件。


 サラの邪魔をする邪教信者の悪役令嬢であるゾフィが、なぜかサラではなく私にターゲットを変更したのかという件。


 物語の終盤で登場するはずの邪教宗派の現・教主レオンハルト、そして国の伝説的英雄ジークフリートが、またしても一学期の時点で登場した件。


 何もかもゲームシナリオ通りに進んでいないことに、私は腹を立てている。

 こんなことをされたら、ゲーム内容を全て知り尽くしている私の知識でマウント取れないじゃない! それだけが唯一私に出来る有効な手段だったのに! ゲーム通りに進行しなくなったら、何が起きるのか予測して動かないといけなくなる。

 どうせなら私は「この後に、このイベントが控えているから、こうした方がいいな」って先手を取りたかったの!

 なのにもはや何が起きるのかわからない状態だったら、色んな可能性を模索してあらゆる想定をしないといけなくなる。先手がいいの! 後手は嫌なの!


 だから私は反逆することにした。

 ゲームのシナリオ? 物語の起承転結? ルール? ネタバレ? もう知るか!

 こうなったら私は私で攻略していくわよ!

 周囲から不自然に思われない程度に、私に都合がいいように話を展開させてやるんだから!


「それで、彼等の目的は……聖女の暗殺、ということなんだね?」


 騎士団から派遣されてきた騎士が私にそう訊ねた。

 今この部屋にいるのは担任教師であるレイス先生、同じく襲撃の時に居合わせたソレイユ先生、騎士団から派遣された騎士がもう一人、私を助けた大英雄ジークフリート、そして裏切り者のヒューイ・コンラート。

 ヒューイは椅子に縛り付けられていて、騎士が付きっきりで監視している状態。少なくともこの部屋にいる私以外の全員が戦闘経験のある猛者ばかりなんだから、暴れられるはずも逃げられるはずもない。


「しっかりと聞きました。まだ聖女として覚醒はしていないけれど、その才能が聖女としての資格を十分に満たしているから、聖女候補だと……。魔王復活に邪魔になるから、先手を打って仕留めておく為に学園外での演習を狙おうと。それでどうしても場所が知りたかったみたいで……」


 これは本当の話だから、ヒューイが反論してこないのは当然。

 でもゲーム内ではなぜA組が邪教集団に襲撃されたのか、この時点ではその理由がわからないようになっている。だってこの頃はまだサラが聖女に覚醒することもなければ、聖女候補だったということも明かされていない。

 この調子で、ゲーム内では不利だった状況を好転させてやる。


「なぜブラウンが聖女候補なのか、それについては何か言っていたのか?」


 先生を騙すみたいで心が痛むけど、これも私達が有利になる為だから!

 心を鬼にして、いつものように平常心で満たされた顔をするのよ!

 何を考えているかわからないような、何の特徴もない平凡なのっぺり顔を活かす時よ、私!


「私の怪我を治してくれた時に、先生とサラが教えてくれた治癒術の違い。その話で合点がいったんです。相手は確かこう言ってました。通常あり得ない治癒術を使う者は、奇跡の力を行使出来る。それはつまり神に愛されし奇跡の神子……聖女にしか成し得ないことだって。だから一般的なヒーラーが使う治癒術とは全く性質が異なる治癒術が使えるサラが、聖女である可能性が高いって。聖女候補だから始末しなければいけないって言ってました」


 私の言葉で、全員が息を飲んだ。

 この世界で聖女という存在は特別だから仕方ない。聖女は神の代行者のようなもので、あらゆる奇跡を行使することが出来る聖なる存在。悪を滅ぼし、世界に平和をもたらせる奇跡の象徴。

 でもその実態は……。

 私は両目を閉じて、『ラヴィアンフルール物語』の物語後編を回想する。


 聖女は魔王の天敵であり、世界の均衡を保つ礎となる存在。

 つまりそれは世界の柱としてその身を捧げる、生贄のような存在という意味だった。

 聖女として覚醒したサラは、その名の通りあらゆる悪を一掃し、邪悪な存在に対しては無双する程の圧倒的な強さを見せつけた。この辺りは正直ゲームバランスがぶっ壊れているんじゃないかって位、戦闘がぬるすぎて一部のプレイヤーからアンチが出てきた程だ。

 でもそれはあくまでゲーム内の演出に過ぎない。

 その理由もちゃんとストーリー上で回収されるとは誰も思わなかった。邪悪な存在を一掃していく聖女サラの無双っぷりは、そのまま物語にも影響していく。

 邪教宗派を壊滅させ、教主レオンハルトとの戦いにも勝利し、かろうじて復活した魔王すら聖女と仲間達の力で打ち倒す。

 だけど、そこで物語は終わらない。

 邪教宗派を壊滅し、魔王を倒すことが聖女の目的……、役割じゃないからだ。

 聖女は今後一生この世界を安寧の地とする為に、その身を永遠に世界の中心に捧げなければいけなかった。

 世界を支える中心、世界樹イグドラシルの中に入って、世界の均衡を保つ礎として永遠にその中で生き続けなければいけないという。

 聖女がイグドラシルの中で生き続ける以上、魔界や冥界といった異界から悪意ある者がこの世界に関与することが一切出来なくなるという。

 聖女とはそういう役割を持った存在なのだ。

 それぞれの攻略対象達は、最後のこの選択で大いに悩まされてきた。


「聖女サラを世界に捧げる」

「人間として生きていく」

「一人の人間サラとして、この手で殺す」


 世界に捧げない選択を選ぶ場合、サラの未来は攻略対象の手で命を絶たれる結末となる。

 それはなぜか……。

 聖女として覚醒し、イグドラシルに迎えられる場面で「人間として生きていく」という選択をした場合、そこでサラは無情にも「神に逆らった裏切り者、追放者」として異形の怪物に変貌してしまうのだ。

 これまで「神の寵愛を受けた聖女」として奇跡の力を行使して、数多くの邪教信者や魔物の命を奪ってきた報いが反動となってサラに還る。

 初見殺しというやつだ。

 初めてエンディングを迎えた人は、「聖女として世界に捧げる」ことがどういうことか事前にアーカイブで説明を受けている為、最初にこの選択肢を選ぶプレイヤーは少ない。

 バッドエンドから回収していくタイプのプレイヤーなら話は別だけど、大抵の人間は安牌に見える「人間として生きていく」を選ぶだろう。

 そうしたら想像を絶するエンディングが用意されているなんて、誰も予想出来ない。

 世界に捧げず、攻略対象の手で殺されるという無情の選択をすることなく、人間として平和に生きていこうとして選択した結果、その場でサラは醜い化け物へと変貌し、その意識も残っておらず、結局仲間達の手で葬り去られるという結末。

 だからこの三択が出た場合、最も最悪な選択肢は「人間として生きていく」だ。

 もう一つ、これもバッドエンドにしか見えない「この手で殺す」は、プレイヤーによっては涙なしでは見られない感動のラストが用意されている。


 この初見殺しのような三択は、あくまで攻略対象の親愛度がMAXになっていない時に現れるもの。

 攻略対象との親愛度がMAXでエンディングを迎える時の通常の選択肢は「聖女サラを世界に捧げる」と「人間として、攻略対象と生きていく」の二択になる。 

 これで「攻略対象と生きていく」を選択した場合には、サラは化け物に変貌することなく攻略対象と慎ましやかに暮らしていくというものになる。

 この場合、異界への門が閉じられていない状態だから一生平和な世界ではなく、時々現れる魔物との戦いや攻撃に恐怖して人々は生きていく、という世界の結末が待っている。


 これが『ラヴィアンフルール物語』の聖女の実態だ。

 この事実は国の上層部しか知らないもので、王子であるルークですら知らない秘匿情報。

 何も知らない一般人からすれば、聖女と聞けば「神々しい存在」「人間の味方」「奇跡を行使する心優しい聖人」という認識しか持たないだろう。

 ここにいる全員、サラに対してそう思っているはず。

 だけど私は違う。今ここで聖女の実態を明かすわけじゃないけど、その内こちらにとって最も都合のいい展開に持っていけるように利用してやるんだから!

 全ては先生の幸せの為に!(だってサラは先生の生徒だから、何かあると先生が悲しんじゃう……)


「メモは渡ってしまったけど、暴行のどさくさで最初の文字しか読み取れないようになってます。だから恐らく敵は演習場所であるアインゲートホルクという地名に近い場所へ、信者を分散させて襲撃する計画を立てると思われます。一斉攻撃は免れることになるから、それに備えてこちらも万全の状態で迎え撃つ準備をしておけば……」


 ここまで雄弁に語っておいて、私はハッとした。

 全員が唖然とした顔で見ている。

 そ、そ、そうよね!?

 こんなどこからどう見てもしがない一般人が、こんなことを偉そうに語るなんておかしいよね!?

 逆に私が動揺して「違うんです」と言わんばかりに首を振っていると、先生が真顔でこんなことを言う。


「モブディラン、作戦課に希望変更した方がいいんじゃないか?」


 優秀な作戦課なら、もっと具体的で合理的な戦法思いついてますからああ!

 私のはただのオタクによる安直な提案ですからああ!

設定資料版「モブ令嬢は推しの為なら悪になる!(以下略)」を公開しています。

現在は「E・モブディラン」と「レイス・シュレディンガー」の二つが登場人物紹介として、投稿しているので興味があったら是非。

本編で書いていない、ちょっとしたものも書かれています。

見なくても本編に影響がないよう、こちらをメインに頑張ります。

よろしくお願いします。

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