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閑話 義輝の興味



 征夷大将軍足利義輝は日帰りの予定だった。いくら将軍としての実権を父が握っているとはいえ、細川との和解の話も出てきた今この状況で長期間の留守をするのも憚られたためだ。


 しかし、一旦堺にまで戻ってきた義輝は、そうも言っていられなくなってしまった。


 湊に集まる人だかり。

 近くにいた人間に話を聞くが、どうにも要領を得ない。『巨人が現れた』だの、『薬師如来の奇跡』だの、まだまだ子供と呼べる年齢である義輝ですらにわかには信じられない話ばかりだったためだ。


 人混みをかき分け、堺の湊から海が見える場所まで移動する。


 海の上には――今朝までは無かったはずの……道? ができていた。


 材質は岩だろうか?

 あれだけ巨大な『道』であれば見逃したというのも考えがたい。


 義輝も『桟橋』というものくらいは知っているが、この時代のものは小さな木製のものばかり。海上に現れた“それ”を桟橋と認識できなくても無理からぬことであった。


 大型の桟橋にはすでに南蛮船が横付けされており、船から直接荷下ろしがされている最中だった。


 義輝は民の仕事にそれほど詳しいわけではないが、あの『道』があるおかげで船からの荷下ろしがだいぶ楽になったのだろうということくらいは察することができた。


 と、見知った顔を見つけた義輝は声を掛けてみることにした。


「おぬし、たしか武野紹鴎であったな?」


「……っ! これはこれは、お久しゅうございます」


 紹鴎には『公方様』と呼ばない程度の分別はあるようだ。本人が気軽に名乗りすぎるせいであまり意味のない気遣いになってしまっているが。


「なにやらずいぶんと騒がしいな。何かあったのか?」


「いえ、帰蝶様が作ってくださった『大桟橋』をさっそく試しに使ってみているのです。いやはや、これは中々に便利なものですな」


「きちょう?」


「はい。斎藤帰蝶様。美濃国守護代斎藤道三の娘であります」


 美濃のマムシの噂は義輝もよく知っている。が、今はそれより気になることがあった。


「……作ったとは、また異な事を。女子おなご一人であのような『大桟橋』とやらを作ったと?」


 相手は将軍。下手な嘘をつけば首が飛ぶ。それを分かっていながらも紹鴎は深く頷いた。


「はい。あの光景は直接見た手前でも信じがたく……。まさしく薬師如来の奇跡。まさか一瞬であれほどのものができあがるとは……」


 紹鴎の瞳に浮かぶのはもはや狂信のそれ。やはり信じがたいのだが、紹鴎ほどの者が妖術使いに騙されるということもないだろう。

 なにより、今朝まではなかったはずの『大桟橋』は確かに目の前にあり、ああして人が乗り、荷物も降ろしている。


 幻覚ではない。


 であるならば。その『帰蝶』とやらは本当に大桟橋を一人で作ってみせたわけであり。

 いいや、たとえ一人ではなく協力者がいたとしても、一日も経たないうちに、あれだけの大工事をこなせるならば真実などどうでもいい(・・・・・・)



「――欲しいな」



 大桟橋を作ったという『術』があれば、堅固なる城も容易に作ることができるだろう。堀も、土塁も、任意の場所に設置することができるだろう。それは未だ確固たる拠点を築けていない義輝にとって貴重すぎる『力』だ。


 欲しい。

 ぜひ欲しい人材だ。


 もし側に置けるならば――我が妻に迎えてもいい。義輝は半ば本気でそう考えた。




死亡フラグ(死因:帰蝶)を立てる義輝であった……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 立場を利用して三ちゃんから取り上げて帰蝶を娶ろうとする →三ちゃんがキレる(この時点なら帰蝶は「モテる女は辛いなー」とかニヤつくだけの可能性あり) 更に立場を利用して三ちゃんを手打ちにしよ…
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