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【2巻 4/15 発売!】信長の嫁、はじめました ~ポンコツ魔女の戦国内政伝~【1,200万PV】【受賞&書籍化】  作者: 九條葉月
第一章 運命の出会い

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07.これからの予定

 



「さて、どうしたものか……」


 父様の要望に添い治癒術士を増やすことはさほど難しくはない。才能がある人間を集めて、基本を教えたあとは実践で鍛え続けさせればいいのだから。


 この国には光秀さんのように魔力を操る才能がある人間自体はいる。なのになぜ魔術師や治癒術士がいないかというと、そもそも教える人がいないからだ。


 たとえば馬に乗る習慣がない世界があったとして、いきなり馬に乗ろうとする人間は滅多にいないだろう。……いや、天才の類いであれば『馬に乗れるかもしれない』と考え、努力の人がいれば実際に乗れるよう訓練するかもしれないが、こと魔法に関しては話が別だ。


 馬は目に見えるが魔素は目に見えない。野を駆ける馬を見て『乗りこなせれば早く移動できるかも』という発想に至っても不思議ではないが、目に見えないもの・存在するかも分からないものを操ろうとするのはもはや狂人の類いだ。


 認識できないのなら存在しないも同じ。

 観測機器が発達するまで原子や分子が存在しなかった(・・・・・・・)ように。いつかの未来において魔素が観測されるようになれば魔法も発達することがあるかもしれないけれど、現時点においては魔素は存在しないし、それを使おうとする者もいない。


 私が才能のある人間を見つけ、治癒の魔法を教え込めば近い将来日本人の治癒術士は誕生するだろう。そうして誕生した治癒術士がさらに弟子をとり続けていけばかなりの数の治癒術士が生まれるはず。


 でも、治癒術士だけで日本の患者すべてを治すことは不可能だ。貴族や大名などのお偉いさんは治癒術士を使い、他の者たちは医学に基づいた治療を受けるといった棲み分けが必要――というか、自然とそうなっていくだろう。一瞬でケガが治り、加持祈祷よりも確実に病魔が去る。そんな治癒術士に権力者が目を付けないわけがないのだから。


『加持祈祷は宗教家の領分。治癒術士が世に出れば彼らと対立することになるでしょう』


 プリちゃんの指摘は今日も冴え渡っていた。言われてみればそうかもしれない。元の世界では治癒術士が一般的で、教会勢力はむしろ治癒魔法を“神の御技”として利用してすらいた。しかしこの世界の仏教勢力や神道、基督(キリスト)教がそう思うかと問われると……。


『彼らからすれば邪法でしょうね。基督教などは魔女認定してくるかもしれません。神の子の成し遂げた奇蹟を乱発するのですから』


「厄介だなぁ。まぁそのときは権力者様に守ってもらえばいいか」


 私が直接教えるのだから第一世代の治癒術士は私の弟子だし、弟子が教えた子たちは孫弟子だ。そんな人たちが狂信者に迫害される様なんて見たくない。

 幸いにして治癒術士は役に立つから権力者も積極的に保護してくれるだろう。


「あとの問題はこの時代の医療水準かな」


『病気になれば加持祈祷。ケガをしたら尿か塩を傷口に塗り、馬の糞を水に溶いたものを飲む。腸が飛び出ていたらとにかく押し込んでから縫合。とても素晴らしい医療水準ですね、とても真似できないですね』


 皮肉が効きすぎである。


「とりあえずちゃんとした消毒液の作成かな」


『主様の得意分野ですね』


「元の世界も消毒の概念がなかったからね」


 さすがに傷口へ糞尿を塗るようなことはなかったけど、きちんとした消毒液も存在しなかった。なので百科事典プリちゃんの知識も提供してもらい、お酒から造ったエタノールやコークス製造のついでにできた石炭酸フェノールから消毒液を作ったのだ。


 コークスはすぐには無理だけどエタノールなら大丈夫だろう。要は蒸留酒を造ればいいのだ。そしてアルコール度数が60~70%くらいになるよう調整すればいいのだ。うちの師匠が飲んべえだったので、作り方は叩き込まれた。


 あとはお酒を買ってきて蒸留して……。


『この時代の酒は基本的に濁り酒ですが、蒸留酒は造れるのですか?』


「造れる……と思うよ? やってみないと分からないけど。いざとなったらお米を買って清酒を……」


『お米を買う元手はあるので?』


「……国王陛下からもらった金貨や銀貨なら有り余ってるけど。使えるかな?」


『お(かね)としては使えないでしょうが、(きん)としては使えるでしょうね』


 つまり貨幣としてではなく貴金属として使えと。ま、いざとなったら錬金術で金を作ればいいか。


『錬金はいいですが、金相場が暴落しない程度にしてくださいね?』


「ははは、なんだいその口ぶりはー、まるで私が金相場を暴落させたことがあるみたいじゃないかー」


『…………』


 プリちゃんの熱視線に心が折れそうだった。


 まぁとにかく。信頼できる商人か両替商を見つけなきゃなぁと私が考えているとプリちゃんが少し真面目な声を上げた。


『ポーションはどうするので?』


「……どうしようかな?」


 ポーション。異世界ファンタジーでおなじみの万能回復薬だ。もちろんというか何というか私も作成することができる。


 まぁポーションとは言っても魔法魔法しているものではなく、前世の知識とプリちゃんの協力によって作られる医療用ナノマシンなのだけど。


 ナノマシン・ポーション。これは増殖させた医療用ナノマシンを使って肉体を修復したり病原菌を退治したりするものだ。


 ポーションはプリちゃんもいるから作成自体はできる。何かの拍子に私がこの世界からいなくなっても元となるポーションからナノマシンを株分けしていけば継続した大量生産も可能なはず。


 でも、ポーションが広まってしまうとその手軽さから治癒術士や医術が駆逐されてしまうだろうし、そうして他の手段が滅びたり進歩しなくなったあとポーションが何らかの理由で作成できなくなったら一大事だ。治癒術や医術を捨てた人類は容易く流行病に屈してしまうだろう。


「……ポーションを大々的に作るのは無しで。万が一のためにいくつか準備しておくに留めましょうか」


『賢明な判断かと』


 プリちゃんが珍しく褒めてくれたので私は治癒術士育成と簡単な医術の伝授をはじめ――


 あ、まずは生徒を集めなきゃだね。




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