閑話 危うい男
「これは危ないかもしれませぬ」
平手長秀の言葉に太田牛一は「いやいや」と軽く手を上げる。
「そこまで危なくはないでしょう。今の斯波家に、命を賭してまで政秀殿の命を狙う忠臣はおりませぬ。ほとんどの人間が儂に三郎様との繋がりを求めているくらいで」
繋がりを求める。
つまり、織田信長に仕えられないかと画策しているということなのだろう。
それはそうだ。
このまま斯波家に使えていたところで禄(給料)すら出るか怪しいし、戦もないだろうから恩賞をもらえる当てもない。ここは飛ぶ鳥を落とす勢いの織田家に鞍替えした方が利口に決まっている。
「それに、万が一に備えて由宇殿が護衛に向かったのです。あの帰蝶様に剣を向けたほどの政秀殿と、若手一の武勇を誇る由宇殿。二人が合わされば多少の襲撃者など……」
「それが、危ういのです!」
突如とした長秀の叫び声に、牛一も森可成も目を見開く。
そんな彼らを一瞥してから長秀は厩(馬小屋)へと走り出した。
無論牛一と可成も後を追う。
「お、お待ちくだされ! いや失礼いたした! 父君を心配する気持ちは分かります! ここは拙者も同行いたしましょう!」
よく考えなくても平手政秀は平手長秀の父。だというのに無神経だったかと反省する牛一だった。
厩に到着し、馬の準備をしながら長秀は呟く。
「では、こちらも失礼を承知で。――危ういというのはあの男です」
「あ、あの男とは?」
「由宇殿です」
「ゆ、由宇殿が?」
牛一としては戸惑うしかない。由宇は確かに斯波家への忠誠心が高いが、斯波義銀の最近の言動には辟易としているはず。まさか義銀の言いつけ通りに政秀を暗殺などしないだろうし……。
未だに楽観視する牛一に、長秀は少し冷たい目を向けた。
「あの御仁の目には――狂気があります」
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