閑話 本人の選択肢? ないよ
「となれば、三河は緩衝地帯として残すしかあるまい」
今川義元の言葉に、織田信秀も渋々頷いた。
「で、あるな。……ともすれば嫁殿が暗躍しそうであるが」
「うむ。やるだろうな」
やれやれとため息をつく信秀と、うんうんと頷く義元であった。帰蝶が解せぬったのは言うまでもない。
「しかし」
義元が試すような笑みを浮かべた。
「松平の小倅(徳川家康)が織田の手にあり、上和田砦を三河に食い込ませている現状、三河に対する織田の影響力が強すぎるとは思わぬか?」
「はっはっはっ、戦国の世よ。是非もあるまい」
「ふてぶてしいことよ……。だが、上和田の砦を落とせなかったのはこちらの力不足であるか。しかもそちらもかなりの銭と人を投入して城へと作り替えていると聞くし……うむ」
ぱん、と義元が手を叩いた。なんともわざとらしい動きだと信秀は呆れるしかない。
「松平の小倅の正妻、こちらで決めさせてもらおうか」
「ほぉ……?」
岡崎城の次期城主の妻が、今川の方から。さすがに義元の娘というわけではないだろうが、きっと譜代の家臣の家から娘を出してくるはずだ。――つまり、今川色が強くなる。
しかし、そのあたりが落としどころかと信秀は思う。
今川としては三河への影響力を目に見える形で残しておきたいだろう。
織田としては、小倅の身柄自体がこちらにあるのだからどうにでもなる。無論、今川からの嫁に手出しをすれば今川との全面戦争に繋がるので下手な手出しはできないが。
なにより。
ここで変に不満を口にして、纏まりそうな織田・今川同盟をご破算にすることは避けるべきであった。
それに、正直言って、織田は京を目指すのだから三河の優先度は低くなる。――織田と、今川。二大勢力から睨まれれば松平も下手な動きはできないだろう。
信秀としては呑んだ方が利口だ。
そして、おそらく。義元はそこまで読んでまで提案をしてきたのだ。このくらいならば信秀も受け入れるだろう、と。
恐ろしき男よ。
内心で舌を巻く信秀であった。
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