テンプレ反応は大事だよ
「ふぅ、ふぅ、これは中々……」
天守の階段を登り切り、息も絶え絶えな朝比奈さんだった。だからエレベーター(魔法の絨毯)を使えば良かったのにー。三ちゃんと可成君が断固反対したのよねー。
『そりゃそうでしょう。「今川の宿老をエレベーターで暗殺!」なんて事態になったら笑えませんし』
それはエレベーターの中でぶっすーっとするわけじゃなくて、エレベーターが大気圏まで急上昇してって意味よね? 調整済みだから安心安全だというのに……。
『あなたの「安心安全」ほど当てにならないものはありません』
解せぬ。
私ほど究極完璧安心安全ガールはいないというのに。解せぬ。
「ほぉ! これは絶景ですなぁ!」
呼吸も落ち着いたのか朝比奈さんが窓に近づき、天守から伊勢湾を望む絶景に感嘆した。やはりこの時代の人間に『天守からの絶景!』を見せるのは効くわよね。
『何でこういちいち腹黒いのか』
これのどこが腹黒いというのか。交渉前に絶景を見せてオープンマインドさせているだけだというのに。
『そういうところです』
こういうところらしい。
「いや、遠くからでも巨大な櫓だとは思っておりましたが……実際に登ってみるとまた格別ですなぁ!」
少年のようにキラキラと目を輝かせる朝比奈さん。まぁ現代人でも天守に登ったらテンション爆上がりだものね。戦国時代ならなおのこと。
そんな彼の反応にドヤ顔をしながら三ちゃんが地平線を指差した。
「朝比奈殿。海の果てをご覧くだされ」
「海、で御座いますか?」
「あの地平線は、少し丸くなっておりますでしょう?」
「……はぁはぁ、よく見てみれば、少し曲がっているように見えますな」
「南蛮人によると、大地は巨大なる丸であり、ひたすら真っ直ぐ進むとまたこの場所に戻ってくるそうなのです」
「ははぁ、真っ直ぐ進むと、この場所に?」
あまりよく分かっていなさそうな朝比奈さんだった。まぁいきなりそんな話をされてもね。
ここは妻としてサポートしましょう。というわけで不思議な力を使い、『現代』の地球儀を取りだした。
「ほぉ、これが大地であると?」
「南蛮では地球と呼ばれていますね」
「はぁ、『ちきゅう』でありますか……」
地球儀の中の小さな島国を指差す私。
「これが日之本ですね」
「なんと! この小さな島が日之本であると!?」
テンプレな反応をしてくれる朝比奈さんだった。グッジョブ。
『自分の知識をひけらかして……かなりのクズですね』
クズってあんた。もうちょっとこう言い方というものはないのですか?
『……自分で発見したわけでもない未来の知識を我が物顔で教え、感心されることによって、まるで自分が凄い人間であるかのように錯覚している悲しい存在?』
ぐはぁ!?




