馬防柵
朝比奈さんを連れて茶屋から那古野城に向けて歩く。
ちなみにあの茶屋は実験として色々なメニューを提供しているお店だ。かなり儲かっているみたいなので、そのうちチェーン展開してもいいかもね。
『またとんでもないことを考えている……』
お金が儲かればなんだっていいじゃない。
『そういうところです』
こういうところらしい。
「ほぉ、改めて見てみても、なんとも大きな道ですなぁ」
興味深そうな目で街道を観察する朝比奈さん。ここは元々那古野の城下町ではなく、末森城と那古野城を繋ぐ街道だったのだけど……。金のニオイを嗅ぎ付けた商人たちが街道沿いの土地を借り、次々に店を出しているのだ。
最初はそれでも那古野城の城下町近くに収まっていたのだけど、最近ではかなり遠くにまで広がっていて、門前町みたいな感じになってしまっている。
もちろん土地の所有者は三ちゃんなので、賃料だけでかなりの収入になっているそうだ。
「一つ伺いたいのですが、これほど大きな道では防御上の欠点となるのでは?」
「ふふふ、いい質問ですね朝比奈さん。まずはここをご覧ください」
私が足元を指差すと、そこには丸い形をしたフタが横一列に並んでいた。フタの直径は20センチくらい。現代日本的に言うと駐車場の入り口にある収納式のポールっぽい感じ。
「このフタは……?」
「普段は排水溝として使っているんですけど、有事に取り外してですね……」
百聞は一見にしかず。というわけで、実際にやってみましょうか。
「――すみませーん、ちょっと演習しちゃってくださーい」
と、道の脇に等間隔に設置してある詰め所へ指示を飛ばす私。
「ひえ!? き、き、帰蝶様!? い、いかがなさいました!?」
当直らしき足軽さんが出てきたので、命令。
「抜き打ち試験です。実戦だと思って柵を立ててください」
「ぎょ、御意に! お、おいお前ら! 準備しろ! 失敗したら首が飛ぶぞ!」
慌てふためきながら詰め所に戻る足軽さんだった。この『首が飛ぶ』というのは物理的なんでしょうね。こわいな戦国時代。
『あなたの方が怖いかと』
解せぬ。
そんなやり取りをしていると、さっきの足軽さんが他の足軽を引き連れてこちらに戻ってきた。両脇にはそれぞれ一本ずつ木の杭を抱えている。
まずは街道のフタを外す。すると深さ50センチくらいの穴が開いているので、両脇に抱えていた杭の一本目を立てていく。
そして林立した一本目の杭たちを繋げるように二本目の杭を横に合わせ、紐で結んでいけば……簡易の馬防柵の完成である。
穴はいっぱい開けてあるので、やろうと思えば50メートル間隔くらいで柵を作ることができる予定だ。




