表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/820

05.南蛮船の船長



 まぁとにかく、純粋な人助けのために水没した荷物を引き上げることを決めた私である。


『そういうところです』


 こういうところらしい。


 船の上からでも引き上げられないこともないけれど、近くにいた方が魔法の操作はしやすいので沈没地点まで移動することにする。


 ただ、弁才船で接近すると南蛮船と衝突する恐れがある。ここは単身近づいた方が良さそうだけど……。


 ふっふっふっ、昔の私なら空を飛んでいるところ。しかし私は日々学んでいるのだ! 空を飛ぶと悪目立ちする! 私学んだ!


 というわけで私は学習成果を発揮して魔法で足場を作製、海の上を歩いて沈没現場に近づいたのだった。


『……ちゃんと勉強しなさい』


 ちゃんと勉強してるのに……。解せぬ。


 今度は光学迷彩的な魔法を開発しようかしらと考えながら目的地に到着。まずはひっくり返っていた小舟を元に戻し、続いて海中から荷物を引き上げ、浮かせ、小舟の上に戻す。


 あとはちょちょいと沈んだ荷物の時間を戻せば――ふふん、完璧。完璧な仕事じゃないかしらプリちゃん?


『……ほんとうに今さらですけど、無詠唱で時間を戻すの止めてもらえません? 普通の魔術師が見たら憤死しますよ?』


 憤死とか使う人(妖精)初めて見たわ。

 私が妙な感動を覚えていると、



「――おぅ、嬢ちゃん。あんた“魔女”なのかい?」



 頭上からそんな声を投げかけられた。


 振り向くと、南蛮船の甲板からこちらを見下ろす初老男性の姿が。

 日本人とも、西洋人とも違う濃い顔つき。東南アジア系だろうか? 失礼だけど、この時代のアジア人が南蛮船に乗っていると『奴隷』としか思えないわよね。


「魔女とは失礼ね。こんな美少女が『魔』のわけがないでしょうが」


「……ははぁ、美しいのは同意だが、海の上に立てるのは“魔女”としか思えないがねぇ。いや聖書の語る『聖人』ならできるかもしれないが、嬢ちゃんはそんな柄じゃなさそうだしな」


 何がおかしいのかクックッと笑う初老男性だった。


 ちなみに。

 自動翻訳のおかげで普通に会話ができているけれど、他の人からは『ポルトガル語』で会話しているように見えるだろう。


 ポルトガル語を話す東南アジア人とか珍しいわねぇと私が考えていると――初老男性が船縁に足を掛け、そのまま海に飛び込んだ。


 よりにもよって私のすぐ横に。


 ばしゃーん、と。盛大に海水をぶっかけられる私。もしかして喧嘩売られてる? ここまで我が身を犠牲にした喧嘩の売り方はさすがに初めて見るわね……。


「――ぶはっ!」


 何事もなかったかのように海から顔を出す男性。さすが船乗りだけあって溺れる様子はない。


「……なにをいきなり飛び込んでいるんですか? 海水浴にはまだ早いですよ?」


「いやなに、嬢ちゃんが海の上に立っていたんでな。近くに飛び降りればもしかしたら俺も、と思ったんだがな」


「冒険心溢れすぎでしょう、初老のくせに」


「はははっ、嬢ちゃん。いいことを教えてやろう。いくつになっても男というのは冒険を忘れられないものなのさ」


「その結果が全身ずぶ濡れですか。素晴らしい冒険心ですね」


 そんな冒険心を発揮するのはいつものことなのか、他の南蛮船の船乗りたちは『ま~たやってるよ』って顔をしながらロープを下ろしてきた。

 そのロープを昇りながらながら初老の男性が少年のような笑顔を浮かべる。


「おっと自己紹介がまだだったな。俺はマラッカのエンリケ。この船の船長をやっている」


「……斎藤帰蝶です。美濃守護代の娘――と言っても分かりませんよね。地方領主の娘です」


「ほぅ、日本人なのか。てっきりヨーロッパ(南蛮)人だと思ったんだがなぁ。いや世界を一周した俺でも銀髪赤目なんて人間は見たことないがな」


 世界一周。

 この時代だとつい20年ほど前にマゼラン艦隊が史上初めての世界一周を成し遂げたばかりのはず。冗談なのか『ふかし』なのか……飄々とした初老男性の様子からはどうにも判断ができなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ