腹黒師弟
なんかあのまま宇宙にまで飛び出しそうな政元だったけど、コツを掴んだのか途中で止まった。初めてなのにやるわね。さすがは私の弟子である。
『弟子の扱いが悪すぎる』
うちの師匠からの扱いも割とこんな感じだったですが?
『……そういえば』
私とプリちゃんがじっとーっとした目を向けると、師匠(見た目だけは天使)がそっと視線を逸らした。そういうところだぞ?
≪師匠からの扱いが悪かったのなら、それを自分の代で止めてやるのが人の道ではないか?≫
ドラゴンに人の道を説かれてしまった。解せぬ。
「い、異議あり! 別に悪く扱ったつもりはないよ! あれは……そう! 帰蝶が優秀だったから信じて任せただけで!」
ポンコツ酒乱が何かほざいていた。うける。
「任せるにしても、妹弟子の面倒まで任せるのはやり過ぎでは?」
「ぬぐぅ! ……いやだってあの子怖いし」
神様(?)にあるまじきヘタレ発言であった。
◇
まぁ師匠がポンコツヘタレ酒乱なのは今に始まったことじゃないから別にいいとして。
「異議あり!」
却下。
と言うわけで本題。もうすぐ始まるという江口の戦いである。
「政元。そろそろ畿内で『次』を決める大戦が始まります」
「ほぉ。となりますと、三好長慶とやらが動きますか」
「ご存じなので?」
「えぇ。拙僧の死亡後から今日までの情報を集めているうちに、自然と。……それに、松永という男から接触が図られまして。一応は新たなる大坂の領主に挨拶をという形でしたが、我らがどちらに付くか見極めようとしていたのでしょう」
さすがは久っち。そして長慶さん。抜かりのない男たちである。
「ふむ。晴元と長慶を競わせ、疲弊したところで双方を討伐。畿内を制しますか?」
「それもいいですが、まだ準備が足りません。ここは長慶さんに天下を取ってもらいましょう」
「ほぅ? 兵力はまだまだ少ないですが、国人たちの協力を得られれば十分狙えるかと」
「国人というか現地領主はいずれ排除しますので、余計な恩は受けないようにしておきましょう」
「国人を、排除? では、各地をどのように統治するおつもりで?」
「全ては『織田幕府』の直轄地とし、幕府から領主代理を派遣することになります」
いずれは民主主義による選挙で首長を決めることになるのだろうけど……今はまだ無理無理。
「それはまた大改革ですな……。…………。……なるほど、各地の徴兵権を領主から取り上げ、幕府が直接握ろうと? そうすれば幕府にどれだけ不満を抱こうが反乱を起こすこともできなくなりますからな」
「理解しているのなら話は早い。可能ですか?」
「……現時点では難しいですな。国人の代わりに領地を治められる文官を育成しなければ……。であるからこそ『準備が足りない』と?」
「えぇ。とりあえずは長慶さんに天下を取ってもらい、三ちゃんに政治の経験を積んでもらいましょう。あとは幕府運営に関する各種資料も入手したいですね」
「楚漢戦争において宝物殿には目もくれず文書殿から機密文章を持ち出した蕭何のように、ですか。委細承知。ではそれを目指してこちらも動くといたしましょう」
「いやぁ、話が早い。話が早いですねぇ。優秀な弟子を持てて幸せ者ですねぇ私は」
「いえいえ、拙僧など帰蝶様に比べればまだまだ……」
くっくっくっと笑いあう私と政元であった。
「……いや、天下静謐を成し遂げられるなら、儂ではなくて三好の天下でも構わぬのだが……」
なんとも謙虚な三ちゃんであった。ふっふっふっ、私はとにかく三ちゃんに弱い女! じゃあ三好長慶さんが上手くやるならそのまま義弟として頑張る方向でいきましょうか!
※妹弟子については師匠が来た頃ちょっとだけ言及してますね(一行だけですが)




