第17章 プロローグ 近畿情勢・2
斎藤道三が自由に動けるようになる。
それはどれほど恐ろしいことであろうか。
そもそも道三と信秀という傑物同士が相争っていたからこそ周辺にはそれなりの平穏がもたらされていたのだ。そんな最大の敵同士が手を組めば――京極や浅井といった木っ端勢力は消し飛ばされるだけだ。
何より最悪なのが、大垣という地を道三が手に入れてしまったこと。
もはや美濃西部にいる本来の美濃守護・土岐頼芸など当てにはならぬ。近いうちに排除され、道三は大垣から関ヶ原、そして琵琶湖・京都へと繋がる道を確保するはずだ。そうなれば京極など真っ先に滅ぼされるのだが……あの男はそんなことも理解できぬだろう。
そして、我らが浅井もまた……。
美濃の周辺で、最大勢力であった尾張との同盟。
他の勢力としては、美濃東部は先日制圧されてしまったし、さらに奥にある信濃は諸勢力が入り交じっているので道三と敵対できるはずがない。
北部の郡上八幡も表だっては敵対しないだろうし、飛騨は白山の噴火による災害からまだ立ち直っていない。
あと頼りになるかもしれないのは朝倉か。たしかに道三と対抗しうる勢力であるし、浅井との距離も近い。一番現実的な選択肢のように見える。
だが、美濃とは距離があるし、そう何度も軍を派遣するほどの余裕はないだろう。そもそも朝倉の要である朝倉宗滴は高齢だ。いつ死ぬか分かったものではないし、いつまで出陣できるかも分からない。そんな連中を頼りにするなど……。
このまま六角に従属するか。
あるいは、可能性にかけて濃尾同盟に食い込むか。
どちらが『正解』かは分からないが、戦国の世の領主として、久政は決断した。
「斎藤道三、織田信秀と誼を結ぶぞ!」
嫡男である猿夜叉(浅井長政)がせめて元服でも迎えていれば『父は六角派、息子は濃尾同盟派』と二つの道を共存させることができたのだが……是非も無し。
とにかく、道は二つ用意する。どちらを選ぶことになるかはその時の状況次第だ。
近いうちにさらなる決断を迫られるだろうと確信しながら、その前準備を始める久政であった。
さぁドロドロしてきましたね!(キラキラした目)




