正徳寺の会見・6
『――六角定頼。信長以前の人物なのであまり有名じゃないかもしれませんが、傑物ですね。おそらくは日本で初めて楽市楽座を行った人物。家臣を城下町に集める城割も初めて行ったとされています。さらには畿内の情勢に大きな影響力を持ち、かの剣豪将軍足利義輝が元服を迎えた際の烏帽子親(儀式で烏帽子を被せる役。後見人)となりました』
なんかまたプリちゃん解説が始まったでござるよ?
『何か受信しました』
受信してしまったらしい。人工妖精ってみんなこうなの?
◇
「三好筑前にはまず天下を取ってもらおう」
「ほぅ、一体どういった腹づもりで?」
「征夷大将軍。十代以上続いた足利将軍家。これを滅ぼすとなれば並大抵の力ではできぬ」
「ははぁ、未だに美濃守護土岐頼芸を滅ぼせぬ山城守殿が言うと説得力がありますなぁ」
「茶化すな。……そんな面倒くさいことは三好の若造に押しつけてしまえばいい」
「そのまま盤石な幕府を築いてしまったらいかがなさるおつもりで? 足利を傀儡とし、表面上は幕府が継続するやも」
「ハハッ、今までの三好を見ろ。阿波の田舎侍がそんな上手い政権運営ができるものか。どこかで必ず綻びが出て、各所に不満が溜まり、いずれは旧政権と決裂するわ」
「……左様に断言するならば、」
「うむ。そうなるように持って行けばよい」
「中央政権にすら毒牙を伸ばすと。いやはや、恐ろしいことですなぁ」
「なに、すでに帰蝶が地ならしを済ませておるからな。あとは少し突いてやればいいだけのことよ」
「このマムシ親子は……。天下を取らせるのは三好筑前で決まりなのですかな?」
「うむ。せっかく婿殿を高く評価しておるのだ。ここは義弟として政権運営に参加させ、経験を積ませるのも良かろう」
「なんともはや、おそろしきマムシであるものよ」
信秀が思わず仰け反ると、それを追いかけるように道三が身を乗り出した。
「――乗れぃ、信秀。おぬしの協力があれば、天下取りも五年は早まろう」
五年。
たった五年と侮るなかれ。この時代の平均寿命を考えれば、五年という時間は貴重すぎるほどの価値がある。
憧れの男からの誘い。天下取りへの挑戦。戦国の世を生きる男として、二つ返事をしたいところだ。
だが、信秀もそう簡単に頷くわけにはいかない。
「……信広への手出しを止めていただけるのならば」
このままでは信広は尾張統一のために捨て石とされるだろう。戦国の世なのだから仕方ないとはいえ、なんとか『道』があるなら残しておいてやりたい。それが信秀の親心であった。
「……フッ、それだけの謀略家でありながら、人の親であることは止められぬか……。よかろう。これから儂らは何もせぬ。ただし――」
道三が人差し指で何度か床を叩いた。
「信広が自滅の道を行くならば、儂らは容赦はせぬ。それだけは覚えておけ」




