正徳寺の会見・4
若造。
道三から見れば自分もまだまだ若造でしかないか、と信秀はいっそ清々しい思いになった。マムシが自ら語る経歴など当てにならないが、それでも歳は20ほども離れているし……美濃一国を盗った男と、尾張の一部を掠め取っただけの男。若造扱いも是非も無しかと。
「三郎が天下を取ると?」
「うむ」
「……我が弟も、三郎のことをそう評価しておりました。いずれは天下一統すら成し遂げる大器であると」
「ほぉ。中々に良い『目』をしておる。その弟というのは……」
「――信康。先年の戦(加納口の戦い)において見事なる討ち死にを」
「で、あるか。惜しい人物を亡くしたものよ」
「…………」
他人事のように言うが、加納口の戦いは信秀と道三の戦い。つまりこの男は当事者も当事者なのだが……信秀がその態度に苦言を呈することはない。戦の勝敗をいつまでも引きずっていては戦国武将などやっていられないのだ。
三郎が大器。
たしかに期待の息子ではあるが、そこまでの器なのだろうか?
「三郎が天下統一。それは、嫁殿――帰蝶殿の協力があれば実現できるでしょうな」
常識的な判断に道三が鼻を鳴らす。
「――甘い。甘いわ。無論帰蝶の力があれば天下統一も容易いだろうが……あの器であれば、帰蝶がいなくとも天下を治めてみせるわ」
「……そこまでの大器であると?」
「そこまでの大器よ」
断言する道三を見て、ふと信秀は思い出したことがあった。
「そういえば、三好筑前(長慶)も三郎を気に入り、妹でも嫁がせようと考えているようで」
「…………」
わずかに眉をひそめる道三。それは本当に僅かな動きであり、並みの人間では気づかぬような些細は変化であったが、信秀はそこから道三の動揺を読み取った。
「おや、儂は嫁殿から直接そのような話があると聞かされたというのに……よもや、山城守殿はご存じなかったと? いやいやこれは失礼いたした。まさか実の父に話していなかったとは思いもせず」
「……はっはっはっ、嫁ぎ先の男が早々に別の女に手を出すとは言い出しにくかったのであろう。気にすることはない」
そう口にしながらも、自分が一番気にしている道三。
なるほど。美濃のマムシも人の親であるかと妙に納得する信秀であった。




