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25.人質



「ま、真に申し訳ございませぬ!」


 長老格だという男性三人を筆頭に、中郷の人たちのことごとくが土下座してきた。なぜか私に向けて。解せぬ。



『むしろ主様以外の誰に頭を下げろと?』



 ここには(騒ぎを聞いて駆けつけてきた)十ヶ郷の郷長やら未来の天下人やら三日天下人やら加賀百万石やらいるやん。……やだこの空間、未来の石高 高すぎぃ……。


 私が首をかしげている間に中郷の長老たちは弁明を始めた。


「わ、我らはあの坊主に騙されていたのです! あの牛王宝印の札を使えば確実に勝てると!」


「そこの青年を連れてきたのもあの坊主でして!」


「我らは悪くないのです!」


 そういえば。

 煽りまくっていたあの坊主はいつの間にかいなくなっていた。何という逃げ足の速さ。


 まぁ生臭坊主はあとで懲らしめるとして。


 私は中郷の長老たちの前にしゃがみ込み、にっかりとした笑みを作った。端から見れば、きっと今の私の瞳は妖しい光を灯しているように見えることでしょう。


「――ほぅほぅ? あの青年の妻子を人質にとって、火起請をやるよう強制したと? なるほど、であれば青年が頑なに火起請を行ったわけも理解できるというものですね。……青年を連れてきたのは坊主でも、妻子を人質にすることに同意したのですから『悪くない』という物言いは無茶があるのでは?」


 というか、あれだけの『奇跡まほう』を見せたあとでこうも平然と嘘を吐かれるとは思わなかった。神経図太すぎない? 悪い意味で。


「な!? な、なぜそれを!?」


 素直に認める長老たちであった。神経の図太さからしてもうちょっと言い逃れとかすると思ったのだけど。



『……そりゃあ心を読まれたら言い逃れとかできないでしょう。怖くて』



 こんな優しい人間に向かって怖いとはなんだ怖いとは。


『そういうところです』


 こういうところらしい。


 でも、涙目になりながら『お、お許しを!』と震えられるとこっちが悪いことをしているような気になってしまう。え? 私怖い? 三ちゃんに嫌われちゃう? 市助君から『ねぇね、怖い』とか言われちゃう? そんな事態になったら致死る自信があるわね……。


 中郷の人たちに言いたいことはいっぱいあったけど、グッと飲み込んで笑みを浮かべた私である。


「…………、……まぁいいでしょう。これからはみんなと仲良くしてくださいね?」


「「「て、天地神明に誓いまする!」」」


 地面にめり込まんばかりの勢いで頭を下げる長老たち、そして中郷の皆さんだった。結局怖がられてるし。こんなにも優しい笑顔を向けたというのに。解せぬ。


『いえ笑顔が怖すぎでしたが。問答無用で切り捨てられるレベルの怖さでしたが』


 だれが にっかり青江やねん。


 突っ込みつつ痩せこけた青年へと視線を向ける。幸いにして彼は私のことを怖がってはいないようだった。


「さて、じゃあ奥さんとお子さんを助けにいきましょうか」


 私が腕を引っ張って青年を立ち上がらせると――


「――ほぅ? 興味深いな? 詳しく話せ帰蝶」


 興味深そうに三ちゃんが私の肩を掴むのだった。





「拙者は鳥居半四郎と申す者。父の代より三河野田城城主 菅沼定村様にお仕えしておりましたが、勘気に触れましてこの地まで流れて参りました」


 痩せこけた青年はそんな自己紹介をしてくれた。流れ着いたこの村で妻子を人質に取られ、火起請に参加させられてしまったと。


「ほぅ、つまりはそこな半四郎の妻子を救い出そうというのだな?」


 察しのいい三ちゃんはやる気満々に刀の鯉口を切っていた。ちなみにさらに察しのいい犬千代君たちは私たちが乗ってきた船まで駆けていった。たぶん槍などの武器を持ってくるつもりなのだろう。


 前田利家――槍の又左がやる気満々とか血の雨が降りそうよね。まぁ女子供を監禁して脅すような連中だから是非も無し。


「妻子を監禁しているのは坊主たちで、長老たちも監禁場所は知らないみたいだし、ここは私が魔法でちょちょいと探索してあげましょうか」


「……『真法』とはまこと便利な技であるな」


 あれおかしい? 褒められているはずなのに呆れられている気がするぞ? もっと全身全霊全力全開で褒めてくれてもいいのよ三ちゃん? ほらほらほら! 私褒められて伸びる子だから!


 私が(ちょっと俯きながら)無言で要求すると三ちゃんは(なぜかため息をつきながら)頭を撫でてくれた。


 ふっ、勝った。



『どちらかというと負けじゃないですか? 色々な意味で』



 最愛のイケメンからの頭なでなでとか女の浪漫じゃないか。解せぬ。


 犬千代君たちが武器を携えて帰ってきたので、アイテムボックスから鎖型の魔導具を取り出した。


「ほ~ら、この男の人の奥さんと子供よ。さっそく探してちょうだい」


 私が鎖を半四郎さんに近づけると、鎖は臭いを嗅ぐように鎌首をもたげ、半四郎さんの前でゆらゆら揺れた。


 必要な情報を得たのか鎖は地面へと降り立ち、蛇のように蛇行しながら山に向けて移動し始めた。


「おぉ! 鎖がまるで意志を持っているように!」


「何と面妖な!」


「この世のものとは思えぬ!」


「……だが、帰蝶様であるしな」


 なんだか最近どんなことが起こっても『まぁ帰蝶だし』で済まされている気がする。もっと褒めてくれてもいいと思うのだけど。



『まぁ、主様ですし』



 とうとうプリちゃんからツッコミ放棄されてしまった。解せぬ。



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― 新着の感想 ―
[一言] >『いえ笑顔が怖すぎでしたが。問答無用で切り捨てられるレベルの怖さでしたが』 >だれが にっかり青江やねん。 いやいや! にっかり青江の伝説でにっかり笑ってたのは斬る方じゃなく斬られた方や…
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