閑話 復活したわりに
――なんなのだ、この男は?
顕如は理解できない現状に頭を痛めていた。
この世の理を覆して蘇った細川政元。
その『原因』は突如として消滅した一向一揆7,000の魂が吸収されたことにあるのだが……無論、顕如が知る由もない。
突如として蘇ったのは、まぁいい。この世界には『帰蝶』がいるのだから、死人が蘇ることもあるのだろう。
蓮淳が死んだことも、いい。むしろ本願寺法主である顕如からしてみれば好都合であった。
しかし、だ。
問題はこの細川政元という男。
いや、蓮淳がそう言っていただけで、本人は名乗ってすらいないので本物の『細川政元』であるのかどうかすらも分からない。
そんな男は、本願寺を掌握する――でもなく、再び政権中枢に舞い戻る――でもなく、薄暗い洞窟の中で修行に励んでいた。
顕如が聞いたこともない呪文のようなものを一心不乱に唱え続ける(おそらくは)細川政元。やっているのはそれだけ。朝から晩まで……下手をすれば顕如が眠りに落ちたあとにも読経を続けているのだろう。
何をやらかすか分かったものではないし、顕如は食事を運ぶついでに様子を見に来ているのだが……その食事に手を出した形跡もない。
何がしたいのか。
まさか、せっかく蘇ったというのに、修行をするだけでは終わるまい。どういうつもりなのか警戒しなければ……。
ちなみに。
今のこの状況をプリちゃんが知れば『まぁ、修行のために女人禁制を守り、子供も作らず、御家騒動の原因を作った人ですし……。蘇ったら修行をするでしょう。空を飛ぶために』と解説してくれただろうが、残念ながらこの場にプリちゃんはいない。
まったく、蓮淳が死亡したせいでただでさえ忙しいというのに、このような狂人の相手までしなければならないとは……。
悲嘆に暮れる顕如の様子に気づくでもなく、細川政元は俄に立ち上がり、空を見上げた。もちろん、洞窟の中からでは剥き出しの岩肌が見えるだけなのだが……政元は確かに視えているようだった。
『――この力! まさか! いらっしゃるのか!?』




