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【2巻 4/15 発売!】信長の嫁、はじめました ~ポンコツ魔女の戦国内政伝~【1,200万PV】【受賞&書籍化】  作者: 九條葉月
第12章 淀城の戦い

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数では勝てない戦いが、そこにある


 プリちゃんは予言者に違いない。

 そう簡単に撃退はできなかったのだ。


 加賀の一向一揆のうち、新淀川の対岸にいた信者たちは潰走。しかし、信者の中には落ち着きを取り戻して戻ってきた者もいたし、旧淀川対岸に布陣していた部隊からも人員を派遣され、城の包囲は解かれなかったのだ。


 これはもう一度ロケット弾を打ち込むかーと考えていると――城の南に布陣していた、本願寺の本隊が動いた。


「進めば極楽!」

「退かば地獄に落ちようぞ!」


 突撃の太鼓を打ち鳴らし、進是極楽の旗を高々と掲げ、一向一揆が突撃してきた。


 ――狂信者。


 その瞳に込められた狂気を見た私は冷静に指示を飛ばした。


「手砲隊! 近衛師団! 根来衆! 城の正面へ!」


 ここで虎の子の手砲・鉄砲隊を正面の一向一揆にすべて向けるのはリスクがある。加賀の一向一揆たちが新淀川や旧淀川を越えて突撃してくる可能性もあるからだ。


 しかし淀川が巨大な堀になっているし、大砲と臼砲は動かさないので火力は十分。さらに言えば潰走してからの部隊再編中なので組織だった突撃はできないでしょうと判断した。いざとなれば河童さんがいるし。


「噴進弾! 撃ちまくれ!」


「はっ!」


 ロケット弾が空を埋め付くさんほどに飛翔する。先ほどは加賀の一向一揆を敗走させた秘密兵器。鉄砲すら希少なこの時代において、ロケットの爆発音はそれだけで戦意をくじくでしょう。その破壊力は突進力を削るでしょう。


 しかし、一向一揆は止まらない。


「――おぉおおおおぉおおおぉおおおっ!」


 大地を揺るがすような叫び声を上げながら、一揆勢の突進力はまるで削れない。


 木が軋む音を立てながら、投石器から大岩が投げ飛ばされる。大人数人でやっと運べるほどの岩は着弾地点の人間を押しつぶし、なおも勢いは止まらず転がり、進路上にいた人間を吹き飛ばし、足を折り、肉片へと変えていく。


 なのに一向一揆は止まらない。

 味方の死体を踏み越えて。

 味方の血や肉片が降り注ごうとも構わず。

 眼前で味方が吹き飛ぼうが、すぐ横で味方が絶命しようが、躊躇わない。


 ――死とは救い。


 そんな彼らにとって、突撃とは極楽への道。喜びこそあれ、恐れはない。


「進めば極楽!」

「退かば地獄に落ちようぞ!」

「仏法当敵!」

「仏敵打倒!」


「大砲! 臼砲! 射程に入り次第射撃開始!」


 大砲と臼砲が次々に火を噴き、着実に一向一揆の数を減らしていく。

 しかし、もはや炸裂音で戦意をくじくのは諦めた。散発的な爆発で突進を止めることは無理でしょう。


 ならばこちらも、容赦なし。


 一向一揆はとうとう淀城の水堀に到着し、木橋を渡り始めた。


「――撃て」


 根来衆のうち、最初から木橋の上に狙いを定めていた部隊が次々に一揆勢を狙撃していく。いくら数が多かろうが、一度に橋を渡ることはできない。結果として一列になった一揆勢は少しずつ、しかし着実に数を減らしていった。


 そうしていると木橋を渡るのを諦めたのか……一向一揆の進撃が止まった。水堀の直前で気勢を上げている。

 いくら狂信があろうとも、いくら死を恐れぬ覚悟があろうとも、物理法則を越えることはできない。水の上を歩くことはできないし、走るような速さで泳ぐこともできやしない。空を飛ぶなどもってのほか。


 だからこそ彼らは人の身で、人のできることを、人らしい下衆(ゲス)さで実行する。


 水堀が簡単には越えられないと察した一向一揆たちは、仲間の死体を水堀に投げ込み始めた。極楽へと行った仲間の抜け殻を使い、水堀を埋めるつもりなのでしょう。


 それを待つ義理はない。


「手砲。自由射撃」


 三重多門櫓。

 その壁に無数に開けられた狭間から一斉に砲火が上がった。

 手砲とは火縄銃に比べると命中率は悪いけど、その分大口径の弾丸を発射することができる。ハンドキャノンの名は伊達ではない。


 手砲が直撃した者は腕が吹き飛び、足はひしゃげ、脇腹をえぐり取る。


 いくら狂信者でも、人の限界を超えたわけではない。手が吹き飛べばいずれ出血多量で死に至るし、足が折れればそれ以上の戦闘はできなくなる。内蔵が吹き飛べば、この時代なら確実に死ぬ。


 手砲が一斉射撃を終え、次弾装填作業に入ったところで――鉄砲隊の射撃が開始された。


 根来衆。

 そして雑賀で出会った私の直臣たち。

 滑空銃でありながら狙撃を可能とする練度を有する彼らは、戦闘が不可能となった人間を狙いはしない。


 狙い撃つは、まだ戦闘能力を有している人間。

 あるいは、一揆の中でも指揮官的立場にある人間。戦国時代的に言えば侍大将や、足軽頭、足軽小頭といった『貴重な』存在を。

 農民ばかりの貧相な一向一揆の中で、そのような人間は装備からして違うのですぐに分かる。


 300を越える鉄砲が、それらの『高価値目標』を正確無比に狙い撃っていく。


 手砲が大雑把に一向一揆を吹き飛ばし、生き残った人間を、鉄砲隊が狙撃していく。


 それらの手順が5回ほど繰り返されたところで……一向一揆の突撃は止まった。




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