04.稲葉山城へ
・私は帰蝶です。
・幼い頃、気がついたら異世界に飛ばされていました。
・異世界で『魔法』を習得した私は、何とかこの世界に帰ってきたのです。
と、いう嘘を即興で作り上げ真実のように語った私である。
もちろん前もって耳にしていた『まさか幼い頃に行方不明になった帰蝶が……』という情報などを活用してよりリアリティが出るように頑張りましたともさ。偉いぞわたし。
細かいことは『まだ小さかったので忘れちゃいました♪』と誤魔化せば平気だろう、たぶん。
嘘をついて他人になりすますのは気が引けるけど……。だって道三が“娘”と再会できた喜びで号泣しているし。今さら別人だとは言い出しにくいのだ。
この人、美濃のマムシと呼び恐れられた人物じゃなかったっけ?
しかも“父様”と呼ぶようにと要請されたし。
(この年で『ととさま』ってどうなの? 幼い子が使う呼び方じゃないの?)
『本人がいいと言っているのですから、いいのでは?』
(美濃のマムシがねぇ……)
そんなイメージとのギャップがひどい道三――父様と光秀さんは墓参り(私が雑草を刈ったりしたお墓だ)を終えたあと居城である稲葉山城に撤収することとなり。なぜだか私も稲葉山城へ行くことになった。
『まぁ“娘”である帰蝶ですし。必然なのでは?』
プリちゃんの容赦ないツッコミを聞き流しつつ……、私は『ある事実』に気づいて冷や汗を流してしまった。
私は帰蝶。ということになるらしい。
つまり、濃姫。
このままだと私は『濃姫』として織田信長に嫁ぐルート確定なのかな?
う~ん、織田信長は好きだけど、あくまで歴史上の人物に対する好感だしなぁ。政教分離とか楽市楽座などの政策は凄いし尊敬するけれど、夫となるとまた話は別だ。
(プリちゃん。織田信長って性格的にはどうなんだろうね?)
『一言で言えば神経質で短気、でしょうか』
(それ二言っすよ?)
『褒めるならば、お祭りで女装するなど愉快な一面もありますし、裏切り者を何度も許しちゃうくらい甘いですし、奇天烈で並ぶ者のないネーミングセンスを持っていますね』
(それ、褒めているのかなぁ?)
特に最後。自分の子供に『奇妙』やら『茶筅』やら付けちゃうネーミングセンスはアレすぎると思う。もしも私の子供にそんな名前を付けたら殴る自信があるよ?
『……捨て子はよく育つとか捨て子は世に出ると言いますし……変なネーミングもそれに習ったのでは? 豊臣秀吉も棄とか拾丸とか名付けていますし』
プリちゃんのフォローが虚しくこだました。
(まぁ、無理やり嫁にされそうになったら逃げちゃえばいいか。転移の魔法でひとっ飛びだね)
『……逃げるくらいなら今のうちに『帰蝶じゃありません』と自白した方が良さそうなものですが』
(いやだって、あんな嬉しそうな顔されたら言い出しにくいじゃない?)
『分からないでもないですが……。毒殺謀殺が当たり前である『美濃のマムシ』のイメージとはかけ離れていますよね』
(だよねぇ)
そんなやり取りをしているうちに墓参りは終わったらしい。やって来たときと同じように父様が馬に乗り、光秀さんが轡を取る。
そしてなぜか私も馬の上に引き上げられ、父様の前に座らされてしまった。私は小柄なので、父様の分厚い胸板がすぐ目の前にある。
これがイケメン相手だったら胸の一つや二つときめかせるだろうけど、残念ながら相手は初老に足を踏み入れた剃髪男性だ。対する私は15歳。さすがに何周りも年の離れた男性相手にキュンキュンしたりはしない。
『……主様の見た目年齢は15歳程度ですが、実年齢は道三より遙かに高――』
(しゃらっぷ! 女性の実年齢を口にしてはいけません!)
私の肉体年齢は15歳だし、精神年齢も(ずっと研究とかで引き籠もっていたので)15歳程度だと思う。つまり私は15歳。証明完了。
『……主様がそれでいいのでしたら、よろしいかと』
この世界で唯一私の実年齢を知っているプリちゃんが認めたので、私は15歳だ。そういうことにした。