梟雄vs城オタ ~堺の大決戦~
「いやぁ、帰蝶様のご高名はかねがね。病の人間を無償で癒やし、洪水で水没した村には米を与え、さらには洪水の原因となった巨大なる龍を討伐するとは!」
私に苦々のお茶を飲ませたことは棚に上げ、恥ずかしげもなく『よいしょよいしょ』してくる久っちであった。
う~ん、改めて言われると私って凄すぎない? まさしく薬師如来の化身じゃない? みんなもうちょっと崇め奉るべきでは?
『そういうところです』
≪そういうところじゃぞ?≫
こういう
ところらしい。
というかドラゴンうんぬんを信じるの久っち? 松永久秀って現実主義者的なイメージがあるんだけどなぁ。大仏殿ファイヤーするし。いやそれは冤罪なんだっけ?
「拙者は三好家に仕官する前は商人をしておりまして。まぁ商人とはいえ荷を守るために武装はしておりましたが。その経験のおかげで今では文官としてだけではなく武将としても筑前守様のお役に立てているのですから、いやはや人生とは分からないものですな」
ぺらぺらと口を走らせる久っちであった。う~んなるほど商人というか営業マンっぽい感じ。まぁ腹の中で何を考えているかは分からないけど。
もちろん、魔法を使って心を読むなんてことはしない。
だって、勿体ないじゃないか。
せっかく目の前に戦国三大梟雄がいるというのに! 魔法でさくっと答え合わせなんてしたら! 面白くないじゃないか! 私はもっとこうキツネとタヌキの騙し合いというか、ちょっと油断したら食い殺されそうな雰囲気というか、顔に笑みを貼り付けながらも腹の中では相手を貶めることしか考えてない空気を楽しみたいのだ!
『そういうところです』
≪そういうところじゃぞ?≫
こういう
ところらしい。
「……久っちも大変ですよね。三好譜代の家臣じゃありませんから、何かとご苦労があるのでは?(訳:成り上がり者って大変ですよね)」
「おぉ、美濃守護代斎藤家の姫様にご心配いただけるとは、この久秀、末代までの誇りとせねばなりませんな(訳:下克上した生臭坊主の娘にだけは言われたくないわ)」
「近頃は筑前守殿の武勇も近畿に轟いているようで(訳:三好長慶も親の仇にコキ使われて大変ですね)」
「えぇ。今が大事な時期。拙者が粉骨砕身の覚悟でお支えしなければなりません(訳:儂が側にいるのだ、今のままではおかぬさ)」
『……そろそろ自動翻訳が本能寺するから、やめてあげなさい』
スキルが謀反とか斬新すぎない? 新作:『異世界チートを使いまくっていたらスキルに謀反されちゃいました』とか? う~ん不人気打ち切り路線……。
心優しいプリちゃんからストップが掛かったので、いちゃつき(オブラートで厳重梱包した表現)はここまでにして。
「で?」
「……で、と、申しますと?」
「久っちとイチャイチャするのも楽しいですけど、ここら辺で本題に入っていただけると」
「いちゃいちゃ……? ……そうですな。帰蝶様も筑前守様の現状をご理解いただいているようですし……」
いや理解はしてませんよ。プリちゃんがリアルタイムで入れ知恵してくれるだけで。
こほん、と久っちが咳払いする。
「ご存じの通り、筑前守様は高屋城に閉じこもってばかりいる河内守(遊佐長教)と和睦をいたしました」
「ほぅ。高屋城というと、河内高屋城。知名度はあまりないけど、面白い城よね。なにせ本丸にそのまま古墳を使っているし。『古代の人のお墓を使うなんて罰当たりな!』と思うかもしれないけど、近畿あたりは結構古墳を城というか防御施設として使っている例があるのよね。まぁ古墳って小高い丘だしね。水堀もあるしね。防御施設として使いやすい上に、近畿ならそこら中にあるのだからそりゃあ使うでしょう。しかし戦国時代の人が何も感じなかったかというとそんなこともなく、高屋城城主の中には本丸を怖がって近づかない人もいたとか。高屋城は南北約800m・東西約450mもある国内屈指の巨城であり、河内支配の象徴的な城だったので幾度となく戦乱に巻き込まれたのだ。およそ100年の歴史のうち、城主交代は30回以上、人数は10名。この数字だけでどれだけ重要な城だったか分かるわよね。ちなみに高屋城の本丸に使われている古墳は、安閑天皇陵古墳。不敬である。めっちゃ不敬である」
『はいはい』
城オタの熱い語りがたった四文字でぶった切られてしまった。解せぬ。




