梟雄
なんだかまた面倒くさそうなことに巻き込まれそうな気がする。
今のうちに本願寺を『ちゅどーん』とやっても許される気がする。
「許しません」
融通の利かない師匠であった。
だがしかし、魔法でちゅどーんとやるのは禁止されても、物理的にちゅどーんとやるのは否定されていないので、そっち方面の準備を進めることにする。
とはいえ、もう私がやるべきことはほとんどない。あとは試作品の改善点を伝えれば、職人や商人さんたちが上手い具合に準備してくれることでしょう。信じて任せる。これこそが上に立つ人間のあるべき姿なのである。
『……ただ単に面倒くさくなって丸投げしようとしているだけでは?』
ちょっと、さらっと核心を突いてくるのやめてもらえません?
プリちゃんの冷たい目から逃れるように職人さんからの質問に答えつつ、大量生産の指示を出していく。銭は私が出すので、材料の準備と職人の確保を――なぁんてことをやっていると、会合衆の一員・津田宗及さんが声をかけてきた。
「帰蝶様。お会いいただきたい方がいるのですが……」
「私に?」
「はい。元々は手前が主催する茶会に招待していたのですが、この現状では茶会どころではありませんので……」
まぁこの時代にはスマホもないものね。『今日の茶会は中止にするわ、ごめんね』と気軽にはいかないのでしょう。戦国時代なら何日も前から移動を開始しているだろうし。
「その御仁、どこからか帰蝶様の噂を聞きつけたらしく。茶会が中止になったのなら挨拶をしたいと言い出しまして。手前としても、こちらから招いたゆえ断りにくく……」
「はぁ、まぁ会うのは別にいいですけど……一体誰なんですか?」
「はい。元々は商人なのですが今は三好筑前守(長慶)様に仕えておりまして――松永久秀と申す御仁であります」
「…………」
わぁい、戦国のボンバーマンだぁ。
『茶釜平蜘蛛に火薬を詰めて爆死したというのは俗説とされていますが』
歴史的正しさなど! どうでもいい! 浪漫! 浪漫を重視するべきなのです!
『人の爆死を浪漫扱いするな』
あいすまぬ。
『まぁ解説は必要なさそうですが……松永久秀。戦国の三大梟雄とされる人物ですね』
必要なさそうと言いながらしてくれるプリちゃん。そういうところ大好きである。
『ちなみに斎藤道三も三大梟雄に数えられていますね』
是非も無し 是非に及ばず しょうがない(帰蝶ちゃん心の俳句)
『主家乗っ取り、将軍暗殺、大仏殿焼き討ちという天下に轟く三つの悪事を行ったとされていますが……後の研究でどれもこれも否定されていますね』
浪漫のないことである。
『あとは最初に天守を建てたとか、日本で初めてクリスマス休戦をしたとも言われていますが……これも否定されてますね』
浪漫のないことである。
『あとは房中術――性技の指南書を書いたとされていますが……『黄素妙論』を書いたのは曲直瀬道三であり、久秀は献上されただけと言われていますね』
あー、はいはい、戦国時代の良い方の道三ね。悪い方の道三はもちろんアレである。




