受賞&書籍化記念短編
「――というわけで、『シン・信長公記』を書籍化します!」
『ネーミングぅ……。そもそもまだ作者(太田牛一)すら見つけていないのでは?』
「ふっ、甘いわねプリちゃん。本人を見つけられないのなら、テキトーにゴーストライターを使っちゃえばいいのよ! どうせ文体なんて分かりゃあしないもの!」
『全世界の小説好きに謝れ』
アイムソーリー!
まぁとにかく。太田牛一さんが仕官してくる様子もないし、和紙の量産も軌道に乗ってきた。あとは活版印刷を導入して大量生産。印税がガッポガッポという寸法よ!
『この時代に印税はありません。日本で最初に導入したのは滝沢馬琴だとされていますが、諸説ありますね』
滝沢馬琴! 江戸時代にラノベ書いた人ね!
『全宇宙の本好きに謝れ』
ご~め~ん~ね~っ!(全宇宙に届く声)
まぁとにかく、今から三ちゃんの素晴らしさを本にして広く配布してしまえば『なんという素晴らしい人物! これは仕官しなければ!』となって優秀な人間がガッポガッポと集まってくるはずよ!
『人に対してガッポガッポという言葉を使わないでください』
日本語に厳しいプリちゃんであった。
本を作るなら活版印刷をどうにかして準備しないとね。まぁでも浮世絵に比べればまだ作りやすい。木の板に字を掘ればいいのだから。要はデカいハンコよ、ハンコ。
『それは活版印刷じゃなくて、木版印刷ですね。そうやって舐めてかかるから大失敗するんですよ?』
大失敗を前提にするの、やめていただけません?
プリちゃんからのデフォルト呆れを解消するためにも、ここは気合い入れて作らないとね。
というわけで、まずは試作として一ページ目だけ作ってみることにする。まだ本文もできてないけど、簡単簡単。私の中に渦巻く三ちゃんへの愛とかリスペクトとかパッションを筆に乗せればいいのだから! ――神はまず天を造り、大地を造り、そして三ちゃんを造りたもうた……。
『またとんでもない奇書を作ろうとしている……』
ただ事実を記述しているだけ(断言)なのに。解せぬ。
さて本文はできたのでそれをさっそく木の板に掘って……掘って……完成。ふっ、どんなもんよ。初めてにしては完璧な出来じゃない私? 自画自賛しても許されるわよね私?
『……まぁ、印刷してみればいいんじゃないですか?』
私の才能に嫉妬しているのでしょう、プリちゃんもどこか冷たい態度だ。と言うわけで私はさっそく墨を木の板に塗って紙に押しつけて――
――おん?
なんじゃこら? 文字が反対になってるじゃん。鏡文字になってるじゃん。
『何というテンプレ失敗。そりゃあ、文字をそのまま読めるように掘れば、逆になって印字されるでしょう。ハンコの基本ですね。というかなぜ鏡文字なんてものを知っているのに気がつかないのか……』
ごくごく冷静に呆れられてしまった。気づいているなら掘っているときに教えてくれればいいじゃん。ドSか? ドSなのかプリちゃん? 解せぬ。
今年もありがとうございました。また来年もよろしくお願いします。




