表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

462/820

閑話 柳生


「――見事なものよな」


 覚行の大演説を受け、堺へと移動し始めた信者たちを眺めながら柳生家厳は自らの顎を撫でた。


 配下の忍びが地面に片膝を突きながら同意する。


「はっ、まことに見事な口八挺(口八丁)。拙者にはただの少年にしか見えませんでしたが……あの帰蝶という女、恐ろしいほど人を見る目がありますな。唐の国にかつていたという劉備玄徳もかくやというほどの……」


「それもあるが、あの短期間であれほどの『狂信者』を作り上げてしまった」


「……あの女性、やることなすこと『奇蹟』の連続ですからな。信仰を得るのも不思議ではないでしょう」


「いや、やはり恐ろしい女よ」


「……と、申しますと?」


「ただ『力』を見せただけでは、その『力』を利用しようとする者が集まってこよう。しかし、あの女にはそのような人間が寄ってこない。どういう絡繰り(からくり)かは知らぬが、そのような連中が集まらぬようにしているのだろう」


「……そう言われてみれば、あの女性の周りにいるのは『善人』のみ。いくら何でも偶然にしては出来過ぎております。が、それが狙ってのことだとしたら……」


「斎藤帰蝶。恐ろしい女よ」


 無論、帰蝶はそこまで考えていない。柳生さんの考えすぎである。


 そもそも悪人であろうが帰蝶の前では大人しくなってしまうだけであるし、帰蝶自身が善人とは似ても似つかないアレなのだから。


 しかし家厳と部下の誤解は止まらない。


「殿(木沢相政)があの女に仕えると聞いたときは正気を疑ったが……やはり、我が殿には運が向いておる。このまま斎藤帰蝶に味方し続ければ、御家再興も夢ではあるまい」


「いずれは何処かの城を任せられるやもしれませぬな」


「下克上をするわけにもいかぬし、そこまで行ければあの世で友に顔向けできるな」


「……しかし、碌な準備も整っていない状態で本願寺と対立とは……」


「問題あるまい」


 家厳はさして気にしてないように断言し、



「――狂信者には、狂信者をぶつけるのが一番だ」



 そっとつぶやいた家厳は、状況確認のために忍び数人を残して堺へと移動し始めた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ