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【2巻 4/15 発売!】信長の嫁、はじめました ~ポンコツ魔女の戦国内政伝~【1,200万PV】【受賞&書籍化】  作者: 九條葉月
第12章 淀城の戦い

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閑話 煕子と早苗


 帰蝶と光秀が退室したあと。


 光秀の妻・煕子と、未だ立場が曖昧な早苗は正座した状態で向き合っていた。


 早苗としては冷や汗の流れる状況だ。

 いくらこの時代が側室を許されているとはいえ、それはあくまで『筋』を通した場合。今の早苗は本妻の居ぬ間に光秀籠絡を企んだようなもの。しかも煕子からすれば『夫が死亡し、自らの保身のため』光秀に近づいたようにしか見えないだろう。


 だが、早苗に引くつもりはない。ゆえにこその『熱い夜』発言(宣戦布告)である。


 正妻と側室の戦いはいつの時代も、どんな国でも変わらない。どちらが夫の寵愛を受けるか。どちらが先に嫡男を身ごもるか。どちらの子供を後継ぎに据えることになるか……。状況によっては正妻と側室の立場が逆転することも珍しくはない。


 本来、正妻と側室は敵対するもの。互いの邪魔をすることはあっても、協力し合うことは滅多にない。


 だというのに。


 煕子は、深く深く頭を下げた。


 この場にいるのは早苗だけだというのに。側室候補であり、敵候補である早苗だけだというのに。


「帰蝶様からお聞きいたしました。熱にうなされる光秀(あの人)を看病してくださり、その上、右も左も分からぬあの人を手助けしてくださったとか……」


「い、いえ、放っておけなかったと言いますか……」


 いきなり出鼻をくじかれてしまい、たどたどしくしか答えられない早苗。そんな彼女を、煕子が顔を上げ、じっと見つめてくる。見極めるように。敵か味方かを判断するかのように。


「……帰蝶様のこと、いかがお考えでしょう?」


「帰蝶様、ですか……」


 目の前にいるのは、光秀の正室。光秀は帰蝶の家臣。うかつな発言は自らの首を絞めることとなる。

 だというのに、早苗は正直な感想を述べてしまっていた。


「――恐ろしい御方でございます」


「えぇ。恐ろしい御方です」


 同意した煕子が憂鬱そうなため息をつく。


「帰蝶様のお力は、まさしく神と呼ぶべきもの。ですが、ゆえにこそ、和御魂(にぎみたま)にも荒御魂(あらみたま)にもなるでしょう」


 和御魂とは、優しさや慈悲などが強調される、神の一側面。


 荒御魂とは、荒々しく猛々しい一側面。


 和と、荒。

 まったく異なる二つの側面を有してこその、神。


「…………」


「そして、あの人はそのことに気づいていないのです」


「…………………あぁ、」


 甘いというか、うかつというか。早苗は『天然ボケ』という言葉を知らないが、もしも教えられたら喜んで使うことだろう。


「私には政務を手助けすることも、戦働きを手伝うこともできません。できることと言えば、家を守り、家で待つことだけ。……ですから、帰蝶様の怖さを理解している早苗様には……あの人の側で、あの人を支えてやって欲しいのです」


「な、なんと……」


 本来であれば敵同士となるはずの早苗に、そのような頼みをするとは……。これが正妻の器であるか。これが明智光秀の妻たる女か。敵対することばかり考えていた自分の、なんと小さなことか。


 …………。


 今ここに、早苗は決意した。


 影ながら明智光秀を支えよう。


 そして、煕子もまた支えよう、と。







 後にプリちゃんが『爪の垢を煎じて飲め』と口にする出来事である。




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