河童?
なんだか百地三太夫さんと柳生家巌さんは相通じるところがあったらしく、色々と情報交換をしているようだった。
いやまぁそれはいいんだけど、漏れ聞こえてくる情報の8割くらいが『帰蝶様の取り扱い方』である気がするのは気のせいかしら?
『是非も無し』
解せぬ。
あとでちょっと百地さんとは主従会議をするとして。淀川との合流地点に到着したのでさっそく運河と繋げちゃいましょうか。運河と淀川を区切っている堤防を切り、旧淀川の方に土を盛って堤防にしてしまえば、あとは運河の方に水が流れるって寸法よ。
『よく考えなくても、これ、大坂本願寺が干上がるのでは?』
な、なんだってー。そういえばそうよねー。淀川(木津川)は本願寺のすぐ近くを通って大阪湾に流れ込んでいるのだしー。いやーまったく気がつかなかったわー。まぁ本願寺があれだけ攻めにくいのは川が水堀になっているからよねー周りが小島ばかりで大軍を展開するスペースがないからよねーそれがなくなったら攻めやすくなるわよねーまったく気がつかなかったけどー。
『そういうところです』
こういうところらしい。
まぁうっかりして本願寺が干上がっちゃうかもしれないけど、うっかりなんだから是非もないわよね。
さーて張り切って堤防を切り、旧淀川に土を盛りましょうかーと考えていると、
なんだか、視線を感じた。
堤防の上。そろそろ『旧』となる淀川の方から。じーっと。複数の視線が降り注いでいる。気がする。
――緑。
緑だった。
緑の人間がこちらをじーっと見つめていた。
いや、人間というか……河童? 河童よね、アレ?
「ほぅ、河童とは珍しい」
大して驚いた風でもなくつぶやく柳生家巌さんだった。え? 戦国時代って普通に河童がいるの? ファンタジーすぎない? もうちょっと世界観を大切にしてくれません?
『あなたがいる時点で世界観は破壊されたので……』
過去形で話すの、止めてもらえません?
『あなた以外にも薬師如来や毘沙門天が接触してきますし、玉龍さんもいますし、信長さんは熱田神宮の神様から祝福されてますし、斎藤龍興君は鶴の恩返しをされる予定ですし、前田利家さんと前田慶次さんはドラゴン退治しちゃいますし……』
う~ん改めて考えてみると何というカオス。ドラゴン以外は私が関係ないの凄くない? もうちょっと自重しろ戦国時代。
『お前が言うな』
乱雑なツッコミだった。解せぬ。
「え~っと、河童って普通にいるものなんですか?」
思わず柳生さんに問いかけてしまう私であった。
「拙者が若い頃は普通に見かけましたな。馬や幼子を川に引きずり込むので退治され、最近はめっきり見かけなくなりましたが」
つまり、人間が絶滅寸前に追い込んだと。怖いな戦国時代人。
しかし、なるほど。つまりは人間への復讐のためにここまでやって来た系の展開ね? その意気や良し ! その勇気に免じて、ひと思いに滅ぼしてあげようじゃないの!
『やめなさい』
≪やめんか≫
「やめなさい」
プリちゃん、玉龍、師匠に止められてしまった。解せぬ。
私からの闘気というか殺気を感じ取ったのか河童の一人(一匹?)が慌てた様子で堤防の壁を駆け下りてきた。
河童って陸上だとそんなに素早く動けなさそうなイメージだけど、すいすいと降りてくるわね。もちろん忍者である (断言)柳生家巌さんに比べればゆっくりとしたものだけど。
河童が地面に正座して、頭を下げる――ことはない。そりゃあまぁ頭を下げたら頭の皿から水がこぼれちゃうものね。こればかりはしょうがないでしょう。
「その膨大なる『通力』。あなた様こそがこの新たなる大河の主であるとお見受けいたします」
なんか普通に日本語喋っているわね。自動翻訳なしで話が通じそうだわ。
う~ん、言葉が通じるとなると、一方的に殲滅するのも気が引けるわね。
通力というのは神通力のことかしら? 魔力を日本語で言うとそんな言葉になるのかしらね?
しかし、大河(運河)の主? 私が? いや私が作ったのだから私が主という認識でいいのかしらね?
「お話を聞きますに、淀川を堰き止めてそちらの大河に水を流すとのこと。しかし、淀川は我らの住処、どうにか考え直していただけないでしょうか?」
なるほどつまり故郷を追われるというか、ダムに沈む村の逆バージョンというか、このままだと私が悪者になってしまう展開か。
…………。
どうせ悪役扱いされるなら、後腐れなく滅ぼしてあげた方がいいのでは? どうせ河童は『現代』には滅びているのだろうし。
『やめなさい』
≪やめんか≫
「やめなさい」
トリプル制止されてしまった。命拾いしたわね河童たち。




