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【2巻 4/15 発売!】信長の嫁、はじめました ~ポンコツ魔女の戦国内政伝~【1,200万PV】【受賞&書籍化】  作者: 九條葉月
第10章 大坂本願寺

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閑話 大阪本願寺


 ――大坂本願寺。


 台風による大坂の水没後。


 高台に避難民が集まるのはまだいい。

 しかし、その民たちが本願寺に押し寄せてくるのは困りものだった。


 着の身着のままで逃げてきた者たちに食料などあるはずもなく。なんとか持参できたとしても、他の人間に見られれば奪い合いになってしまう。戦国時代、しかも災害時ともなれば常識的な態度など望むべくもない。


 長雨による身体の冷えと飢え。いつ水が引くかも分からない不安に、引いたあとも作物はダメになっているだろうという諦め。


 そんな状況からの救いを求め、人々は台地上にあった大坂本願寺へと向かった。


 今でこそ締め切られた門を叩く程度で済んでいるが、夜になって気温が下がるか、飢えが我慢ならなくなればもっと過激な行動を取るだろう。塀をよじ登るか、門を壊そうとするか……。


「何とも……いかにしましょう?」


 僧の一人が茶々――後に本願寺顕如と呼ばれることになる少年に問いかける。


「…………」


 茶々としては『放っておけ』と言い返したいところだ。


 大坂本願寺には多くの米の蓄えがある。しかし、それは他宗派から攻め込まれたときのための兵糧米であるし、銭の代わりとなる資産でもある。たしかに備蓄の数は多いが、避難民に分け与えていてはすぐに底をつくだろう。


 信者は助けないといけない。

 と、考えられるほど茶々は甘い考えは持てなかった。そもそも避難民の中には信者以外も多く紛れ込んでいるだろうし……。信仰という名の下に富を吸い上げて成長してきたのが本願寺――いいや、宗教というものだ。今さらいい顔をしたところで死後の地獄行きは免れないだろう。


 本願寺の次期法主(一宗派の長)は黙殺を選んだ。


 しかし、彼はあくまで『次』であり、現在の法主ではない。


 そして、現在の法主はというと――



「――門を開けよ」



 本願寺法主にして、茶々の父である証如はそう命じた。


「し、しかし……」


 周りの僧たちは戸惑いを隠せない。門を開ければ避難民がなだれ込んでくるし、いずれは蔵にため込んだ兵糧米も見つかるだろう。


 そして、そんな避難民を武力で排除するようなことを……『門を開けよ』と命じた証如がするだろうか?


「ここで見捨てて、なにが仏の道であろうか」


「…………」


「我らが民から寄付を集め、年貢や地子を集めるのは何のためか。正しき仏の信仰を守るためである。そして、民を見捨てては、我らも仏から見捨てられよう」


 かつての証如では考えられないことだ。『正しき仏の信仰』を守るために本願寺の内乱を武力で鎮め、一族すら粛正し、宗徒を動員して中央の政争に介入した男とは……。


 ……いいや、それも実質的な本願寺法主として権威を振るっていた外祖父・蓮淳の意志だったとしたら。蓮淳が隠居した今、自由に振る舞えるようになったのだとしたら……。本来の証如という男は、このように『優しい』男だったのかもしれない。


 優しさ。

 慈悲深さ。


 それはとても素晴らしいのだ。


 人間として、決して捨ててはならないものだ。


 ただし、それは、天下太平の世の中であってこそ。


(……(あも)う御座いますぞ、父上)


 茶々は口を開きかけたが、何とか耐えた。今の父に何を言っても無駄だと察したが故に。




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