シン・腹黒会議
さて。腹黒会議に参加したことによって三ちゃんは『何か暗躍しているが、まぁ敵対はしないだろう』と認識したことでしょう。
三ちゃんを尾張まで送り届けたあと。稲葉山城の一室に、改めて私と父様、お兄様が集結した。
さて、さて。良くも悪くも純情な三ちゃんには聞かせられないお話を始めましょうか。
まずは父様が扇子で自らの膝を叩いた。
「儂が生きているうちに、婿殿には天下を取ってもらう」
あと何十年生きるつもりだ。とは、私も兄様も指摘しない。不可能とも思える『夢』を本気で実現しようとする人間でもなければ、国盗りなど成し遂げられないからだ。ましてや天下統一など。
父様の宣言が、こちらの当面の目標となる。そのあと外戚として権威を振るか、あるいは走狗として煮られるかは分からないけどね。まぁこの二人なら上手くやるでしょう。
「加藤段蔵さんからの報告によると、今川義元はずいぶんと三ちゃんを気に入ったようですね」
「うむ、婿殿であれば是非もあるまい」
「お義父様(信秀)への連敗によって、今川は少々乱れそうですし、あちらはしばらく放置でいいでしょう」
ちなみにここで言う放置とは『軍は動かさないけど情報戦・調略戦は仕掛けまくるぜ!』である。父様たちもそれは織り込み済みだ。
「となれば、こちらも国内に注力いたしますか」
お兄様が床の上に地図を広げる。もちろんこの時代の曖昧なものではなく、私が手書きしたものだ。
「飛騨の塩屋さんとは協力関係を築けました。あとは物資を支援しておけば、飛騨の統一はできるでしょう」
「さすが帰蝶、手が早いのぉ。うむ、表向きは我らと関係のない勢力というのがやりやすい」
「では、北部(郡上八幡)は塩屋の動きを待つとしましょう」
「うむ。……であれば、その前に。西部の土岐頼芸は儂が決着を付けるとしよう」
「ならば儂は東部を突くといたしましょう」
「私は塩屋さんを支援しつつ、富国強兵を。まずは美濃を『東京』に仕立て上げますか」
「……あとは尾張ですな」
「あの国には『織田』が多すぎますね」
「うむ。儂らはしょせん成り上がり者。『斎藤』を名乗っているところで、この国の上層部は他人に過ぎない。……だが、尾張は『織田』の血縁が多すぎる」
「国内に領地を持った血縁。邪魔でしょうがないですね。勘十郎(信勝)君のように味方であればいいのですが」
「元々弾正忠家は家格が高いわけではないからな。侮られることも多かろう。……早いうちに一掃しておきたいところだ」
「三ちゃんに身内を皆殺しにさせるのは、さすがに気が引けますね」
「第一、『大義』がない」
「うむ。儂の失敗は『大義』を得られなかったことよ」
「大義もないのに国盗りできる父様はどこかがおかしいですね」
「ともかく、大義がないのなら、こちらから用意してやればいい」
「手っ取り早くいきましょう」
「となれば、弾正忠(信秀)とも一度腹を割って話したいところだな」
「なら、私から話を通しておきましょう」
「父上にはついでに大和守をかき混ぜていただきまして。……儂は織田信広と仲良くするとしましょうか」
「……さすがお兄様。腹が真っ黒ですわ」
「はははっ、即座に見抜いたおぬしにだけは言われたくないわ」
兄妹仲良く笑いあう私たちであった。
ちなみに父様は『いやぁ、腹黒い。誰に似たのやら』と他人事のような顔をしていた。間違いなくお前の血やっちゅーねん。




