そういうところです
なぁんかまた父様が暗躍している気がする。
な~んかまた『此奴なら理解してくれるだろう』と変なところで人を信頼して説明をせず、誤解からの決裂。鼻を削がれて首を晒されそうな気がする。
『まぁ、あなたの実父ですしね』
解せぬ。
『腹黒さは父親譲りですしね』
解せぬ。
父様の腹黒さに比べたら私のお腹なんてヒマラヤに積もる雪のように真っ白で、澄んだ瞳の光は世界を浄化し、優しい心は戦乱で荒れ果てた人民の魂を癒やすというのに。
『そういうところです』
こういうところらしい。
そんなやり取りをしていると、見事な二段撃ちをかました孫一君たちが戻ってきた。
「はい、お疲れ様。怪我はない?」
「ん。慌てて逃げていったから反撃も受けなかった」
「まぁ、鉄砲の集団射撃を受けるのなんて初めてでしょうしね。下手をすれば音だけで逃げ出しちゃうわよ」
今後は戦場でも鉄砲が使われるだろうし、今のうちから馬を射撃音に慣れさせる訓練方法を確立させておこうかしら?
ちなみに雑賀衆が籠城しての射撃をしなかったのは――『城まで引き付けると、ねぇねに全部吹き飛ばされるから』らしい。
いくら私でもそこまではせんわ。魔法を使えない連中に攻撃魔法を打ち込むのは主義に反するし。
……いや、お米様を焼いたから是非も無いかしら?
『そういうところです』
こういうところらしい。
「――姐御、ただいま戻りました」
どこか不満げな顔をした慶次郎君と安成君も戻ってくる。
「あら? 暴れたりない感じ?」
「いやぁ、敵将らしき者と遭遇できたのですが、名乗りもせずに逃げ出しましてな。追う気にもなりませんでした」
「あらまぁ」
敵将なら討ち取れるときに討ち取って欲しいのだけど。まぁ、慶次郎君だものね。無理強いしてもしょうがないか。
さて、となるとお城の防衛は成功したということになるのだけど……。
「……半四郎さんが敵将っぽい人を討ち取ったのよね。こういうときは首を取って検分するのかしら?」
「無理。さっき確認したけど、頭の半分が吹き飛んでる。あれじゃあ誰か分からない」
「それもそうよねぇ。ま、清洲城に忍者を張り付けておけば誰が戦死したかくらいは漏れ聞こえてくるでしょう」
敵将が誰かはまだ分からないけど、活躍したのだから鳥居半四郎さんには報酬をあげないとね。あ、もちろん孫一君たち雑賀衆にも。
と、私がノリノリで『何をあげようかなー』と悩んでいると、
「いえ、此度の活躍は帰蝶様が下賜してくださった火縄銃のおかげ。この火縄銃を賜っただけでも望外の喜びだというのに、これ以上受け取るわけにはいきません」
鳥居半四郎さんは全力で遠慮して、
「ん。支払いは銭でよろしく」
まったく遠慮のない孫一君だった。この辺は武士と傭兵の違いが出たってところかしら。
まぁ傭兵に活躍に応じたお金を支払うのは何の問題もない。問題は、銭なんか受け取りそうもない半四郎さんか。
武士って名誉を重んじてそうだし、活躍に応じた銭を――というのは今後も難しそうね。
…………。
う~ん、ここは勲章制度と階級制度を整備しなきゃいけないかしらね? 活躍した人には勲章と出世を。うんうん、私は土地を与えるつもりはないから、よく考えれば必須よね。
勲章以外にも、史実の織田信長は土地の代わりに茶器を褒賞とすることに成功したらしいし、私も何か考えようかしら?
たとえば……。三ちゃんから褒められて喜ばない人類などいない(断言)のだから、活躍した人には『三ちゃんから褒めてもらえる券』をあげちゃうとかどうだろう?
『そういうところです』
こういうところらしい。解せぬ。




