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閑話 師匠の心配


 ――帰蝶は救えなかった(・・・・・・)人間だ。


 だからだろう。『力』を得た今では救える人間は救おうとするし、そのためならどんな絶大な『力』でも(わりと無自覚に)行使してしまう。


 帰蝶の師匠――ミャーダは事情を知っているからこそ、そんな帰蝶の『甘さ』を止めたりはしない。


 ただ、心配するだけで。


 以前にいた国は、それはもう酷かった。

 何かあればすぐに帰蝶に丸投げしたし、それに感謝するようなこともしなかった。


 飢饉が起こらないように食糧の増産をしたり、魔物による被害が起きないよう適度に間引いたり、人々が豊かな生活を送れるよう様々な技術を提供したり……。そんな帰蝶の『慈悲』を、あの連中は当たり前のように享受していた。呆れるほど乱雑に浪費していた。


 いや。利用価値があるという意味ではあるが、あの国王は正当に評価していて。だからこそ王太子(自分の子)の婚約者になってもらったのだろうが……。まぁ、それももう終わったお話だ。


 ともかく。

 ミャーダとしては帰蝶の行動を(よほどやらかさない限り)止めるつもりはない。


 ただ、この世界の人間が帰蝶に頼りすぎるようなら釘を刺しておこうと考えていた。


 堺に到着し、酒を司る神様としての仕事(つまりは現地の酒文化の調査)(という名の全力飲酒)を終えたあと。帰蝶と合流したミャーダが見たのはこの世界、この時代には存在しないはずの銃だった。


 ミャーダはさほど銃器に詳しいわけではない。が、弟子(軍オタ)から相応の知識を垂れ流されていたので、あの銃が、この時代の人間からすれば垂涎ものであろうことは理解していた。


 また、きっと頼られるのだろう。


 自分で何の工夫もせずに、ただ答えだけ聞き出して。それを自分の手柄のように広めるのだろう。


 分かっていた。

 前の世界の人間はそうだった。

 だからこそミャーダには分かっていた。


 はず、だったのだけれども……。


 その銃を手にした鍛冶師は、その銃を観察し始めた。ブツブツと何事かを呟きながら、きっと頭の中では様々な手法を試し、その銃を再現しようとしているのだろう。


 帰蝶に尋ねる様子はない。


 自分の力で。自分で検討して。彼は答え(・・)にたどり着こうとしていた。


「――ほっほーう。最初からやり方を聞くんじゃなくて、まずは自分でチャレンジしようとは中々見上げた青年だねぇ」


 ミャーダ自身は、気づかない。

 背中の羽根が、嬉しそうに羽ばたいていることを。







「――手前はまだ、手を尽くしてはおりませぬ。未来の手前が作れたのに、今の手前が作れないのは努力が足りないからこそ。そんな状況で、帰蝶様に頼るわけにはいきませぬ」


 次に会った青年も、そんな覚悟を口にしていた。

 茶器のことなどまるで分からないミャーダだけれども。外にうち捨てられた破片の量を見れば、青年たちがどれだけの検討を重ねてきたのか察することができる。


 もう十分に頑張ったでしょう。

 ズルをしても、誰も責めないでしょう。


 だというのに青年は帰蝶の提案を拒絶し、自分自身の力で、努力で、答えにたどり着こうとしていた。


 もちろん、この世界の人間すべてが彼らのような人間ではないはずだ。簡単に帰蝶に頼り、帰蝶を利用しようとする者も多いはずだ。


 でも、この国には、この世界には、帰蝶に頼りすぎない人間もそれなりにいるみたいで。


「……あんな人間もいるんだねぇ」


 感心したようにつぶやくミャーダであった。






 ちなみに。

 千宗易の即断即決のお断りを目の前で見た(半ば無理やり付き合わされている)飴屋の青年は絶望の顔をしていたが……まぁ、ご愛敬というものだろう。ご愛敬ということにしたミャーダである。





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