千宗易、挑戦する
ちょっと孫一君と三人娘との間でバトルがあったけど、些細なことなので中略するとして。
「というわけで、清賀さんには頑張ってこのライフリングを刻めるようになってもらいましょう」
「簡単に言ってくれるなぁ、おい」
「おっや~? できないんですかぁ? 無理なんですかぁ~?」
「……はっ、分かり易い煽りだな。いいだろう、乗ってやろうじゃねぇか」
どっかりと腰を据えて、ライフル銃を観察し始める清賀さん。いや作り方くらい教えるんだけど、なんだか言い出せない雰囲気だ。
「――ほっほーう。最初からやり方を聞くんじゃなくて、まずは自分でチャレンジしようとは中々見上げた青年だねぇ」
と、いつの間にかやってきた師匠が感心したような声を上げた。師匠ってこういう『自力で頑張る人』が大好きなのだ。自分は少しでも楽をしようとするくせに。
あ、これ、今から『じゃあやり方を教えましょう!』と言い出せない雰囲気ですか?
ライフリング火縄銃の配備が遅れそう……とか考えていると師匠が私の顔を覗き込んできた。
「で? 帰蝶はまた変なことをしようとしているの?」
「変なこととは失礼な。ちょっと人類の歴史を変えようとしているだけですよ」
「……それは『ちょっと』なんて気軽さで変えていいものじゃないと思うよ?」
「色々いじくり回していた師匠に言われたくはありません」
「全然違いますー。私たちはちゃんと“運命”に沿うように調整していたのだから。気軽にポンポン後先考えずにホイホイと歴史を変えた帰蝶にだけは言われたくないね!」
そんな気軽にポンポン後先考えずにホイホイと歴史を変えていたみたいな物言い、止めてもらえません?
さて。師匠とはあとでじっくり話し合うとして。清賀さんはしばらく動きそうにない。今日は清賀さんと合流したら美濃まで帰ろうとしていたんだけど……。
「……帰蝶様。お時間があるようでしたら、少しばかりお付き合い頂けないでしょうか?」
清賀さんの集中力というか職人気質はよく分かっているのか、今井宗久さんがそんなお願いをしてきた。
付き合って欲しい場所はすぐ近くだというので、とりあえず同行することにした私であった。
◇
宗久さんが案内してくれたのは……窯元? だった。窯があるであろう建物の周りには、失敗作らしき陶磁器の破片が散乱している。
その破片の色は……なんというか、すべてが黒に近い色をしていた。この時代にしては驚くほどに黒いけど、『利休好み』な楽焼――黒茶碗とくらべるとだいぶ色が薄い。
あと形が普通。ただの模倣。これでは面白くない。楽焼はもっとどっしりというか、腰が張っているというか、手取りの良さを追求してくれなくては。
『あなたミリタリーだけじゃなくて茶器にまで詳しいんですか?』
軍オタとは例外なく数寄者なのです。
『他の軍オタを巻き込むのは止めなさい』
あいすまぬ。
私が謎の謝罪をしていると――
「――ぬぅ! これではいかん!」
がっしゃーんと。
お皿が割れるような音が響いてきた。




