瑠璃光縁起
むかしむかし。
木こりの与作がいつものように山に入ると、不思議な霧が出て迷ってしまいました。
与作が足元に気をつけながら山を歩いていると――なにやら古い社を発見しました。
不思議と興味を引かれた与作が社の扉を開いてみると……中には、光り輝くような『玉』が納められていました。
きっとご神体に違いない。
人が触れていいものではない。
頭では分かっているのに与作の手は『玉』へと伸びていき――、玉に触れた瞬間、あたりを閃光が包み込みました。
大地が揺れ、雷が打ち付け、土砂崩れに巻き込まれた与作が最期の瞬間に目撃したのは――山を割って立ち上がるだいだらぼっちでした。
◇
「……と、いう感じの縁起を作りまして。封印の解けただいだらぼっちが歩いた結果、新しい大和川の流れができたということにしましょう」
と、どこかウキウキと語る覚行君だった。もはや横文字使用を隠す気すらないらしい。そういえば転生者とか自白していたものね。
それはともかく。覚行君としては、超自然的な存在が移動した跡が川になった。だから新大和川のせいで畑や村がいくつか潰れても、それは超自然的なものが原因だからしょうがないのだというストーリーにしたいらしい。
「う~ん、却下」
「ぬぅ、なぜですか? やはり既存の田畑や村を川にするのはマズいですか?」
「いやそれはまぁ代替地を用意すればいいでしょう。今は戦国時代なのだし。文句あるならかかってこい~力こそ正義じゃ~って話で。……問題は、だいだらぼっちが歩いても、足跡が池になるだけで川にはならないということよ!」
「むぅ! それは確かに! 伝説では沼や湖ができるばかりで川にはなりませぬか! さすがは帰蝶様! なんというご明察でありましょうや!」
≪……問題はそこなのか?≫
『なるほど。覚行君、主様の同類ですか……』
なぜか玉龍とプリちゃんに呆れられてしまった。解せぬ。
「だいだらぼっちじゃ川にできないから……なにか、巨大な生物が這って川になったという感じにしましょう。向こうの世界じゃアース・ドラゴンという丁度いい存在がいるんだけど……」
「ドラゴン……竜ですか。では、八岐大蛇などいかがでしょう? 一説には治水の神話化ですし、這いずり回るせいで腹は血で爛れていると言いますし」
「ふんふん? なら八岐大蛇的なゴーレムを作ってしまいましょう。あと、導入部分の話が長い。もうちょっとシンプルにしましょう」
「ほうほう?」
「あとは『玉』に触ったせいで封印が解けたんじゃなくて、『玉』を盗まれたから怒って追いかけてきたという感じで」
「なるほど、『玉』を盗んだ男を追いかけて、海(堺湊)までやって来たという感じにしますか。そうなると堺が破壊されなかった理由付けが必要となりましょう。――ここは堺で信仰される木花咲耶姫の化身様の祈りによって退治されたという展開でいかがでしょう?」
「え? 嫌よそんな目立ち方」
「しかし、そうやって信仰を集めておいた方が後々やりやすくなりましょうぞ?」
「う~ん、それもそうよねぇ……。じゃあ、木花咲耶姫と薬師如来の加護を受けた『英雄・前田慶次郎』が、北辰妙見大菩薩から授かった弓矢で退治したということにしちゃいましょう」
「ふ~む、まぁ、慶次郎殿は『薬師如来の化身』の家臣ですし、そんなところですか……」
「……なにやらまたとんでもないことに巻き込まれそうですな」
乾いた笑いを浮かべる慶次郎君だった。私の家臣になったのだから、諦めなさいって。
※技術的なツッコミはプリちゃんが次回してくれます(丸投げ)




