幽霊の噂
平謝りすると、鶴ちゃんの夫さんは快く許してくれた。何という内面イケメンなのでしょう! いや三ちゃんの方がイケメンだけれどね!
まぁ過去の失敗は忘却の彼方に放り投げるとして。鶴ちゃんの夫――安成君の快気祝いも兼ねての宴会となった。
元々十ヶ郷の人たちは海賊もやっている&九鬼水軍も参加&慶次郎君も参加となったので……なんというか……カオスであった。ものすごい勢いで酒が消費されていくわね。
うん、師匠が見たら『お酒はもっとゆっくり味わって飲むべきだよ!』と嘆きそうな光景だ。……自分が飲むときは基本一気飲みのくせに、他人の飲み方にはうるさいのだ。
まぁつまり、師匠は面倒くさいタイプの酔っ払いなのだ。
「わははっ!」
そんなことを考えていると。雑賀衆に混じって金髪がいたような気がした。金目がいたような気がした。白い羽根がバッサバッサしているような気がした。気のせいなので気にしないことにする。
『弟子として、止めません?』
残念ながら営業時間外です。
しれっと答えていると、師匠とは別の場所にいた慶次郎君と十ヶ郷の人とのやり取りが耳に届いた。
「――ほぅ? 幽霊とな?」
「おうよ。最近、大坂までの水路の近くに出るらしい」
この世界で幽霊の話題が出るのは初めてかもしれないので、ちょっと面白そう。興味を抱いた私はすすすっと慶次郎君の近くに移動したのだった。
「なになに? 幽霊? やっぱり柄杓で船を沈めようとしてくるの?」
「ひしゃく……? いえ、実害はないんですがね。視た奴らの話によると、海の上に浮かんでいるらしいっすね。しかも、三人も」
「ほぅ、三人も」
こういう幽霊話って一人だったりたくさんだったりするので、三人という数字は珍しいかもしれない。
「しかも三人揃って僧形であり、縄で縛られているらしいですぜ。宗派争いの犠牲者なんじゃないかってのがもっぱらの噂っすね」
「ふ~ん」
なんか心当たりがあるような、無いような?
私が首をかしげていると、慶次郎君が『ぱしん』と自らの膝を叩いた。
「本来なら成仏させる側である僧侶の幽霊! おもしろい! どこで出るのか案内してくださらぬか!?」
目を輝かせながらそんなことを言う慶次郎君だった。うん、ホラー系の物語だったら真っ先に犠牲になるタイプよね。力自慢なところがいかにもそれっぽい。
「この世界の幽霊! 面白そうだよね! 魔力も扱えないのにどうやって存在を維持しているんだろう!?」
いつの間に近づいてきたのか。興味津々そうな師匠だった。あれね、自分の強さを過信してあっさりやられるタイプよね。そして師匠の死によってパワーアップした弟子が仇討ちすると。
『あなたこれ以上パワーアップすると世界が滅びません?』
魔王扱いは止めてもらえません?
まぁ、それはともかく。なんだか『心当たり』が気になったので、私もその幽霊見物に同行することにした。




