装備作り
師匠からの命令と、お詫びの印として犬千代君と慶次郎君に装備を作ることになった。
というわけで二人のいる尾張にまでやって来たのはいいのだけれども……。転移した那古野城で、さっそく慶次郎君とエンカウントした。犬千代君がいない状況で。
「やや、これはこれは姐御! 丁度いいところに! これから稲葉山城に向かおうと思っていたところでして!」
「……姐御?」
「はい。やはり叔父貴が『姐御』と呼び慕う相手なのですから、拙者も姐御と呼ばなければなりますまい」
どういう理屈やねん。あれか? 叔父と甥だから思考回路が似通っているのか?
『叔父と甥ですが、利家と慶次に血縁関係はありません』
そういえばそうだったわよね。
私がその知識を思い出していると、慶次郎君がずんずんと近づいてきた。背がでかいし身体は分厚いのでかなりの威圧感だ。
「姐御! またあの『だんじょん』とやらに連れて行ってくだされ!」
姐御という呼び方は決定なの?
私の心の中のツッコミなど知る由もなく、少年のように目を輝かせながら要求してくる慶次郎君だった。いや年齢的には十分『少年』なんだけどね。背がでかいので実年齢より大人びて見えるのだ。
しかし、ダンジョンとな? 冗談じゃないわ!
「い~や~よ! また師匠に怒られるじゃない!」
「そこをなんとか! 拙者が望んだこととお師匠様には伝えます故!」
「あの師匠にそんな理屈が通じるわけ無いでしょう!」
『……いや、少なくとも主様よりは常識があると思いますが』
≪一般人と比べれば天外魔境のような人物だがな。それでも帰蝶よりはマシであろう≫
げっせーぬ。
解せぬっていると慶次郎君の後頭部が思い切り叩かれた。すぱーんと。
「この、アホ慶次! 姐御を困らせるんじゃない!」
叔父らしく叱りつけたのは(いつの間にか駆けつけたらしい)犬千代君だった。あなたも割と困らせるというか戸惑わせることが多いわよ? 自覚ある?
「いやしかし叔父貴。拙者、あの『だんじょん』に行ってから胸の高まりが抑えきれず……。しかもあそこに行ってから妙に身体が軽いというか、力が満ちあふれると言いますか……」
そりゃあ、魔物を倒してレベルアップしたのだからそうもなるでしょう。しかも最後は(アース・ドラゴンとはいえ)竜種を倒しての大幅レベルアップ。師匠の加護のおかげで肉体も不調知らずだもの。
……あら? よく考えたら慶次郎君と犬千代君、強くなりすぎなのでは?
『今さら気づいたんですか?』
≪なぜ『鑑定眼』を持っているのに今まで気がつかないのか……≫
だが待って欲しい。年がら年中知り合いを鑑定する方がおかしいのではなかろうか?
≪普通なら『鑑定』せずとも気づくだろう? 人より目が良いのだから≫
『そこで気づかないのが主様なので……』
≪あぁ、ポンコツだものなぁ……≫
解せぬ。
◇
「気を取り直して。この前のお詫びに装備を作ってあげるけど、何が欲しい? 武器や防具がおすすめだけど、服とか馬具でもいいわよ?」
たとえばドラゴンの牙や爪を使えば甲冑すら切り裂く槍ができるし、鱗を使えば鉄砲の弾すら通さない防具ができる。腹の皮を使えばそうそう破れない服も作れるし、すっごく長持ちする馬具も準備できる。
「う~む、」
「そうですなぁ……」
顎に手を当て、ほぼ同じポーズで悩む犬千代君と慶次郎君だった。やっぱり血縁関係あるんじゃない?
「自分の腕の未熟さは承知しておりますが……それでもあのとき鱗を貫けていれば、もっと早く事は済んだでしょう。拙者としてはさらに鋭さのある槍が欲しゅう御座います」
と、慶次郎君。
「……あのとき、ケガをしたせいで慶次郎にも迷惑を掛けました。拙者としては頑丈な甲冑を頂ければと」
と、犬千代君。
なるほどつまりドラゴンの鱗を貫ける槍と、ドラゴンの攻撃を防げる甲冑ね?
まずは槍。慶次郎君は腕がいいから多少ピーキーな性能でも平気でしょう。鋭さはもちろん、頑丈さも考えるとして――刃こぼれしてもいいように自動修復機能も付けちゃいましょうか。
そして鎧。ドラゴンの攻撃を防ぐとなれば頑丈さだけじゃなく、衝撃吸収能力も考えなくちゃね。鎧の内側に貼り付ける素材も工夫するとして――こっちは回復効果も付けちゃおうかしら?
ふっふっふっ、ちょっとテンション上がってきたわね。私は装備屋さんじゃないけど、錬金術士。つまりは研究者兼技術者。こういう色々組み込んだり魔改造するのは大好きなのだ。
『……自重してくださいね?』
やれやれと突っ込んできたプリちゃんだった。
だが待って欲しい。師匠がわざわざ私に装備を作れと行ってきたのだから、それはつまり自重を取っ払ってやらかせということなのではないかしら?
『ないですね』
≪また正座させられるぞ?≫
バッサリと切り捨てられる私であった。解せぬ。




