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閑話 商人たち



 帰蝶の元を辞したあと。


 宿泊先である生駒宗家の新たな(そして以前のものより小規模な)屋敷に向かう道中、小西隆佐は目を輝かせながら口を開いた。


「いやぁ、帰蝶殿は噂に違わぬ、いや、噂以上に美しい御方でしたね! きっと基督教の語る『天使』とは彼女のような存在なのでしょう!」


 後に敬虔な信徒になる彼もまだ基督教に入信していないし、しようと思うほど深くは関わっていない。だが、堺にはポルトガルの商人も数多く寄港することから断片的な情報はすでに得ていた。


 対する今井宗久もどこか嬉しそうな顔をしている。彼の場合は基本的に気むずかしそうな顔をしているのでよほど親しくはないと分からない程度ではあるのだが。


「帰蝶様のあの手つき、そして顔。火縄銃を愛おしんでいることが読み取れました。……しょせん武具など戦のための道具。しかし、どうせ売るなら大切に扱ってくれる人に売りたいものです」


 今井宗久は早くから火縄銃に目を付け、堺においても硝石を独占的に取り扱っている。さらに最近では鍛冶職人を集めて火縄銃の量産・改良にも乗り出そうとしていた。


 すべては火縄銃に未来を視たゆえ。そして、火縄銃を愛したがゆえ。


「末永い取引をしたいものですね」


「えぇ、まったく」


 帰蝶の銀髪赤目という外見は日本人離れしており普通の商人であれば気後れするものだ。が、堺において南蛮人と接することの多い彼らは『世界にはそういう人種もいるのだろう』と帰蝶のことをあっさりと受け入れていた。


 そんな二人の様子を横目で見ながら、生駒家宗は偶然とはいえ帰蝶という人物と“縁”を結べた幸運に感謝するのだった。





 一ヶ月ほど経ち。

 堺に戻った小西隆佐は半身に麻痺が残る父・弥左衛門に『ポーション』を手渡した。周りにいた人間は阿伽陀などありえない、怪しすぎると止めたのだが、帰蝶の薬の効果を目の当たりにしていた弥左衛門は迷うことなく麻痺の残る手足にポーションを塗布し、残った半分を飲み干した。


「お、おおぉお……!?」


 まず驚きに目を見開いたのは弥左衛門。うまく動かなかったはずの手足に感覚が戻ってきたのだ。

 夢ではないのかと肩を回したり足を折り曲げる弥左衛門を見て周りの人間たちも騒然とする。


 彼らは医者というわけではなかったが、職業柄医術にも造詣が深い。弥左衛門の半身が麻痺していたのは間違いないはずなのに、今、たしかに彼の手足は動いている。


 麻痺を治す薬など薬種問屋を営む彼らでも(胡散臭い偽薬ならともかく)見たことなどなかったし、これほどまでに劇的な変化を目の当たりにしては『阿伽陀』を信じるしかなかった。


「なんという効能!」


「まことに阿伽陀であったか!?」


「帰蝶殿は薬師瑠璃光如来の御遣いか!?」


「これはぜひ確保しなければ!」


「隆佐――いや! ここはわし自ら美濃へ行くしかあるまい!」


 騒ぎに騒ぐ小西一族をどこか遠い目で見つめながら、隆佐は小さく、されどハッキリとした声を出した。


「帰蝶様こそが仏の化身であられたか」




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