越後の――
地面が崩落しようが、落下しようが、私たちがケガをすることはない。
なぜならプリちゃんは光の球だし、玉龍はドラゴン、そして私は美少女だからだ。
『あなたのイメージする『美少女』はオリハルコンでできているんですか?』
≪なるほど美少女と書いてバケモノと読むのか……≫
どういうことやねん。
当然のことながらケガ一つなく着地(着地下?)した私たち。しかし地下帝国があるわけではなく、恐竜人間が出てくるわけでもないので退屈だ。さっさと地上に戻ることにする。
私が『美少女ジャンプ』で一足飛びに地上へと舞い戻ると――
「――おお! 見ろ実乃! 本当にいたぞ!」
なんだか妙に耳に残る声が聞こえてきた。三ちゃんや孫一君と同じ、戦場で良く通りそうな声。
ただし、こちらの声音は『女性』であるのが特徴と言えば特徴か。
しっかりと地面を踏みしめてから、声の主へと視線を向ける。
年齢は、十代後半と言ったところだろうか? 現代風に言えば女子大生くらい。
戦国時代的な美人ではないかもしれないけれど、『現代』的な目で見るととんでもない美人さんだ。
お手入れ用品がない戦国時代とは思えぬほど艶やかで美しい黒髪。戦国時代の女性にしては珍しいショートカットだ。
どことなく尼さんっぽい格好をしているので、坊主頭だったのを伸ばしている途中なのかもしれない。
私が美人さんを観察していると、美人さんは側にいた中年男性の背中を嬉しそうに叩いた。
「ほら! だから言っただろう実乃! あれは『夢』にしては現実味があったと!」
「む、むぅ、しかしですな、いきなり『夢のお告げ』と言われて信じるわけにも……」
二人で会話する美人さんと中年男性。ちょっと、置いてけぼりは止めてもらえません?
私がじっとーっとした目で二人を見ていると、視線に気づいた中年男性がそれとなく美人さんを促した。
「おっと、そういえば名乗っていなかったね。……うん、妾のことは『大猿』とでも呼びなさいな」
「大猿、ですか?」
いくら私でも美人さんを大猿呼ばわりするのは気が引ける。というか偽名を使うのはまだ分かるけど、大猿って名乗りはどうなのさ?
と、あまりにもあまりな名乗りに私が呆れていると、
『……大猿……猿の親分という意味……越後における猿と言えば、忍びの別称である軒猿。つまりは軒猿の親分……軒猿を率いていたと言えば……まさか、上杉謙信?』
なんだかメッチャ深刻そうな独り言をつぶやくプリちゃんであった。いやいや、ないでしょう。なんじゃそのトンデモ連想。こんな美人さんが上杉謙信って、ちょっとライトな戦国モノを読み過ぎじゃない?
「うん? 上杉謙信? 聞いたこともない名前だけど――なぜだか妙に耳に馴染むわね」
小首をかしげる美人さんだった。わぁ可愛いポーズ……じゃなくて。
あれ? もしかしてプリちゃんの声が聞こえてる?
プリちゃんって人工とはいえ妖精だから、普通の人間には声は聞こえないし形も見えないはずなんだけど……。そりゃあもう将来の第六天魔王な三ちゃんですら最初は見えなかったくらいに。玉龍からの加護をもらってやっと見えるようになったくらいに。
……三ちゃん、といえば?
もしかしてまた不用意に加護を与えたんじゃないでしょうねと玉龍を見る。
≪いや、おぬしと一緒にするな≫
私だってほいほい加護を与えたりはしないわよ。……たぶん。きっと。おそらくは。
『普通の人間はそもそも加護を与えられないのですけどね』
つまりは私は普通じゃないレベルの美少女と言いたいらしい。照れるぜ。




