道路を作る
「そのうち道路を作ろうと思うんですよねぇ」
と、雑談の中でそんなことを口にすると、お義父様が食いついてきた。
「ほぅ? 道路とな? どのような道を作るつもりなのだ?」
「そうですねぇ。そのうちアスファルトで舗装しようと思いますが、先に基礎の部分を作ってもいいですね。後々鉄道も通したいですからなるべく真っ直ぐ、道幅も広く取って。たとえば古代ローマの道路なんかは――」
紙を取りだして道路の断面図を描く私。
「ほぅ、興味深いな……。道を整備すれば敵軍が侵略しやすくなろう。それでもなおやろうというのか?」
「攻め込んでくる敵など皆殺し――ごほん。やっつけてしまえばいいのですよ」
「簡単に言うものだなぁ」
「実際、敵の侵攻ルートを固定できるのですから楽と言えば楽ですよね。……敵が攻め込みやすいという欠点はありますが、それでもやらなければなりません」
「それは、なぜ?」
「道とは国家の根幹であるからです」
「ほぅ?」
「道ができれば人が動きます。人が動けば、宿ができます。宿ができれば、いずれは街となります。街ができれば消費が生まれ、経済が回ります。経済が回ればさらに人が集まってきます」
「うむ、単純だが分かり易い理屈であるな」
「さらに言えば。敵軍が動きやすいということは、自軍が動きやすいということでもあります。内線作戦――少ない軍隊での防衛戦が可能になりますし、早く動くことができれば戦の主導権を握ることもできます。補給も容易になりますし、補給が満ち足りれば士気も維持できるでしょう」
「うむうむ、そう聞くといいことばかりのように思えるな」
「ただ金と時間がかかるのが問題なんですけどね……まぁそこは私が何とかしましょう」
「…………、……何とかしましょうとは、嫁殿が銭を出すということか?」
「えぇ、それが手っ取り早いですよね」
「それはいかん」
「え?」
「道路が国の根幹というならば、国が銭を出さねばならん。そうでなければ民も領主ではなく嫁殿に税を納めるようになるだろう」
「……………」
正直、ビックリした。
私がやるって言っているのに銭を出そうとしていることももちろんそうだけど、何より、この時代の人間が『国家』を語れていることに。
なるほど。
こういう父親がいたからこそ、三ちゃんもあれだけ先進的な思考ができたのか。
心底納得した私だけど……だからといって全部任せていては何年かかるか分かったものじゃない。その辺のすり合わせをした結果……、とりあえず、末森城から那古野城までの街道を私が整備することになった。
◇
「――目測良し! 生き物もいない! さっそくやってみましょうか!」
末森城から那古野城へ。ちゃんと『観測』してから道作りを開始した私である。
今回作るのはローマ方式なので、とりあえず『道』となる部分を数メートル掘り下げる必要がある。その後に大きさの違う石を何層かに分けて敷き詰め、その上にアスファルト、石畳という感じにするからだ。
地面を数メートルの深さで掘り進めるならゴーレムを使えばいい。
ただ、時間がかかるので手っ取り早く《《吹っ飛ばす》》ことにした。具体的に言うとビーム系の攻撃魔法でちゅどーんっと。
『……手加減してくださいね?』
任せて安心帰蝶ちゃんである。
ちなみに魔法は火、水、土、風、雷、そして聖魔法と闇魔法に分かれている。ビーム系の攻撃魔法がどれに分類されるかというと――よく分からん。光っているから雷か聖魔法なんじゃない? フィーリングは大切である。
『テキトー過ぎる……』
テキトーでも、できるんだから、いいじゃない(字余り)
ちょうどよく魔力が溜まっている場所があったので、それを使うことにする。
「――エネルギー充填120%! 対ショック対閃光防御!」
ノリノリで呪文(?)を唱えてから私は攻撃魔法をぶちかました。ちゅどーん……というか、ゴゴゴゴゴゴゴゴッ! って感じで。
よし、撃ち抜いた。
那古野城まで人的被害なし。
……ちょっと勢い余って長良川まで撃ち抜いちゃったけど、気にしないことにする。戦国時代は舟運が盛んなんだから川までの道を作るのは理にかなっているでしょう。
≪……川まで撃ち抜いたから水が流れ込んできているぞ?≫
『道路というより水路ですね。……手加減しろと言っているのに、魔力充填120%で撃っちゃうんだから是非もないでしょう』
≪というか、人はいなくても田畑や私有地はあるのではないか? 容赦なく撃ち抜いて地面を削り取ってしまったが……≫
『この人がそこまで考えているはずないでしょう?』
≪……あぁ、帰蝶であるしな≫
なぜか呆れられてしまった。ちょーーーっとだけ失敗して、ちょーーーっとだけ削りすぎただけなのに。解せぬ。……いや解すしかないか我ながら?




