船を作ってみる
というわけで、ちょちょいと船を作ってみましょうか。
『船はちょちょいと作るものではないと思いますが』
ちょちょいと作れるのだから、しょうがないじゃない。
いやまぁ魔力を結構使うし、集中力が必要だし、なにより面倒くさいので参考品を作ったら量産は船大工に任せるけどね。やらなくていいことは、やらない。それが人生を長く楽しむコツである。
『そうやって嫌なことや面倒くさいことから逃げるから酷いことになるんですよ?』
真顔でお説教するの、止めてもらえません? あと酷いことって何やねん。
まぁ、船大工はのんびりじっくり育成するとして。
船を大量生産するには……戦国時代なら良い木材がありそうだけど、木造の大型船の材料ってそもそも木を部材の形になるように育てるのよね。
たとえば『Y』の形の部材が必要なら、ちょっとずつ木を曲げながら育てて『Y』の形になるように。
まぁその辺は植林と一緒にやっていきましょうかね。どうせ植林はやり始めなきゃいけないし。
あと必要なのは……船渠か。
小型の船なら砂浜で作って海に押し出すという方法も使えるけど、外洋航海を考えるなら大型化は必須で、ならばドックは絶対必要よね。
満潮時と干潮時の水位が違うところを探すのはもちろんだけど……問題は水密性扉をどう作るか、かしら。
船の出入り口となるゲートは水圧に耐えなきゃいけないから頑丈にしなきゃいけないし、かといって重すぎては動かせなくなる。そもそも材料を何にするか。この時代に巨大な鉄の扉とか作れるかしら……?
あと必要なのは排水ポンプ。潮位の差で自然排水できればいいんだけど、こればかりは場所を探してからじゃないとね。
まぁ、いざとなったら人力で排水すればいいか。
防水を考えればゴムも欲しいし……。
考えることはまだまだあるけど、とりあえず船を作ってみることにする。
むか~し森を開拓したときに回収しておいた巨木がアイテムボックスの中に残っていたので使っちゃいましょうか。
近くの岩でゴーレムを錬成。丸太が動かないよう固定してもらう。
風魔法で丸太を切断し、分厚い板にする。
まずは竜骨を設置。
続けて水魔法と火魔法をいい感じに使って、部材を曲げる。いわゆる蒸し曲げという技術。ゴーレムならヤケドの心配もないので安心だ。
竜骨に肋骨を組み込んで――、その骨組みに板を張っていって――、小っちゃいゴーレムに水密処理やってもらって――完成! 戦列艦である!
まぁ残念ながら大砲は搭載してないけどね。それでもその大きさは見る者を圧倒するらしく、三ちゃんや孫一君、そして九鬼君までもが目を輝かせている。
さぁ進水! 魔法で船体を浮かせて海にドボーン! ふっ、完璧。くす玉を用意しなかったのが唯一の失敗ね。
――と、そのとき。不思議なことが起こった。
前触れもなく湊に突風が吹き付けたのだ。
「あ、」
風に煽られ、横転する戦列艦。大砲用に開けた穴(砲門)から浸水し、とうとう転覆する戦列艦。
いや、ヴァーサか!
戦列艦ヴァーサか!
説明しよう! 戦列艦ヴァーサとはグスタフ二世アドルフが作らせた戦艦であり、無茶な設計がたたって初航海で横転沈没してしまった船なのだ! 日本で言うと戦艦大和が初公開で沈没するようなものだね! ちなみに沈没したヴァーサは数百年後に引き上げられ、当時の戦列艦を知る貴重な資料として博物館で展示されているのだ! 海軍オタなら一度は行ってみよう!
『ツッコミがわかりにくい』
辛辣なツッコミのプロであった。
しっかしなんで横転? まだ大砲は積んでないからtop-heavyの訳がないし……。
……あ。船底に『バラスト』積んでなかった。そりゃあ軽すぎるし復原力もなさ過ぎて横転するわ。なんという凡ミス。
しかし人間とは失敗する生き物だ。失敗から学んで成長する生き物だ。そういう感じでいい感じの話にしたら感じ方も良くならないかしらどう感じる三ちゃんたち?
「…………」
「…………」
「…………」
明らかに意気消沈する三ちゃん、孫一君、九鬼君であった。そりゃあ目の前で戦艦大和が沈没したようなもの以下略。なんかすまん。




