安宅船、現る
夜。
織田家の小舟を貸してもらい、佐治水軍の根拠地へと船を進めた私と三ちゃん、そして孫一君である。ちなみに光秀さんはストレスで胃が死ぬだろうからお留守番だ。
レーダーも探照灯もないこの時代、夜に船を出すのなんて自殺行為でしかない。
しかし私は夜目が利くし、三ちゃんたちにも魔法で視力強化をしてあるので問題なく船を進めることができる。
佐治水軍の根拠地は三ちゃんが知っているので案内は任せた。さすがは尾張国中を遊び回っている――じゃなくて、偵察してきた三ちゃんである。重要拠点場所は調査済みらしい。
船の動力は手こぎだけど、面倒くさいので魔法で水流を操って快進撃(?)をする私たちだ。
≪手こぎよりも海流を操る方が疲れるのではないか? 普通≫
『この人普通じゃないので……』
解せぬ。
ちなみに三ちゃんも孫一君も目がいいので、玉龍も隠れることなく船に乗っている。子供を含んでいるとはいえ、四人乗っているのでかなり手狭な船内である。
まぁとにかく、三ちゃんの案内に従って船を動かしていると――、前方に、巨大な船が現れた。
いや『巨大』とはいってもタンカーや空母ほどではない。感覚的にはお金持ちが持ってる巨大クルーザーくらいだろうか?
平らな船首。
甲板上にある四角い覆い。
まさしく、戦国時代における戦艦。
――安宅船だ。
本物の安宅船だ!
ほうほうやはり世界的に見ても特徴的な船形ね! 萌えるわね! 頬ずりしたいわ!
≪木造船に頬ずりしたらささくれが刺さるのでは――いや、此奴に刺さるはずがないか≫
解せぬ。
こんな絹のような柔肌を! 吸い付くような柔肌を! 赤ちゃんのような柔肌を捕まえて! ささくれにも負けない鋼の肌とはどういう了見だ!?
≪鋼というか神鉄ではないか?≫
げっせーぬ。
玉龍からの扱いの悪さに抗議しようとしていると、気づいた。なんだか安宅船がどんどんこちらに近づいていることに。
あれ? これ、衝突コースなのでは?
そろそろ舵を切らないと間に合わないわよ安宅船さん? 大型船は舵の効きが悪いんですよ安宅船さん?
『……そもそも、あっちからは見えていないのでは?』
なんですと?
『今は夜ですし、この時代にはレーダーどころか探照灯も双眼鏡もありませんもの』
……なんてこったい。
もはや船体の木目が見えそうなほどの距離まで安宅船は接近しており。これは緊急回避したら何人か振り落としちゃいそうだったので……いっそのこと、乗ってる小舟の船体を強化した私であった。
回避できないなら、ぶちかませ! の精神である。
こっちは魔法で強化してあるのだから、壊れるのはあっちである。
『脳筋……』
プリちゃんの呆れ声と共に安宅船と小舟は衝突し……。小舟が、突き刺さった。安宅船の平らな船首に。深々と。