初授業
信光さんとの予想外の出会いはあったものの、当初の予定通り授業を始めることにする。
それはまぁいいのだけど三ちゃんや十ちゃん以外にも、信光さんに、どこから話を聞きつけてきたのか林秀貞さんや柴田勝家さん、佐久間信盛さんまでもが集まってきた。
う~ん、まずは基本的な読み書きや簡単な計算からと考えていたけど……。ここまで戦国武将が集まっているならいっそのこと軍事学の授業をするのもいいかもしれないわね。
というわけで。
私は地面に手を突いて、魔力を流した。
地面が四角く盛り上がる。寸法的には縦5メートル横2メートルほどか。その盛り上がった土に『地形』を作っていく。基本は平地だけど端に大きな川が流れるように。
分かり易く説明すると図上演習のときに使う立体地図みたいな感じだ。
『いや全然分かり易くないですが? 人口の1%も分からないと思いますが?』
こんなに分かり易い説明だというのに。解せぬ。
解せぬりながらさらに魔力を通し、超小型のゴーレムを錬成する。普通のゴーレムは岩で作るけど、今回は砂の粒子で作る感じで。
超小型ゴーレムの大きさは数ミリ程度。形は人型で、ちゃんと騎兵は馬に乗っているし重装歩兵は盾を持っている。それがおよそ13万。あらかじめ個々の動きはプログラミングしてあるので、『戦況』に合わせて自動で動いてくれるはずだ。
≪……小さいとはいえ、自立型の土人形を、これほどの数準備するとは……≫
『やはり主様の真骨頂は繊細な魔力操作ですね。無駄に高い戦闘力で忘れがちですが、本来は研究職なんですよね』
無駄に高いって。戦闘力は高ければ高ければいいじゃないか。研究者だって竜殺しの英雄の称号をゲットしたっていいじゃないか。
『脳筋』
≪脳筋≫
解せぬ。
まぁそれはとにかく集まった皆さんに対して説明をする。
「せっかく織田家が誇る勇将が集っているのですから、今日は南蛮において最も有名な戦の再現をしたいと思います」
「ほぅ! 南蛮の!? それは見逃せませぬな!」
ずいっと身を乗り出してくる柴田勝家さん。ノリのいい青年である。
今回の図上演習はカンネーの戦い。かの天才ハンニバルがローマ軍を包囲殲滅した芸術的戦闘だ。後の軍人が再現しようとして大抵失敗するやつ。
ちなみに最近はカンナエの戦いと言うらしい。昔はカンネーの戦いだったのに。
こういうことは長いこと軍オタをやっているとよくあるのだけど、頻繁に変えるのは勘弁していただきたい。カンネーはまだしもジュットランド沖海戦は酷い。ジェットランド沖海戦やジャットランド沖海戦なら表記揺れと言うことでまだ分かるのだけど、最近はユトランド沖海戦になっているし。どういうことやねん。別物やんか。『たまには知識の更新するかー』と新刊読むと大混乱するのでやめていただきたい。
『はいはい』
全世界100億人の軍オタの嘆きが四文字でぶった切られてしまった。解せぬ。
「ほぅ、これは見事な人形ですな」
「なるほど川を使って敵の動きを制限すると」
「敵味方あわせてこれだけの騎馬を運用するとは……」
「真ん中の部隊が敵の突撃を受け止めると。ここまで押されてもなお逃げ出さないとは……。忠誠心の欠片もない足軽では無理ですなぁ」
「傭兵も、命が惜しくなれば逃げ出しますからな」
「となると、やはり武家の二男坊や三男坊を集めている若様の先見の明は正しかったと」
「活躍すれば土地がもらえるとなれば奮起もしましょう」
「銭と土地が必要なのが欠点ですなぁ」
有名な戦国武将が立体地図を囲んで真剣に議論している。戦国マニアに見せたら金が取れそうな光景以下略。
『……今さらではありますが、地面から立体地図やゴーレムを作っても大して驚かれていないのがまた……』
≪やはり日々命のやり取りをしている蠱毒連中は神経が図太くなるのか……≫
蠱毒。虫などを壺に入れて共食いさせ、最後に残った一匹を呪物として使う趣味の悪いまじないだ。
戦国時代を蠱毒扱いするのはやめていただきたい。いや狭い島国で100年くらい殺し合っているのだから否定しきれないところだけれども。