第5章 エピローグ ???
その男は、一国の主であった。
主でありながら、何の実権も持っていなかった。
しょせんは家臣に追放された父の代わり。
中央集権化を推し進めようとした父が邪魔になり、都合のいい操り人形として準備されただけの傀儡。自分の意志を持つことなど許されず、お飾りであることだけを求められた。
男の国は、貧しい国であった。
主食である米が育ちにくい。育ったとしても、すぐに災害でダメになる。川の氾濫、大雨、冷害、酷暑……それらがもたらす収穫の減少と、飢饉……。そして、原因の分からない風土病のせいで田畑――特に水田を作ることが難しい。
山に囲まれ、海がないせいで貿易もできず、特産品らしい特産品もない。金山があることが唯一の救いだが、好きなだけ掘れるわけではないし、いつ鉱脈が枯れるか分かったものではない。
およそ『良い国』ではない。
豊かな国ではない。
国としての面積は大きくとも、石高は低い。使える場所が少ない。盆地はすぐに洪水で沈む。そんな、どうしようもない国なのである。
だが、男の故郷だった。
男の生まれた国だった。
たとえ周りの国より貧しくとも。たとえ周りの国が羨ましくなろうとも。男は、この国を捨てる気にはならなかった。この国に住まう民が生き延びるためなら、どんなことでもしてみせると決意した。
飢え死にそうな者がいるならば、余裕のある者から搾り取り、分け与える。
国全体が飢えているのなら、余裕のある場所から奪い取る。
たとえ多くの人間から恨まれようが。たとえ後の歴史で悪逆の徒と罵られることになろうとも。自分は、やらなければならない。
国主としての実権を獲得し、この国を、さらに豊かにする。
男は、決意した。
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